29.問答
少女の怪物は、彼と共にあることが望みだった。ただ、それ以外は望まない。それだけで十分だったのだ。
だが、現実は無情だった。囚われた少女を待ち受けていたのは、熾烈なまでの拷問だったのだ。
「ねぇお姫様? そろそろこちらの要求。飲んでくれる気にはなったかしら?」
蜂の女王。リリカ・エルダーシングは、妖艶に微笑みながら、そう問いかける。怪物は変わらず、目に涙を浮かべながら、イヤ。イヤ。と、首を横に振るだけだった。
リリカはそれを予想していたのだろうか。まるで聞き分けのない子どもをあやすかのように、ため息混じりに怪物の頬へ触れた。
「お姫様。お姫様? 私はね。何も難しい事は言っていないわ。ただ、彼が来たら話しかけて。それで、こう言えといっているの。私と一緒に、リリカの元で暮らそう。って。そうすれば、誰も傷つかないのよ? 分かるでしょう?」
リリカの言葉に、怪物は下唇を噛む。
「それで……私とレイは……お前の物になる。そんなの……やだ」
「……駄々をこねられる立場だと思っているの? 貴方の王子様なんて、すぐに殺せるのよ? 貴方の望みは、彼といること。そこに私達と住むってカテゴリーを入れれば、貴方達は助かるの。後は……貴方の肉を。血を。子どもを。私達に献上してくれればいい」
「子ど……も?」
その単語に、怪物が反応する。リリカはただ舌なめずりしながら、怪物の変化を楽しんでいた。
「彼と、子を成せば、純粋な蜘蛛神の子が生まれる。貴方と彼が幸せになれば、私達も食料を得られて、幸福って話よ。約束するわ。貴方の肉も頂くし、子どもも貰う。でも、命までは取らないと。同じ怪物で、私達は捕食者。貴方は食べられる側。本来ならば、こうして生きているなんて有り得ないのよ?」
「あ……う……」
生かされている。それは、怪物とて分かっていた。このまま捕らえられていても、状況は悪化していく。彼が……レイが助けに来たとして。自分が人質に取られていればどうなるか。
「彼が貴女の目の前でなぶり殺しにされるのが見たいの? もうすぐ連れてこられるだろうけどね。手負いの彼が、私と洋平と斉藤。その三人に一人で勝てると思う? ねぇ、ちょっと考えれば……分かるでしょう?」
四肢をもがれた少女の目元に、リリカが指を当てる。眼球を、柔らかな指が慈しむように愛撫しながら、リリカは今一度、怪物に告げた。
「私のものになりなさい。そして、彼を説得して。貴女が話せば、彼も納得してくれるでしょう?」
絶対的強者の立場からの要求。それが、怪物の心を蝕んで……。
「レイも……助かるの?」
「そうよ」
「レイと一緒に……いられるの?」
「ええ、勿論よ」
「二人……きりで?」
「私の傍で、よ。貴方は私のもの。一に私で、次に彼。それさえ守ってくれるなら……後は自由よ」
「……わかった」
皮肉にも、それが彼女の心を固く決めた。
「……イヤ。あなたは……嫌いだから。レイにも酷いことしたから。イヤ」
「…………へぇ」
リリカの顔が、無表情になっていく。その恐怖に耐えながら、怪物は必死に言葉を紡ぐ。
「お父さんは……私の為にたたかってくれた。レイは……それが親だからって」
「お父さん……ね。蜘蛛の癖に子どもを心配するなんて……ああ、お父さんって事は、彼と同じか。元は人間なのね」
嘲るように鼻を鳴らすリリカを怪物はキッと睨む。
「〝ワタシ〟は、お母さんとかお父さんとかよく分からない。けど、あなたが私とレイの赤ちゃんを貰うって言った時……凄く嫌だった」
「…………」
ただ沈黙するリリカ。怪物は話を続ける。ここまで饒舌なのは、恐怖ゆえか。未来の我が子を守るためか。彼女自身理由は分からなかった。
「だから……ダメ。私は、あなたにあげない。レイのとこに……かえひ……ぎぃ!?」
だが、その語りも途中で寸断された。リリカの指が、怪物の目にめり込み、その眼球を掻き回した。
「あ……いぎっ! いだい! いだぁいいぃっ!」
「そりゃそうよ。貴女は私の毒に冒されている。怪物としての再生力は阻害され。本来は鈍い痛覚を活性化させてるんですもの」
苛立つように、リリカは指を曲げ、眼窩に親指も追加で挿し入れる。
「元々人である私達ならいざ知らず。名前もない蜘蛛の怪物が人の心を残してるなんて……喜劇だわ」
苦痛の悲鳴を上げる怪物を無表情に見下ろしながら、リリカは指二本を蠢かす。プチュ。クチュ。という音が、寝室に轟いた。引き抜かれたリリカの指は真っ赤に染まり、粘性なゼリー状の何かがこびりついている。蜂の女王は、それをまるで極上の珍味でも味わうかの如く口に持っていき、ペロリと一口のうちに飲み込んだ。
「……刺激的な味ね。片目から血を滴らせる乙女。中々絵になるわ。ところで、私、偶然にも今だけ耳が遠いのよ。貴女の返事が聞こえなかったわ。もう一度。お願いできる?」
「あ……ぎ……」
真っ赤な涙を流しながら、少女の怪物はリリカを見上げる。
「私のものに……なりなさい。ね?」
にっこりと笑うリリカ。それに対して怪物は、震えながら首を横に振る。
「レイとだけがいいの。私を傷つけていいのは……レイだけなの……」
返事は変わらなかった。リリカはそれを聞くやいなや、少女の顔へ……抉られた眼窩に己の唇を近付けていく。
軈て。勢いよく湿った何かを啜り上げる、下品な音が響きわたった。
「あがっ! あぎぃ!? や、やだっ! いだい! いだい! いだいいだいいだいいだいぃいぃ!!」
にゅるりと、長い舌が、少女の怪物の傷口を嘗め回し、ほぐし、広げていく。頭の内部を犯されるような痛みに少女はもがこうとするも、それに力はない。手足がなければ、抵抗のしようがなかった。
「……別にね。すぐに返事を貰えるとは思ってなかったわ」
チュポン。と、音を立てて唇を離したリリカは、艶かしく己の口元をなぞる。真紅に染まったあどけなくも妖しい口が、今は喜悦で三日月を作っていた。
「虐めてあげるわ。辱しめてあげる。私のものになるって言うまで……徹底的にね。……耐えられるかしら?」
歪んだ笑みを浮かべながら、リリカは少女の怪物に手を伸ばし。そして……。
「お願……い……もう……やめ……」
「止めないわよ。今お菓子作りの最中なんだもの」
手足をわざわざ再生させられた。何度も。何度も。何度も切り落とされる。暖炉にくべる薪のように積み上げられた少女の手足をリリカは冷笑と共に眺めていた。
「も……んぐっ……」
喉奥に、蜂の死骸を詰められた。噎せる少女の怪物の口に、リリカは笑いながら指を突っ込んだ。
「いい子だから飲みなさい。ゴックンよ」
「ん……ぐ……」
そんな無慈悲な命令と共に。
レイの血肉以外を口にした事のなかった少女が、初めて胃に入れたものが、それだった。涙を流す少女を、リリカはただ撫でる。
「次は……生きた蜂何てどうかしら? もがいて刺されて。天国が見えると思わない?」
それはまさに、悪魔の囁きだった。
耳を犯された。細く細く引き伸ばした蜂の脚が、鼓膜を突き破り、そのまた奥へ。
渦巻き管に届いたかと少女が錯覚した所で、リリカは指を一気に引き抜いた。
「片手じゃつまらないわね。両手でやってあげる。耳の中から、いい子いい子してあげるわ。耳掻き――。足利がおイタした時、よくやってたのよ。あの子、チビっちゃうくらい喜んだのよ?」
「ひ、ひぎ……、やめ……痛い……痛いぃい!」
直後。少女の頭の中で、おぞましい音が反響する。それは、耳掻きというには、あまりにも暴力的すぎた。
「ぎ……が…………あっ……」
骨を折られた。腕の一本等といった生易しいものでは勿論ない。全身を複雑に細分する骨の一本一本。下手すれば、一欠片ずつを、リリカは容赦なく握り、踏み、絞め、砕き続けた。
顔は避けたほぼ全身。当然再生を阻害した結果に出来上がったのは、最早顔だけが少女の、ただの肉塊だった。
その姿は、さながらさんざん使い潰された挙げ句、打ち捨てられた操り人形。
「……ああ、失敗したわ。紐と棒を用意すればよかった。そしたらもっと、らしいものになったのに」
残酷な殺戮遊戯は、いよいよもって狂気の度合いを加速させていく。
臓物を引きずりだされた。ヌラヌラと光るそれを一頻り弄んだ後に、リリカは不意に目を輝かせ。
「そうだわ。内臓より、もっと取り出しがいがあるのが残ってたわね」
そう言って、鋭利なメスを思わせる手が、少女の下腹部を破壊して……。
「ま、待って……そ、それだけは……!」
「……どうせ再生はさせるもの。子宮を直接クチュクチュしてあげる。彼にも……触れられた事はないでしょう? あら……いいわね。その絶望顔。悲鳴だけで、マンネリしてたの。まだまだ楽しめそうでよかったわ」
「やだ……やだぁぁああぁ!!」
悲しみに満ちた少女の悲鳴は止めどなく。終わらぬ凌辱は続いていく。
少女の再生力は本来ならば破格のものだった。だが、今回ばかりはそれが裏目に出た。
リリカにとって、少女は食料で、玩具だった。故に休む暇はなく。少女の美しい身体は、ありとあらゆる拷問で壊されていく。
悲鳴は既に枯れ。
思考は混濁し。
心はへし折られた。
暖かな思い出にすがろうとしても、それはすぐに中断されてしまう。やがて……
「レ……イ」
少女の怪物は、最早喋るのすら難しくなっていた。手足は相変わらずもがれ、挙げ句喉笛を潰された状態で放置されているのだ。
蜂の女王の姿はない。今は何処かへ行ってしまったのだろうか。
悲しすぎる安らぎの時間。昔つがいに送った告白を繰り返していた時の事だった。
あの女……山城京子が、少女の前に現れたのは。
「お前は……し」
「お前は死んだ筈だ……何てありきたりなこと。言わないでね。萎えるから。久しぶりぃ。元気にしてた? ずうっと不幸を願ってたよ?」
ケタケタと笑う女。怪物は、訳もわからぬまま目をしばたかせていた。
気配もなく。匂いもない。本当に突然、彼女は現れたのだ。
だが、怪物を驚嘆させたのは、彼女だけではなかった。
彼女と京子は今、さっきまでいた血臭の漂う寝室にはいなかった。そこが何らかの部屋である事に変わりはないが。
「ここ……は……」
ベッド、テレビ、本棚、洗面台。奥には扉。部屋の構造からして、水回りに繋がっているのだろうか。一言で表すならば、簡素なホテルだ。だが、それだけではない異質さもまた、そこには孕まれていた。怪物と京子が迷いこんだそこには出口はなく、黒い鉄格子で外界から隔離されていたのである。
「懐かしいわね。あの第四実験棟だっけ? あんたが産まれた場所」
部屋の天井に縦横微塵に張り巡らせた蜘蛛糸。それを眺めながら、京子は感慨深げに呟いた。かつては雑じり気のない純白であったであろうそれは、今は埃や塵をかき集め、灰色に染まっていた。所々に取りついている、赤黒い染み付きの繭も。ボロボロで傷みが目立つ床に、赤黒い大きな染みがべっとりとこびりついているのも。
何もかもが見覚えがある。少女の怪物は、そこに父親である、明星ルイの匂いを感じた。
「……どうして、私がここに?」
不思議そうな顔で問う怪物に、京子はニンマリと笑い。答えた。
「どうしても何も、ここがあんたの内的世界だからよ。あんた今……死にかけてるのよ」
心がね。と、京子は付け足した。
死ぬ。
たった二文字の単語を、怪物は他人事のように呟いた。実感がないのもあるだろう。怪物にとってそれは、あまり身近なものではなかったのだ。つい最近までは。
無言で対峙する二人。沈黙を破ったのは、京子の方だった。
「あたしはね。ぶっちゃけあんたより、レイくんが先に死ぬと思ってたわ。でも蓋を開けてみればビックリ! レイくんは何回死にかけても立ち上がるのに、あんたは……無理みたいね」
ガッカリ。と言うかのように、京子は肩を竦めた。失望の色が、鳶色の目に宿る。怪物は、何も言わなかった。
「あんたは……レイくんがどうなろうと構わないと」
「……ッ! そんな訳ない!」
声を荒げる怪物を、京子は楽しげにねめつけた。
「あらそうなの? ごっめ~ん。あまりにもあんたが……滑稽でね。あたしがいなくなって、もうレイくんとの間を邪魔する奴がいなくなったから、腑抜けになったのかなって」
「何……を……」
目に怒りを宿す怪物。京子はチロリと舌を出しながらも、嘲笑うかのように指を振る。
「だってさぁ。〝見てて〟大笑いしちゃったよ? あんたが悲劇のヒロインよろしく、レイくんに守られてるの。キャラじゃないわ~。マジ非日常だわ~」
「……知ったような、口を……!」
「……でも、腑抜けになったは……否定しないでしょ?」
口をつむぐ怪物を京子は無表情のまま睨む。軽蔑的な視線が、ひしひしと怪物を苛んだ。
「あんたってさ……何でレイくんが好きな訳?」
「……私が最初に好きになった。ワタシも……好きになった」
「酷い理由ね」
「理由なんて、どうでもいい。レイが好き。これは譲れない……!」
「ま、あたしに取られたけどね~」
「……今は、私のもの」
「……よく言うわ。囚われのお姫様のくせに」
古ぼけたベッドに、京子は腰かけた。軋む音と共に脚を組む。一連の動作に、怪物は自分にはないものを感じた。
「お前は……何だ。ここは私の心なら……何でお前がここにいる」
沸きかけた羨望を封じ込め、怪物は今一度京子に問う。だが、彼女は、「なんでしょねー」とはぐらかすだけ。そうしていやらしい笑みを張り付けたまま、おもむろに口を開いた。
「あたしはね。挨拶に来たの。レイくん。また貰ってくね~って」
「……なっ」
怪物の表情が、今度こそ憤怒に染まる。だが、それを見て尚、京子は態度を改めることなく。四肢が損壊した怪物を見る。
「だってさ。あんた、死にかけてるし? チャンスじゃない。人間らしくなった? 進化した? あたしから言わせれば、あんたがしているのは退化よ」
吐き捨てるようにそう言った京子は、スカートのポケットへ手を伸ばす。そこにはいつかの、銀色のメスが握られていた。
「天敵? 怖い? 笑えるわ。あんたにとっての敵って何? 怖いことって何?」
「私は……」
言葉が、怪物に突き刺さる。かつては気にもとめなかった他者の言葉が、今明確に彼女を責め立てていた。
「あんたが人質になってれば、レイくん。死ぬよ? あんたも死ぬ。そうすれば多分シオリンも、太輔叔父さんも。このままじゃ死んじゃうわね」
「ワタシ……は……」
かつては、己のつがいが全てだった。だが彼女は心を知ってしまった。世界が自分だけでは完結しない事を、果て逝く父親の腕の中で。
「だからさ。あたしがレイくんだけ貰ってあげる。あんたがどうなろうが知らないしぃ? 〝今のあたし〟は、間違いなくレイくんに不意討ちが出来るもの」
「私……は……」
かつては、守ることに全力を捧げていた。優先順位は変わらない筈だった。恐怖など知らなかったし、勝るとも思わなかった。
「いいよね? あんたは蜂が怖いんだものね? そこで無様に玩具になってれば……それでいいんだもんね? レイくんがどうなろうが、知ったこっちゃないもんね?」
「私は……!」
自分は果たして、囚われの姫である事を良しとしていいのか。自分は……。
その時、少女の怪物が見たのは、メスを振り上げた京子の姿だった。その時、怪物の中で、何かが弾けるような音がして……。
「そう……それでいいのよ。あんたとレイくんの天敵は……あたしだけよ。あんなぽっと出の蜂に……いつまで茶番をさせているの?」
メスは弾き飛ばされていた。四肢を瞬時に再生させた怪物は、膝をついた京子の前にて、揺らめくように佇んでいた。
「……お前は」
「……覚えてなさい。あたしは必ず戻る。作品を完成させるその日まで……。知らないでしょう? あたしはずうっと、アンタとレイくんの後ろにいたのよ?」
「……礼は、言わない」
対話は無粋か。あるいは意味のないものと判断したのか。少女の怪物は、京子を置いて、鉄格子の方へ歩み始める。
「どうして今になって、心に関わる怪物が出てきたと思う? どうして誰も入り得ない内的世界に、私がいると思う? つまりは……そういう……こと……よ」
ゴロリと、頭蓋骨が地面にぶつかる音が響いて。それっきり、京子の声は聞こえなくなった。怪物は一度も振り返らずに、腕の一振りで鉄格子を破壊して、外へでる。
次に訪れたのは、小さな喫茶店だった。
レトロチックで雰囲気のいいその場所には、店主やスタッフの姿は見受けられない。
無人の世界か。否、そこには先客がいた。
窓際の席から隠れるように。丁度死角になる位置に、彼女はいた。
腰ほどまで伸びた、艶やかな黒髪。前髪は切り揃えられ、その不気味なまでに整った顔立ちも相まって、まるで日本人形のよう。黒いセーラー服に身を包み、スラリとした脚は同じく黒いストッキングで覆われている。そんなことごとく黒を強調した格好とは対照的に、その肌は病的なまでに白い。そのキメの細やかさは、陶磁器を思わせた。
美しい少女だった。
血も心も凍りつくような、怪物と瓜二つの容姿をした、美しい少女だった。
「彼は……いつも窓際に座るんです。人が苦手なのに、道行く人を見ながら、寂しそうにコーヒーを飲む」
「……知ってる」
「それからね。ここのウェイトレスさん。多分、タイプなんだと思います。サービスでバウムクーヘンを貰ってた時。ドギマギしてたから」
「……ワタシも。私も。ちょっとだけ悔しかった。覚えてる」
そっと向かい合うように、二人の少女は席につく。それは姉妹にも。鏡合わせのようにも見えた。
「……私は、ワタシみたいに強くありません」
「……ワタシは、私は強いと思う。だってワタシとこうして、長い間共にある。ワタシに食べられても、こうして生きてる」
「……ちっぽけでも?」
「ちっぽけでも」
そっと手を繋ぐ。漆黒の視線が交差して、二人の少女は微笑み合う。
「ワタシだけじゃ……ダメ。だから……」
「はい。一緒に行きましょう。あの人の……レイの所に帰るために」
席を立つ。喫茶店が崩れていく中で、二人はより強く、手を握り合う。
内的世界の崩壊。彼女達は知るよしもないが、意識が現実に戻りつつある証だった。
それは即ち、その身が再び蜂の饗宴へと誘われるという事に他ならない。だが……少女の怪物に絶望はない。
囚われの姫ではない。彼の前では、お姫様でありたいとは思う。だが、それ以前に彼女達は……。
「私達は……怪物だから」
外的な恐怖など、無縁でなければならなかった。
恐れる事は、ただ一つ。彼と共に在れないこと。それを妨げるならば……。




