第11話 公開検証
公開検証は、ギルド前の石広場で行われた。
朝から人が集まる。漁師、行商、冒険者、外縁の住民、軍の兵。誰も声を張り上げない。昨夜の潮洞窟の一件で、笑える空気ではなくなっていた。
広場の中央には、同型の小型接続装置が二基並ぶ。
ロザが進行役に立ち、淡々と宣言した。
「検証目的は一つ。どの手順が安全か。個人攻撃は禁ずる」
先にグラム側が実演した。
短時間で出力を上げる軍式手順。見た目は華やかで速い。だが目盛りは、俺の視界で見る限り一気に七十を越える。
実演機が小さいから破綻しないだけだ。
次に、俺の番。
「潮目工房式。負荷抜き、逃し路、接地確認、最後に接続」
俺は一手ずつ説明し、セオに停止棒の位置を声出しさせる。ラウラは手順を板に書いて掲示した。
同じ出力目標まで上げても、目盛りは三十二で止まる。
群衆の中でざわめきが走る。
「数字は見えない。だが結果は見える」
俺は両機を同時に稼働させ、連続運転試験へ移る。半刻後、軍式機は接点が焼けて火花を散らした。潮目式は温度上昇が緩やかで、安定したまま動く。
ロザが記録係へ合図する。
「継続試験、潮目式の勝ち。次、証拠提出」
俺は台帳を開き、該当ページを広場へ向けた。
実測値と改ざん後の記録。上限超過の指示値。失敗責任を下位技師へ押しつけた履歴。
ページの端には、グラムの署名。
グラムが口を開く。
「その台帳は盗品だ。証拠能力はない」
ロザが即座に返した。
「台帳は軍払い下げ箱から発見。回収経路は記録済み。さらに潮洞窟の実測値と一致」
沈黙が落ちた。
兵の列の中で、昨夜現場にいた作業員が一人、前へ出る。
「……昨日、ジンの停止指示がなかったら、俺たちは死んでいた」
次に、もう一人。
「グラム殿は、危険指摘を毎回『臆病』で切ってた」
証言が重なる。空気が変わる。
グラムは表情を崩さないまま、最後まで立っていたが、肩の線だけが硬かった。
正午過ぎ、監察官が到着した。上位機関からの臨時派遣だという。
読み上げられた処分は短い。
グラム、職務停止。軍接収の一時解除。潮目工房設備の返還。
人々がどっと息を吐いた。歓声というより、張りつめていた糸が切れる音だった。
グラムは連行される前、俺にだけ聞こえる声で言った。
「お前は数字を信じすぎる」
「あんたは数字を都合で切りすぎた」
それで終わった。
夕方、工房に設備が戻る。
乱暴に扱われたらしく傷だらけだったが、直せる範囲だ。看板も戻った。角が欠けている。
セオが欠けた部分を指でなぞる。
「これ、直す?」
「残す。忘れないために」
ラウラが帳簿を広げ、淡々と書き込む。
「明日から通常営業。あと、公開手順書の配布依頼が二十件」
「二十?」
「増えるよ。みんな、止め方が知りたいから」
夜、工房の灯りを点ける。
赤い目盛りは十二。
低い数字を見て、ようやく肩の力が抜けた。




