学園襲撃(一)
一
糸音たち三人はヘルフェブルを出て夕凪邸へと続く道を歩いていた。
「糸音先輩は殺し屋なんですか?」
「いいや。今はもう殺し屋じゃないよ」
「じゃあ、普通の学生なんですね・・まぁ、でも流石に僕らより強いっすね」
「待てよ!お前はそうだろうが俺はわかんねぇだろ」
「いやいや、わかりますよ。見たところかなり修羅場くぐってる感じですし。こういうのって、僕結構わかるんですよねー」
「修羅場か・・たしかに色々あったのかな」
「一度機会があれば手合わせしたいっすね」
「殺しはなしで、私でもよければいつでもいいよ」
「ありがとうございます。ところで妹には会いました?」
(妹?・・・あー・・あの子か)
「会ったよ、図書室でね」
「そう・・ですか・・まぁ、あいつとも仲良くしてやってください」
「あぁ・・いい子だったしな」
「俺も仲良くしたいなぁー」
「先輩は怖いからって避けられてんですよ」
「んな!俺のどこが怖いんだよ!」
「そういうとこっすよ・・」
しばらく三人は談笑しながら歩いているといつの間にか夕凪邸の塀沿いまで来ていた。
「おっ!着いたな。いったん俺は学園に向かうけど糸音ちゃんと真宵はどうする?」
「そうですね、僕は・・」
ふと三人は屋敷の門前で足を止めた。
「おいおい、こりゃあ」
「先輩も気づきましたか・・いやな感じっすね」
三人は空気がひりつくのを感じた。漂う見えぬ殺気。
身構えながら糸音が口を開く。
「二人とも・・屋敷は私に任せて、学園へ急げ・・まさかとは思うが念のため向かってくれ」
「けど糸音先輩!一人じゃ・・」
「真宵、行こう」
真宵が言いあぐねていると槍士が言葉を遮る。
「ここは糸音ちゃんに従おう。それにさっき言ってただろ糸音ちゃんは俺たちより強いんだろ?なら大丈夫さ」
「・・・わかりました。では、せめてこれだけ」
真宵はポケットから携帯を取り出して糸音へと渡す。
「何かあったら連絡ください。駆け付けます」
「ふん・・えらく心配してくれるな」
「ええ、そりゃ今日会って、今日死なれたら寝覚めが悪いですから・・それに妹が悲しむかもしれませんし」
「そうか・・ありがとう」
「じゃあ、なんかあったら言えよ糸音ちゃん」
「あぁ、そっちは頼んだ・・すぐ終わらせて向かう」
糸音を置いて二人は学園に通じる林道に消えて行った。
「友情ですか」
「誰だ・・」
門の中、屋敷の前でいつのまにかフードの男が立っていた。
「これは失礼した。どうやら殺気がもれてしまっていたようだ。気づく前にお仲間もろともと思いましたがうまくいきませんね・・・それにしてもあまりに早い到着だ。未凪はとちったか」
「おい・・私はお前は誰かと聞いたんだ」
男は糸音を一瞥するとフードを取ってみせた。
「死に行く貴女には名乗りませんよ」
シュッ!
男の手から何かが放たれた。しかし、僅かに体をずらして糸音は避ける。そのわずかな一瞬で糸音は投げたものを視認した。
「針か・・」
「やるじゃないですか・・では!」
男は一瞬で距離を詰めてきて、糸音の背後を取り、後ろ蹴りで屋敷の方へと吹っ飛ばす。
ドーンッッ!!!
糸音は屋敷の扉ごと吹き飛び中へと転がり込む。幸い、ギリギリのところで反応できたおかげで受け身が取れた。
「今の動きについてこれるのですね。それに頑丈だ、貴女は・・おや?」
いつのまにか男の足には小さな針が刺さっていた。
「いい蹴りだな・・あんた、殺し屋か何かか?」
「いやはや、今の一瞬で受け身を取り、私の足に針を刺すとは一体貴女は何者ですか?」
「わたしは夕凪糸音、元殺し屋だ」
「夕凪?貴女は夕凪家なのですか・・はっはっ、こりゃあいい!ボスにいいところは譲りましたが、貴女と殺れるなら今回は良しとしましょう」
男は何が嬉しいのか笑みを浮かべながら糸音へとゆっくりと歩みを進める。
「こっちが名乗ったんだ、あんたは何者だ?」
「こいつは失礼しました。私の名前はフィ・オール・デリオ。夜光の衛のフィ・オールです」
二
「今日も異常なし!」
糸音たちがヘルフェブルを出てすぐの頃、メイは今日も一人、夜の森を見回りしていた。
「ん?」
そんな中、妙な気配を感じ前方の暗闇を目を凝らして見てみると、ガタイの良い男がまっすぐメイの方へ歩いてきて立ち止まる。
「発見」
「なんやお前?・・ここは立ち入り禁止やぞ。それにしてもなんか・・・怪しいやつだな・・」
メイは半生を野生の中で生きてきた。そして、その野生の感とやらが言っていた。こいつはヤバい奴だと。その男の出で立ちもメイに警戒心を与えるのに十分だった。
警戒しつつ、メイはいつでも対応できる様に身構える。
「ボスからのリストにあった雷々メイだな。俺はシーバ、早速だが死んでもらう」
そう言って、男は脱兎のごとく目前に迫ってくる。メイにシーバの拳打が炸裂する。
(ヤバッッ!!)
メイはかろうじて避け後ろへと距離を取る。
「やっぱ強いなアンタ。油断したら完全に死ぬなこれ。だ・か・ら・最初から全力や!」
メイが間合いを詰めシーバに電気を帯びた拳打を連打で打ち込むがシーバはそれに合わせてすべてを拳打で相殺。
閃光火花散る中で徐々にに押されていくメイ。
バチッバチッバチッバチッ!!!ドッドッドッドッド!!
「そんなものか電気少女!ぬるいぞ!」
「くっ!だ・れ・が、電気少女や!」
挑発に乗ったメイは更に速く!速く!拳打の威力と速度を上げる!
しかし、さしものメイでも体力の限界がきてしまい拳打が弱まった隙をつかれふっ飛ばされる。
「グワッッ!」
仰向けに倒されたメイにすかさずシーバが飛びかかり、強拳なる一撃がメイの心臓に撃ち込まれる。
ズドンッ!!
「グハッッ!!」
「終わりだ、すまない。数年経てばおそらくかなりの強者に成れたであろう。そんなお前と戦う未来も楽しかろうが、今、心の臓を止めた。さらばだ電気少女よ」
たった一撃、そのたった一撃の拳でメイの心臓は停止した。
三
図書室は落ち着く。私にとってこの学園は大事な場所で兄さんが守ってくれる私の大事な場所だからみんな好き。メイも、ちょっと怖いけど槍士も兄さんも先生もツグハさんもそして、糸音さん。あの人は不思議な感じがする。何故か初めて会ったという気がしなかった。理由はわからないけど。
「よし、今日はもう部屋に戻って寝よう」
譲葉は誰も居ない図書室の電気を消して扉をあける。
「譲葉!ここに居たのか!」
扉の前には真宵が息を切らして立っていた。
「兄さん?そんな慌ててどうしたの?」
「理由は後で説明する!とにかくここから離れるぞ!」
真宵が譲葉の手を掴もうとすると譲葉は距離を取る。
「どうしたんだ?」
「兄さんは・・・譲葉のことは・・ユズって言う。それに気配が違う・・あなたは誰?」
「あちゃー、やっちゃったか」
目の前にいる真宵の声と姿が別人へと変わり、若い女の姿になる。
「まぁ連れて行くだけだから、ばれてもいいか・・ってか気配ってそんなことまでわかるんだー。ほんとはねー、こういうことは心苦しいんだよねー。でもねー依頼だから、ごめんねー」
怪しい女はゆっくりと近づいてくる。ただならぬ気配に譲葉は逃げだした。
「あらあらー、かくれんぼかしらねー。面白いなー、かくれんぼ・・かくれんぼかぁ・・懐かしいなー・・よく子供の時にやったけ。まぁ、得意でもないけどねー。まぁ時間稼ぎにはちょうど良いかな」




