起
一
「志貴様、失礼します」
ツグハは病院で起こった襲撃の件を志貴に伝えるため屋敷へと戻っていた。
「ん・・あぁ、もう夜か」
志貴は夜になっていることに気づかずに、ただただ部屋の天井を見ていた。
「少し休まれてはどうですか?今は忙しい時期でしょう。私なら一週間は寝てなくても大丈夫ですから。その間にゆっくりと休んでください」
「いや、大丈夫だ。それよりも何かあったのか。こんな時間に来るなんて」
「はい、実は先ほど病院の方で襲撃がありまして」
「襲撃か、今時バカなやつもいたものだな。それで大丈夫だったのか?」
「はい、雑魚ばかりでしたので。それで一人捕えようとしていたのですが、途中からやってきたエオール様が殺してしまったので何も聞けませんでした」
「そうか、仕方ないな。まさか、院内に内通者でもいるのか。いや、患者か」
「はい。エオール様には院内を洗い出すように伝えました」
「そうか、ありがとう。ところで死体はどうしたんだ?」
「あーそれならエオール様が実験体に欲しいからと言ってたので預けました」
「なるほどね・・・いや、そういえばツグハ、襲撃者はどのくらい弱かった?」
「え?・・そうですね。目を瞑っても片手で殺せるくらいですかね」
「妙だな」
「妙、ですか?」
「あぁ、なんか引っかかるな。そいつら、何か言っていたか?」
「えぇ、少しだけ。たしか、志貴様の弱点を見つけたとか、その者を攫いに来たって。おそらく糸音様のことかと」
「病院・・・雑魚共の集団での襲撃・・弱点・・・ツグハ」
志貴は立ち上がり、コートを羽織って扉へと歩きだす。
「嫌な予感がする。病院へ向かおう」
「しかし志貴様、大丈夫なのでは?今は涼香様たちがいるんですから、よほどの事が無い限りは・・」
「そうだな。でも、もし僕の予感が正しいのなら、涼香は奴には勝てん」
「いったい、どういうことですか?」
「とにかく病院へ急ごう。愛車を出す、その道中で話そう」
志貴達は急ぎ屋敷に戻り車を出す。普段はあまり乗ったりしないのだが、緊急時、急ぎの様の時には必ず使っている。
「それで、どういうことなんですか?」
ツグハは助手席から志貴へと先ほどの疑問を問いかける。
「あぁ、ツグハは霊魂って信じるか?」
「霊魂ですか・・・まぁ異能があるなら霊魂もあるのでは、という考えですが」
「そうか。結論、いるらしいぞ」
「らしいって、えらく曖昧ですね」
「あぁ、実際見たことはないからな。でも昔見たことのある、っていうよりそういうのを研究していた知り合いがいてね。そいつの話はかなり面白かった。オカルトマニアって言うのかな、不思議なやつだったよ。それである日そいつが言ったんだよ、霊を見せてやるってね。だから、僕は楽しみにしていたんだよ」
「はぁ・・」
「そう、本当にね。それから呼び出されて行ってみれば、そいつが妙な術を使っていてね。降霊術っていうそうだ。知っているかい?」
「はい。たしか死者の魂を人間の肉体へ下ろす術でしたっけ」
「ざっくりとしたらそうだね。それでそいつが見せてくれたんだよ。でもね、その時の僕は何故か機嫌が悪くて、インチキだって言ってしまったんだよ。そしたら彼は大激怒してね、それ以降、会わなくなった。しばらくして再開したとき彼は僕を殺しに来たよ大人数でね。その時の状況と、さっき言っていた状況が瓜二つだ」
「まさか、それが理由で今向かっているんですか?」
「あぁ、それもそうだがもう一つ。彼はね死体を乗り移れるんだよ」
「死体を乗り移る?」
「というか本体がすでに無い。僕と再会した時、彼はすでに死んでいたんだよ。その時は大変だったね、敵が死なないから殺しても殺しても襲いかかってくるんだよね」
「考えただけで面倒ですね。それでどうやって勝ったんですか?」
「あぁ、全部ミンチにした。肉体が無ければ魂も乗り移れないと思ってね。全部ミンチにした後、彼の魂がどこに行ったのかは知らない」
「志貴様はそいつが生きていて、今回の襲撃者であると思っていると」
「話が早いね。そう、まぁあくまで感だけどね。まぁ、僕の感は良く当たるだろ。ほら、そうこう話しているうちに着いたね」
気づくと病院前に着いていた。志貴は車を脇道に止め、二人は病院へと向かう。
「あ、そうそう。さっきの話にでてきた今回の敵かもしれないそいつの名前はね、朝霜味霊。朝霜家で唯一、追放された男だよ」
二
「いつになったら起きるのですか?」
静かな病室、夕凪涼香は未だ眠り続ける糸音の頭を撫でながら呟く。
「それにしても、火憐もおバカというか子供というか。すぐにエオールさんに捕まってしまって。仕方のない妹ですね」
ガラ
「おや?戻ったのですか、火憐」
涼香は病室の扉の方へと向き直る。しかし、そこには見知らぬ男が一人静かに立っていた。
「あらあら、ノックもなしに。あなたは誰ですの?・・もしやナンパですか!まぁ、顔は好みじゃありませんが、問題は中身ですからね」
「あんたに用はない・・・」
男の声はひどく濁っていた。
「風邪でも引いたのかしら、ひどく汚い声ですわね」
「!?」
男は驚きの表情を見せる。どこからともなく現れた氷が足元から徐々に男の体を覆っていく。しばらくして全身が氷に包まれた。男は声も上げず、氷のオブジェと化した。
「うーん、これは駄作ですね。ここで砕くと面倒なんで外に出しちゃいましょう。ほいっと」
涼香は小さい体に見合わず、男のオブジェを軽々と持ち上げると窓から放り投げた。
ガシャンッ!!
「まぁ、大丈夫でしょう。それにしても最近良いコレクションが増えないわね、困りました」
「なんだ今の音は!?」
「親、志貴ではないですか」
いつの間にか病室の扉付近には志貴とツグハがいた。
「なんでもないですわ。今しがた無粋なモノを窓から捨てただけですから」
バンッッ!!
突然、今まで横たわって眠っていた糸音の体が跳ねる。
「やられたな。やはりあいつだったか」




