憎幅
一
「メイ、やっと見つけたぞ!」
「ほへ?」
糸音は賑わう街の中、ようやくメイを見つけたが、当の本人は屋台の前で串物を頬張っていた。
「あっ!糸音やっと見つけたで!」
「いや、こっちのセルフだ」
「ほへぇ!ふぁい!ひほぉんのふん」
メイはリスの様に頬を膨らましながら、糸音へ手に持っていた串物を渡す。
「口に物を入れて喋るな、まったく・・・まぁありがとう」
糸音とメイは繁華街を進み歩いていく。屋台がそこかしこにあり、染物屋、居酒屋、芸舎と呼ばれる雑技団の公演なんかもやっている建物もあった。
「神薙は華やかな街で有名だと聞いたが予想以上の賑わいだな」
「せやろ!やっぱ故郷はええわ!今日も今日とて華やか、楽しいがあふれてる!そういえば、糸音は神薙には来たことあるんか?」
「いや、どうだろう。多分あるんだと思う」
「・・せやった、すまん。忘れてしもうたんやったな・・・よっしゃ!うちがこの街の楽しみ方、教えたるわ!」
そう言ってメイは糸音の手を引きながら笑い闊歩する。
しかし、そんなメイとは裏腹に糸音はこの神薙に来て、妙な胸騒ぎを感じていた。
それが何なのかわからないが、今は任務の事は忘れて楽しむことにした。
しばらく街を散策していると、ある絵描きが路上で絵を売っているのを見つける。何気なく糸音達がそこを通りかかると、絵を描いていた笠を被った女に声をかけられる。
「そこのお二人さん。良かったら、絵をお描きしましょうか?なーに、安くしときますよ」
「ふーん、糸音せっかくだし行って来たら、うちはこの辺におるから!」
「・・そう、だな」
そう言われて、糸音は絵描きの女がいるシートへと近づく。よく見るとシートの上には数多の絵が所狭しと並んでいた。
「おっ!お嬢さん一人ですか。ありがとうございます。では、そこに座ってもらえますか」
糸音は絵描きに指示されてシート上にある椅子に座る。
「ポーズはなんでもいいですよ」
「まぁ・・・このままで」
「わかりました!では、あんまり動かないでくださいね」
そう言うと絵描きは手に持ったキャンパスへと描き始める。糸音にとっては全く動かないでいることは朝飯前だ。
そんな時、ふと、この場に似つかわしくないモノに目が行く。絵描きのすぐ後ろの壁に刀が立てかけてあった。
(絵描きでも自身を守るために持っているんだな)
「絵描きの方でも刀って持つんですね」
「・・・ええ、まぁ最近は物騒ですから。それにしても、一ミリも動かないなんてすごいですね!描きやすくて助かります。何かやってましたか?」
「はい・・まぁ・・」
流石に殺し屋とは言えずに糸音は口ごもる。
「まぁ、人には言えない事情もありますよね」
一瞬、空気がひやりとして、絵描きと糸音の目線が合う。
「失礼ですが・・・何処かでお会いしたことはありますか?」
「いや・・・ごめんだけど、わからない」
「そうですか。さて、完成しました!」
糸音は先ほどの妙な気配は気のせいだと思い、絵を受け取る。
「ありがとう。それにしても上手いな、あんた」
「いえいえ、それほどでもですよ。では、縁が会ったら・・また会いましょう」
「・・ん?そうですね」
糸音はまた妙な気配を感じたが、気のせいだと思い絵を手にメイの元へと戻る。
「描けたん?」
「あぁ・・ってまた食ってるのか」
「だって美味しいねんもん!」
「はぁ・・」
(メイといるとやっぱ飽きないな・・それにしても何だったんだ?)
糸音は振り返ると絵描きは別の客相手に絵を描いていた。
「気のせいか・・・行くぞメイ」
二
「・・・・」
夕暮れ時、絵描きの女は片付けを終え、荷物を抱えて少し暗い路地裏を歩いていた。
往来から離れ、静寂な少し路地裏に唐突に霧が立ち込める。
「また、お前か」
夕暮れ時にはまだ早い暗闇。霧の中、一人の喪服を着た男が現れる。
「ひやりとしたぞ。それで確かめれたのか?」
絵描きは現れた喪服の男を睨むが、すぐに顔をそらす。
「あぁ、奴は覚えていなかった。また一層、私の中の熱が増した・・・・本当に抑えるのが、たいへんだった。奴の顔を間近で見たとき、刀に手が行きそうだったが、絵を描くことに熱を注ぐことでなんとか凌いでいた・・だが」
会話の途中、霧立ち込める路地裏に4人の屈強な男が現れる。
「おい、姉ちゃん。金を置いてきな!」
「ぶち殺してほしくなかったらな!・・・でも、なんだ、近くで見ると偉く綺麗な姉ちゃんだな。よし、遊んでから殺すか」
「・・・・」
男たちが近づこうとしたしたその時。ほんの一瞬、音もなく、男たちの体は斬り刻まれて路地裏に転がる。そんな様子を喪服の男は感心するように眺めていた。
「ほう、見事だな」
「つまらないことしやがって。どうせ、お前の差し金だろう」
「すまないな。だが、これで少しは晴れたか?」
喪服の男の言葉に絵描きは凄まじい殺気を放ち、刀を抜くと喪服の男を斬る。
しかし、それは空を斬っただけだった。
「こんなことで晴れたか、だと・・・この怒りは、この復讐の熱は、奴を斬るまで晴れることはない!わかったら、もう私の周りをうろつくな・・邪魔をするならお前も斬る」
静かなる、ドス黒い殺気が立ち込める。しかし、喪服の男は姿を見せず、霧が晴れ、路地裏の暗闇の中から声が響く。
「邪魔はしない。お前と夕凪糸音、二人だけの場を設けてやる。邪魔が入らない二人だけの復讐劇をな・・・」
路地裏には再び静寂が戻った。絵描きは刀をおさめ、一息つくと静かに路地裏から往来へと歩き出した。




