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名前のない怪物  作者: 黒木京也
外伝 Monster Days
104/221

名も無き者共の来訪≪後編≫

 少女は、血の滴る口許を拭いもせずに、青年にすがるような視線を向けていた。すると、青年の方は吹き出し、小さく抉れた首の傷など気にも留めないかのように、ゆっくりとベットから降り立つ。

 悠平は、ただその様子を震えながら見つめていた。見つめることしか出来ないのだ。

「何を……」

 しているんだ。その言葉が、最後まで出てくる事はなかった。喉に何かがつっかえている。そんな錯覚に陥っていた。

 青年は、そんな悠平の様子に目を細めた。

「……出来れば、そのまま眠っていて貰えたら、嬉しかったんですけど」

 そう言いながら、青年は悠平の方へ手を伸ばす。首から出ていた血は、既に流れてはいなかった。それどころか、青年の傷が、悠平の目の前で急速に塞がっていく。

「……おい、何の冗談だ?」

 乾いた笑い声が、無意識に悠平の口から漏れる。何だこれは? 何だお前は? 声にならない叫びで、表情が(おのの)いた。

 辛うじて出来たのは、必死で身体を引き摺り、後ろに下がる事だけだった。

「痛くしないんで、じっとしてて下さい……は、通じませんよね」

 苦笑いをしながら迫り来る青年の手。死神のそれを思わせる長い指を、悠平は何とか払いのけた。

「や、やめろ……やめろよ!」

 恐ろしく冷たい青年の手。その感触に背筋を凍らせながら、悠平は崩れそうな足腰に鞭を打つ。

 逃げろ。走れ。

 身体が、脳が、そう命令を下していた。ようやく動き出した身体で、悠平は転がるようにリビングへ。玄関へと逃走する。

 視界の端に、大きな冷蔵庫が見えた。ストックはある。そういった青年の一言が、身体に恐怖を伝播していく。

 あれに、一体何が入っているのだろうか。考えるだけ恐ろしいが、今は確かめる時間と余裕がなかった。


「これから、どうされます?」


 そんな折りに、背後からのんびりとした声が聞こえて来る。青年が追ってきているのだ。悠平は、後ろを振り返らずに、ドアを蹴り開けた。

 樹海の夜霧に乗ってくる匂いは、湿った木の香り。雨上がりの森を連想させる、安らぎに満ち満ちたそれですら、今の悠平には、酷く不安なものに思えた。

 縺れる足を動かし、前へ。真っ暗な道無き道を、悠平は死に物狂いで走り続けた。


 どれくらいの時間が流れた事だろう。何処とも分からない場所で、悠平は膝をついていた。乱れる息を整えながら、辺りを見渡す。

 青年の気配は、どこにもない。それに安堵しながら、悠平は深呼吸する。

 つい先程見た光景を思い出す。有り得ない光景が、頭にこびりついて離れない。

 まさか、夢を見ているのだろうか。頬を強く引っ張ってみるが、鋭い痛みが走るだけだった。

「なんだよ……あれ。意味わからん」

 今にして思えば、青年は何故、悠平を招いたのか。そこからして、不自然だったのだ。

 食べる。襲う。獲物は冷蔵庫にストックが。

 青年の言葉を断片的に思い出しながら、悠平は身震いする。連想される事実は動かない。自分は、食料として招かれたのだ。

 地球外生命体。

 青年は自分の事をそう称していた。あれは冗談でも何でもなく、紛れもない真実だったのだ。

「……うう……うぐ……」

 何かに取り憑かれたかのように、ブルブルと震え出す身体。脳裏に浮かぶのは、滴る血の赤と――。

「凛……」

 娘の顔だった。こんな時に、どうして思い出す。

 あの子が生まれた時を。あの子を抱く、妻の顔を。

 どこから本当で、どこからが嘘なのかも、悠平には分からないのに。

「クソッたれ……死ねないじゃねぇか……!」

 どうしようもない。

 妻に真実を確認するまでは。その後どうするのかも。あんなチャランポランそうな男に、そんなもの勤まるまい。

 絶望して死ぬのは、全て終わらせてからでも遅くはない。

 現れた〝怪物〟の存在が、皮肉にも悠平の決意を固めていた。そんなことを、本人が自覚している筈もないのだが、今の悠平には不確かなものだけで充分だった。


「……いたよ。レイ」


 自身の状況を再確認した時、背後から透き通るような声がした。恐る恐る振り返ると、落ち葉を踏み締めながら、さっきの少女が此方へ歩み寄ってきていた。。

 ほんの少しだけ近づけば、触れられる距離。不意討ちに等しい再会に、悠平は慌てて飛び退いた。

「く、くるな!」

 手近な枝を振り回しながら、悠平は無様に尻餅をつく。もはや形振り構わず武器として選ばれた枝は、数秒後には、あっさりと持ち手より先が切り落とされた。その少女の腕の一閃。ただそれだけで。

「あ……ひぃ」

 情けなく、短い悲鳴がした。こんなにも怯え、逃げ惑った事があっただろうか?

 職場の上司に叱責された時すら震え得なかった悠平は、今まさに蛇に睨まれた蛙のようだった。


「君は……いや――」


 舞い降りるように、青年が夜空より来訪した。おおよそ物理的には有り得ない、ゆっくりとした落下速度で。


「君達は――何だ?」


 少女と青年の手は、人ならざるものだった。黒く、禍々しい鉤爪には、白い粘着質の何かがこびりついていた。


「僕達は……何でもないですよ」


 悠平の問いに、青年は静かに答える。虚無しか映さないかのような瞳は、今は悠平だけを見つめていた。


「ただのお腹が空いた、怪物です」


 ――そうして、悠平の意識は、急速に刈り取られた。

 最後に見たのは、自分の首に顔を埋める、青年の姿。最後に感じたのは、自身の血が他者に呑み込まれていく様子と、バキン! といった、ブレイカーの落ちるような音だけだった。


 ※


「私が介入しない〝狩り〟は初めてですかね。……感想は?」

 来訪者がいなくなった翌日。ロッジのソファーでコーヒーを啜っていると、汐里が話しかけてきた。数日ぶりに会う師匠の髪は、目も眩むような金髪だった。

「ずっと見てたの? 悪趣味だね」

「ずっとではないですよ? 帰って来たのは、昨日の夜ですから。で、どうでした?」

「……やっぱり、慣れない。後味悪いよ」

 コーヒーの苦味が、舌を通過して、喉へ。身体の節々まで浸透していく。うなじがざわつくような、酩酊にも似た感覚の中で、僕は膝に乗った重みに苦笑いした。

 重みの正体は、説明するまでもない。今日の膝枕は僕がやる側だというだけ。少女の怪物は、ご満悦な様子だった。

「身体所有権の剥奪も、随分上達しましたね。能力が更に安定してきましたら、人里に降りましょうか。それまでは、こちらに入り込んで来る、自殺願望者やバカな旅行者で我慢して下さい」

「そもそも、人を襲うこと自体が、僕の精神衛生上よろしくないんだけど」

 そんな僕の僅かな反抗は、汐里の「では、餓死を選びなさいな」という仁辺にもない言葉で封殺された。


「貴方が怪物として覚醒してから、結構な時が経ちました。彼女から怪物の体液は貰えても、栄養素の一つである、血は補いきれない。それどころか、貴方は毎晩、彼女に血を吸われる……いい加減覚悟を決めて下さいな。新鮮な死体がポンポン見つかるわけもない。冷蔵庫のストックだって、いつまでもあるわけでもありませんし。補充するのも限界があるんですよ?」

「……わかってるよ」


 アモル・アラーネオーススの栄養源は、言うまでもなく、欲求対象者の血液だ。

 一方で、僕――。欲求対象者が生命を維持するためには、血液とつがいの体液が必要となる。普通の食事では賄いきれないそれは、不足してしまえば強烈な飢餓に襲われてしまうのだ。

「私が貴方の指導をかってでなければ、今ごろどうなってましたかね?」

「……耳が痛いよ」

 皮肉気な汐里の言葉を受け流しながら、僕は怪物の髪を指に絡め、弄ぶ。嬉しそうに目を細める怪物は、何だか猫を思わせた。

 体液は何とかなるのだ。が、怪物も血液を必要とする以上、彼女からばかり頂く訳にはいかない。

 必然的に、僕ら欲求対象者は、血液を補う為に、他者を襲う必要がある。

「ストックを延々と……」

「無理ですよ。そんなにポンポン輸血パックを掻っ払える訳がないでしょう? 下手したら面が割れますよ?」

 ピシャリといい放ちながら、汐里はグラスを傾ける。たっぷりと注がれているのは、冷蔵庫の中身……。貯蔵された血液だ。


「気持ちは分からんでもないですがね。ですが、そうしないと貴方は死にます。貴方が死ぬと彼女も死んで、そうすると私もルイの遺言が果たせなくなるので死にます……まるでドミノ倒しですね」

「嫌なドミノ倒しだ」

 もちろんそれはごめんだ。ごめんなんだけど……。

「全く、躊躇わず全部飲み干せばいいものを、ちょっとだけ吸って、後は帰すんですから……」

「仕方ないだろう。あの人、あんなに必死に逃げてさ。本心じゃ死にたくなかったんだよ」

 ましてや、娘を思っていたならば尚更だ。僕にはどうしても、人間を捨てきれていない部分があるらしい。

「身体所有権の剥奪を応用した、記憶操作は見事でした。ここから離れた場所に行くように指示したのもね。けど、会う獲物全てにそれを使う気ですか? 姿や正体を見られても? 浅はかですよ」

 冷たい口調で、汐里は説教を続ける。良くない事だとは、自覚している。

 京子のような例があるのだ。何かを間違えて、能力が効かない人間だって現れるかもしれない。それでも――。

「娘さんの名前を……呼んでいたんだ」

 あんなに酷い仕打ちを受けながら。

 理屈じゃない。それが親というものなのだろうか? 僕には分からない。

 ただ、あの人を見ていたら、僕の父さんや母さんも、もしかしたら和解する事が出来たのではないか? そう、思ってしまう。

「……甘い人ですね。ルイに似てきたかと思えば、そうでもない。それではいずれ、足元掬われますよ?」

「肝に命じて……」

 おくよ。とまで、言葉は続かなかった。不意に、汐里の人差し指が、僕の口を蓋するかのように当てられる。

 訳が分からず、戸惑う僕を弄ぶように、汐里は妖艶に微笑んだ。

「ほら、隙だらけです。私がここで爪を伸ばせば、貴方の鼻の下から、脳ミソまで、小さなトンネルが出来ていたでしょうね」

 スプラッターな事を言い出す汐里。互いに沈黙が流れる。僕の膝上で寝転んでいた怪物が、目だけで此方を伺っていた。漆黒の瞳に、燃えるような光を灯して、僕の足に爪を立てる。

 ……いや、違うよ。そんな甘ったるい状況じゃないから。僕の頭蓋骨が串刺しの危機なんだよ。そこで君にまでそんな目で見られたら、流石に困る。

 降参の意を見せるかのように、肩を竦めながら、僕は〝能力を解放した〟

「――なっ!」

 驚いた表情のまま、汐里の身体が宙に浮く。僕に当てていた人差し指が、今は検討違いの方向へ振り上げられていた。絡み付く糸が、汐里の腕そのものを拘束し、ぶらりと彼女を天井から釣り上げる。

 まるでマリオネットのようなその状況に、汐里は悔しげに口を尖らせた。

「いつの間に……いえ、前もって準備していましたか」

「怪物は、脅威にも隣人にもなり得る。だからこそ、警戒は怠るな」

 ルイの言葉をそのまま引用しながら、僕は溜め息をつく。

「汐里が僕にお説教する時は、もれなくお仕置きがついてくるからね。だから、ちょっと……罠を仕掛けてみた」

「……弟子の成長は嬉しいですが、そのしてやったりな笑顔は止めてくださいな。ぶん殴りたくなります」

 徐々に無表情になっていく汐里を、慌てて床に降ろすと、僕は怪物の肩をポンポンと叩く。動くから少しどいてくれ。という僕の合図に、怪物は少しだけ不満そうな顔を見せながら、僕の膝から頭を外す。最近聞き分けがいいのは、少しは僕を信用してくれているのか、ますます成長しているのか。謎だ。

「腕二本動かすだけで女二人を自由自在ですか」

「止めろその言い方」

 仕返しのつもりか、いつになく辛辣な汐里を受け流しながら、僕はキッチンに向かう。 へそを曲げたお師匠様には、美味しいコーヒーを進呈しよう。ミルクと砂糖はカロリー控え目のやつを半分ずつ。それが汐里のお気に入りだ。

「お詫びはブルーマウンテンでお願いします」

「……今度買ってくるよ。本日のコーヒーは、マンデリンだ」

 そんな軽口を叩き合いながら、僕は器具を準備していく。キッチンまでついてきた怪物が、コーヒー豆の入った瓶を弄くり回している。それを横目に、僕は窓越しに外を見た。爽やかな朝の光が入り込み、ロッジの雰囲気を明るいものにしているようだ。もっとも、僕の顔色は優れなかったが。

「さて、外で色々と情報収集して来ましたので、そのお話をするとしましょうか。悪いニュースと、いいニュース。どっちが先がいいですかね?」

「……じゃあ、いいニュースからで」

 大抵よくないものだということは、分かりきっている。だから、いいニュースから聞いて少しでも痛みを和らげる事にする。

「承知しました。ではまず。大輔の事ですがね。何でも、新しい部署から引き抜きがあったらしいです。事実上の昇進ですね」

「……こんな時期に?」

 訝しげな顔をする僕に、汐里もまた、肩を竦める。

「身内の昇進ですし、いいニュースかと思いまして。因みに、悪いニュースと無関係という訳でもないですね」

「……悪いニュースは?」

 何だか、汐里が言うと、いいニュースも悪いニュースに早変わりしそうで怖い。

「北海道に落ちた、アレですが……その写真を入手しました」

「……新種の怪物?」

「それです」

 差し出された写真を見る。

 アリクイのような頭。だが、その口にあたる部分には、 赤いヒダのような器官がある。 白い体毛の生えた小柄な体躯は、手足が長く、オラウー タンを思わせるようで……。

「突っ込む気が失せるね」

「同感です。因みに、これは警視庁から拝借したものです」

「……つくづく便利な身体だよね。僕ら」

 内心で大輔叔父さんに謝罪しながら、僕は写真を汐里に返す。

「こいつの所在は?」

「分かりません。ただ、いくつか目撃証言が寄せられています。青森、盛岡、仙台ときて、長野辺りで消息を絶ったようです」

「まさか、悪いニュースって……」

「正確には、推測ですかね。こいつが人を餌食にしているなら、都市部を目指すか、それ以前に北海道から出る必要もない。にも関わらず、こいつは南下してきている……」

 嫌な予感に、ぼくが頬をひきつらせていると、汐里は溜め息混じりに天井を仰ぐ。


「全ては推測です。が、あり得ない話ではないんです。こいつが目指しているのは、私達の元なのではないか……とね」


 何でこう、厄介事ばかり舞い込んで来ますかね。と言わんばかりに、汐里は目頭を抑える。

 ソッチヘイクヨ。彗星からの声が、僕の脳裏に甦る。あれは、そういう意味だったのか。それとも……。


「ああ、それと、コイツの情報は、大輔も知っています。といいますか、大輔は嫌でもこの案件に関わらなければならないでしょうね」

「……は? 何で!?」

 思いもよらない事実に、僕は堪らず聞き返す。すると汐里は、まるで憐れむかのような視線を僕に向ける。

「松井英明を覚えていますか? 彼が、地球外生命体の存在を、リークしたんです。結果、大輔はその急遽作り上げられた対策部署に就任する事になった」

 汐里のもたらす情報に、僕はただ絶句するより他はなかった。

 おかしい。何かがおかしい。

 僕の考えに同意するかのように、汐里は静かに頷いた。

「難しく考える事も必要ですが、今はシンプルに考えましょう。あの化け物が此方に来る確率は五分五分といった所ですが、確実に分かっている事が一つあります。このままでは……」

 震える手を必死に抑えて、汐里を見る。きっと彼女もまた、同じ事を考えている事だろう。


「遅かれ早かれ、大輔は死にます」



 ※


 帰りの車の中は静寂に道満ちていた。

 まるで悪い夢でも見ていたかのような感覚。斉藤悠平はそれに囚われていた。

 何も、思い出せなかった。

 つい夕べの事なのに、記憶が思い出すのを拒否しているかのようだ。

 分かっているのは、自分は何かをしようとして、あの樹海の入り口に行った事。それだけだった。

 原因だけは覚えている。妻の事だ。だが、それが思い出せて、他が何もないとは何事か。

 重い頭を振るっても、答えは出なかった。

 ただ……。

「なんで……止まらない」

 ブツブツと呟きながら、悠平は帰り道を急ぐ。逃げるように車を飛ばしている間、身体は壊れた機械のように震え続けていた。

 恐らく、あの樹海で、何かがあったのだ。そんな予想をしながら、悠平は溜め息をつく。

 今は、無性に家族に会いたかった。何も無いけれど、今なら文句やら色々とぶつけられそうだ。この身に巣食う、名も知れない恐怖が刻み込まれている間だけは。

 祈るようにハンドルをきる。その時だ。悠平の耳に、奇妙な声が聞こえてきた。


「プピュイ、ピピプピピタッ!」


 その言葉を何と表現すればいいだろうか? いや、言葉と言うべきものなのかすら、悠平には判断出来なかった。

 ただ、意味のない言葉の羅列が述べられた後に視界に飛び込んで来たのは……。

「あ……へ?」

 フロントガラスに、何かが張り付いている。大きさは、人間の子どもくらい。小柄な体躯には、白い毛がびっしりと生え揃っており、手足の長いその様は、(ましら)の類いのようだ。ただし、その顔は、常軌を逸していた。


 そいつには、顔がない。ただの赤いヒダが、不気味に蠢いているのみだった。


「ピュシ……ピュン、ピュデ。ピピシ、パピピュネ!」


 金切り声を上げながら、その生き物が、頭を振り動かす。幾度も繰り返される頭突きに、混乱した悠平は、思わず急ブレーキを踏む。そして――。


「や、やぁあだぁああ!」


 恥も外聞も捨てた悠平の悲鳴は、誰にも聞こえない。曲がりくねった山道から転がるようにして、悠平とその生き物を乗せた乗用車は墜ちていく。

 数秒後。

 金属がひしゃげるような鈍い音が、暗い夜道に響き渡った。



 ※


 ソイツは、男の身体から、何かを剥ぎ取っていた。

 潰れ、ぐちゃぐちゃになった死体を鉤爪がさらにほじくり返す。流れ出る血の臭いを嗅ぐような仕草をした後、ソイツは身体を震わせる。その手には銀色の細い糸がこびりついていた。


 ――かくして、来訪者は現れた。それがもたらすのは、混沌か、惨劇か。

 知り得るものはいない。ただ、不気味な金切り声だけが、月明かりの下で木霊していた。



「プピミ。ピュツ、ピュケ、ピピピュタ……」






名も無き者共の来訪 ~fin~

To be continued……

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