神薙夜戦(一)
一
「シャオと連絡がつかない」
翌日、糸音達は宿でシャオを待っていたが、日が傾きはじめて、夜になっても一向に現れなかった。
「これだけ待っても現れない。館で何かあったのかしらね」
「おそらく、その可能性が高い。時間も迫ってる・・・よし、仕方ないが計画は変更だ。涼香とメイは今から神薙の館へ向かってくれ。他は時間通り、火憐と俺で南京の教会にいる六花の集いを張る。すまないが、糸音は北栄で、京の警備隊の見回り組の者とあたってくれ。安心しろ、そいつはシャオの警備隊で二番手の男だ。十分に信用できる。俺はこれから見回り組に協力を依頼してくるが、くれぐれも無理はするな」
「わかった」
「あー、ケールさんやな。あの人は強いでー!母さんの戦友や!だから信用してええで、糸音」
「そうか。メイが言うのなら信用できるな」
そして話が終わり、涼香は先に部屋を出ようと扉を開け、振り返る。
「遊さん、火憐を頼みますわよ。くれぐれも・・」
「あぁ、わかってる。任せろ」
「メイ!行きますわよ」
「はい!今行きまーす!じゃ、糸音、またあとでな!」
去り際、糸音は何も言わずに小さく手を振る。
「俺も、もう出る。すぐにケールを連れて来る。確か今日は街の入り口での警備にあたっていたはず。糸音、本当に無理はするなよ。本当は俺が行ってやりたいがな、すまない」
「大丈夫。無理はしない、みんなで帰るためにね」
「そうだな。じゃ、火憐、少し糸音と待っていてくれ」
「ほい」
部屋は再び静かになり、残された二人は顔を見合わせる。
「暇だし、トランプでもしよっか」
ここ神薙の京にて一番長い夜が始まる。そして、この時は誰も、当の本人すらも思わなかったであろう。一人だけ次の朝を迎えられないということを。
ニ
「ここですわね」
涼香とメイは神薙の館、門の前へ到着した。時刻は夜の九時。宿を出て一時間ほど経ってようやくたどり着いた。そもそも神薙の街はかなり大きいので端から端まで移動するのに歩いて、おおよそ五時間半はかかる。そして、宿の位置は街の西側、館は真ん中に位置する。
「それにしても久しぶりに来たな、神薙の館。やっぱでっかいわ!まぁ母さんの付き添いで、数回入ったくらいだから、正直あんまり覚えてないんやけどな。」
館自体はそれなりにでかいがそれよりも敷地内、庭園の方が広すぎて、一度入れば土地勘の無い者なら直ぐに迷う。さらには同じような造りの建物、廊下が多いので、さながら迷宮のようである。
「さてと、お邪魔しましょうか。メイ、離れてはいけませんよ、ここは迷宮ですから」
「おっす!」
二人は屋敷の門を抜け、本邸へと続く長い庭園を歩く。そんな折、メイは違和感を感じ涼香に話しかける。
「なんかさ、静かすぎひん?いくら夜でも警備兵くらいおるやろ、たしか」
「ふーん。たしかに妙ですわね。あちらに見える、館の中も、外もやけに静かです。そういえば門番もいなかったですわね」
(まさか、襲撃はすでに終わった?時間はガセ情報。いや、それなら火の手もどこかで上がっているはず。死体もないし。それに人の気配がまったくしない・・・・)
涼香は何かに気づき振り返る。
「喧噪が・・聞こえない」
「え?」
涼香は入ってきた門へと走った。その後ろをメイが黙ってついて行く。
「どうしたんっすか?」
涼香は問いには答えず、門へと戻ってくると門扉が閉まっていた。閉まる音もしなかった、それに誰も居ないのに、この手の門が自動で閉まる事なんてまずありえない。
「ふん、なるほど。道理で外の音が聞こえないわけですわね。ここは結界の中というわけですか」
「結界やて!?ほな、罠に引っ掛かってしもうたってことっすか!」
「罠・・・たしかにそうですわね」
(結界を張れるほどの力。いや、少なくともあれではないですわね)
「なるほど。これならたしかにシャオさんを閉じ込めれますね」
「やっぱ、この中に母さんがおるんやな」
「ええ、では探しましょうか」
再び二人は館の中でも、ひと際大きい建物本邸へと再び歩き出す。
三
時刻、夜十一時半。火憐と遊は予定通り、南京にある教会へと向かっていた。
「あー、負けたのがつらい」
「なんだ、まだ言ってるのか。しつこいぞ!妹にポーカーで負けたくらいで」
「大事だろ!そういうことは!姉としての威厳がー」
火憐は遊の帰りを待っている間、糸音とポーカーをしていた。そして、ボロボロに、これでもかってくらいにボコボコに負けた。
「糸音、強すぎだ。あいつ、南の街にあるカジノで儲けさせてやろうかな。絶対稼げるよ」
「はっ!やめとけ、やめとけ。あそこは今、問題だらけだ。それに怪しい噂もある」
「ん?どんなの?」
「あそこのオーナーはな、夜月家と裏でつながっているらしい。資金を提供?してるんだっけか」
「夜月家がカジノに?」
「違う逆だ」
「えー、カジノ側に何のメリットが?」
「さぁな、しらねー。まぁ、あいつらが関わってくると厄介だからな。だからやめとけ」
「ふーん、そうだね。はぁ、そういえば今から会うかもしれない人も夜月だったね」
「うるさい。ほら、着いたぞ」
雑談をしているといつの間にか、木々に囲われた教会が眼前に現れた。
「ん?なんだ・・おかしい」
遊はすぐに違和感を感じた。いや、何も感じなかったというのが正解なのか。そう気配、人の気配がなかった。
「静かだね」
「静かどころか、誰もいないぞ。まさか、ガセか?」
その時、鼻に嫌な臭いを感じた。それは嗅ぎなれた、嗅ぎなれたくもない臭い。鉄が錆びた、どうにも嫌な臭い。
「これって・・」
「あぁ、行くぞ!」
二人は教会へと走り、扉を開けるそこには
肉しかなかった。
「何だこれは!?」
「うえ、やば・・」
そこには死んだ人、いや人だったそれ。それはまだ動いていた。バラバラになった人が無数に山積みになったり散らばっていた。
「動いているということは、まだ死んではいないのか?」
「いや、これは全部吸血鬼だ・・なれの果てか。見ろ、首だけで動いてやがる」
「たしかに。それにしてもこれはやりすぎだね。一体誰がこれを・・・もしかして六花さん?」
「いいや、あいつはこんなことしない」
(別の誰かが、介入したか・・敵は吸血鬼なのか?)
「そういえば遊ちゃん。たしか、志貴兄さんが、今、神薙では吸血鬼騒動も起こってるそうだよ」
「あぁ、だが、これだけやってのける吸血鬼。ただものではないぞ、こりゃあ。とりあえず火憐、お前はここで話せる者がいるか探してくれ。見たところ襲ってくることがない。もしかしたら、この山の中に生きている者がいるかもしれない。私は糸音のところに行ってくる。嫌な予感がする」
「はーい。まっ、嫌な仕事だけど、おっけー」




