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天使の探究者  作者: はなり
第二章 前日譚

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したいこと


糸音は自身が数日間過ごしたであろう病室のベットの上、一人座っていた。

 

「どうしたんだい?」

 

窓の外を見ていると、いつの間にかエオールが病室の扉にもたれかかっていた。

 

「いえ、お世話になった病室でただ黄昏ているだけです。それよりもエオールさん、色々とありがとうございました。おかげでまだ生きていけます」

 

「いいや、私は治しただけだ。礼を言うならツグハに言いな。最初に見つけたあの子にな」


「はい、それでもエオールさんには礼を言います」


「そうかい・・・。糸音、一つ覚えておくといい。人はね一人では生きていけない、どうしてもね。病気っていうのは人を変えることもある。今まで一人で生きてきた人間でも、どんなに強い人間でも、いざ病気になってみると一人ではままなら無くなる。そう言う人達はね、だいたいみんな退院後、考え方が変わるんだよ。多分、一人の時間が増えるからだろうね。病気っていうのは自分を見直すいい薬になるんだ。まぁ君が変わってしまったのかは私にはわからないけどね」

 

「エオールさん・・・私もわからないんです」

 

「そうだろうね。君には記憶の混濁が見られる。ついでにここで軽く再診しておくか。名前と異能と家族のことは覚えているな。他は何か、覚えていることはあるか?」

 

「人を殺したことは覚えています、というより殺した感覚があるんです。とても気持ち悪い感覚だ」


「なるほど。殺したことについてはどう思っている」


「正直、よくわからないです。でも、もし私が人を殺していたのだとしたら、私は罪を償うべきでしょうか?」


「ない」


「え?」


「必要ない・・・というのもお前が夕凪家であったなら、それは必要ないよ。夕凪家が請け負う殺しは全て悪に向けてだよ。だから、無駄な殺しはしていない。彼らは殺戮者や快楽殺人犯ではないからね。世のために自分らの手を汚して守っているんだよ」


「それでも、私は償うべきだと思います」


「そうかい、お前がそう思うならいいんじゃないか」


「はい・・・エオールさん、私はこれからどうしたらいいんでしょうか?」


「知らないよ。私はカウンセラーじゃないんだ。アフターケアまでやっていない」


「そうですか・・・」


「はぁ、まぁそうだな・・・何かしたいこと、やりたいことをすればいいじゃないか」


「やりたいこと・・したくないことならあります」


「なんだ?」


「殺しです」


「殺し屋をやめるのか。まぁいいんじゃないか。あいつもそれで家を追い出したりはしないだろうよ。夕凪家は家族思いなやつばかりだからな。それから他には、できればしたいことで」


「そうですね・・・」


糸音はふと、何故そう思ったのかわからなかったが、ふと浮かんだその言葉を口にする。


「学校・・・」


「ん?」


「学校へ通ってみたいです」


「なるほど、学校ね。いいんじゃないか。お前くらいの年の子はみんな行ってるだろうからな。普通の学校に通うでもいいし、それにお前の兄なら、学校だか学園だか経営してるだろ。そこへ行ってもいいだろう」


「そうですね。とりあえず兄さんに相談してみます」


「あぁ。色々聞けたし、これにて再診は終わり。外で待ちぼうけくらってるツグハのとこへ行ってやれ。晴れて退院だ。もうここへ通う必要はないよ」


「はい、最後まで色々ありがとうございます」

 

「私は何もしていない。でもまぁ、また何かあったらまた診てあげるよ。死ななきゃ治してやる」

 

糸音は静かに病室を後にした。残されたエオールはベットに腰をかける。


「糸衛・・借りは返したからな」



京の街、神薙で依頼を終わらせた糸見は憂鬱な気持ちになっていた。

 

「ボス、これで全部ですかね」

 

「あぁ、シーバの方も終わったみたいだ。すぐに合流しよう」

 

糸見の中には何年もの間、心の奥にある復讐という名の熱が小さく灯り続けていた。靄ついている気持ちがあの日から晴やしない。悪をひたすらに葬り続ける日々。いくら殺しても晴れない、むしろその燻る熱は静かに身を蝕んでいる気がしていた。

 

「ん?・・なんだ」


辺りを見てみるといつの間にか一面に怪しげな霧が立ち込めていた。

 

「ボス、気をつけてください」

 

すると、霧の中から一人の男が現れた。黒い喪服を着て、見るからに怪しい雰囲気の男。男が指を鳴らすとフィは霧の中に消えた。

 

「フィ!貴様、何をした!?」

 

「お前はそれでいいのか?」

 

男は唐突に糸見に問いかける。

 

「何の話だ?貴様は誰だ!」

 

糸見はわかっていた。男が何について問いかけたのかを、しかしそれを認めるのは自分の正義に反することだと。

 

「力が欲しいなら手にすればいい。私の依頼を受ける代わりに力を貸してやろう」

 

「生憎、悪党に依頼されるほど、我々は落ちぶれてはいない」

 

「私が悪党に見えると?」

 

「あぁ、貴様からは悪党が放つ特有の臭いが漂いすぎてるくらいだ」

 

「失礼な奴だ。しかし間違ってはいない。ぶれない様に自身の信念か正義かを持っているのだろう。それは素晴らしい事だ。だがそれだけでは救えない者もいるだろう」

 

「悪党に説法される筋合いはないね」

 

「一つ問おう。ならお前は我々を救えるか?」

 

「救ってほしいなら、最初から悪さをするなって事だな」

 

「だめだな。たとえ悪でも救いの手は取るべきだ、それでも本当に夕凪糸衛の弟子か」

 

糸見は驚いた。その名はもう聞く事がないであろうと思っていた。

 

「本当に何者だ貴様。我が師を知っているのか?」

 

「あぁ、よく知っている。だからこそわかる奴の理想もな」

 

「師匠の理想だと?」

 

「奴はな、あろう事か悪すらも救うことができると信じて行動していた男だ。終わりのない悪と善の拮抗を崩して、あまつさえ人の中にある悪を厚生しようとしていた。私は思うのだよ。果たして本当に悪がなくなって世界は救われるのか?悪と善のバランスが均等になっているからこそ世界は成り立っているとではと。ならそれを壊す事は悪ではないのか。どちらかに天秤が傾けば世界のバランスは崩れて終わるのでは。それを調整するのが正義の仕事なのではと。それすら無くなってしまったら世界はどうなるのだ」

 

「戯言をペラペラと、世界のバランスだと?悪を葬り世界平和を願うのが正義だろ」

 

「所詮は綺麗事だ。お前は薄々感じているはずだ。悪を裁き、正義をなす事が本当の正義なのかに疑問を抱いている。では、悪になりたくない者が気持ちに反して悪に落ちることはないと言い切れるのか?お前は」

 

「それは・・・」

 

「元々は善だった者も悪に転ずる。悪だった者も善に転ずる。もし悪が善になる手前でそれをお前達の勝手な正義で殺したとしたら?それをお前は正義と言えるか?」

 

「なら、私たちがやってきた事は間違いだと」

 

「間違いではない。それも大事なバランスを取るために必要な事だ、しかしそれでは足りない、殺さず生かす事が大事な事だ。ならそれを殺している貴様らは悪では?」

 

「私が悪・・」

 

「それにお前にはまずやる事があるのでは、忘れてはならない事があるだろ。力を独占してあまつさえ正義という武器で悪に振りかざしている世界を殺す元凶夕凪家を」

 

男の言葉は不思議と徐々に心に浸透していく。その時、糸見の中で何かが外れた。

 

「お前が真の正義を貫くなら。善悪の区別はもうつくな」

 

「悪は許さない。ただそれだけだ」

 

「では夕凪家は悪か?」

 

「夕凪家・・・夕凪志貴」

 

「奴はお前に何をした?過去にあっただろ、救えた筈の命をも見捨てた悪だ、この世を、脅かす悪だ」

 

「奴は許さない。薄れかけていた復讐なるものを、そして奴が悪になったのなら殺すには十分な理由だ」

 

男は糸見にある物を渡す。僅かばかり視認できるほどの細い糸。

 

「これは?」

 

「それであの男の力を封じれる。お前の師匠に貰ったものだ」

 

「何故貴様がこれを持っているのかは聞かんが、これは貰っておく」

 

「忘れるな本物の正義を」

 

男は霧と共に消えた。いつの間にか近くには仲間がいた。

 

「ボス!どこへ・・それにしても大丈夫ですか!あの男は」

 

「なぁ、フィ。お前にとっての正義とは?」

 

「え?そうですね・・守る心ですかね」

 

「なるほど、それも一つか。・・・フィ、シーバと合流しよう。大仕事を始める」

 

四月某日、ヘルフェブルにて行方不明者多発。吸血鬼の目撃情報相次ぎ。しかし、これを夕凪家が収束。その収束の夜、夕凪家襲撃。この襲撃の一報は裏の世界で瞬く間に広がった。

そして天与核は奪われた一週間後、各地で事件多発。そのすべてが異能絡みの事件。数日間で犯罪数が急増。今まで殺し屋について黙認していた地方警備隊、警察隊も協力し殺し屋に依頼する始末。夕凪家への風当たりは少しずつ悪くなっていった。

そして事態を収束するため、夕凪家当主、夕凪志貴は身内と同業者複数名を各地へ派遣。


第二章 前日譚 完


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