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天使の探究者  作者: はなり
第一章  始まりの夜

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学園襲撃(九)


「はいよ、おけー!じゃあ約束のマネー振り込んどいてね。私は当分、身を隠しながらチマチマやるんで、よろしく」


「・・・・・・・」


「ん?・・あぁ、まぁ、理由は聞かんでねー。縁があったらまた、よろしく」


「・・・・・・・」


ッピ

 

糸音と糸見の戦いを木陰から観戦していた人物が一人、波風紫織が依頼主への報告を終えたところだった。

 

「いやー、すごいね。こんな白熱した戦いが見れるなんて。それにしても糸音、生きてたんだね。久しぶりに会いたいけど、今は我慢っと。今日は儲けもんだねー、真宵君とも知り合えたし、こんなバトルも見れたし、それに凄いもの見つけちゃったし。まぁ私って、運だけはいいからなー。でも果たして、あれを見つけて運が良かったとは一概には言えないかもねー」



糸音は夢を見た。

夜、降り始めた雨の中、一人で街頭の下で立っていた。その雨はやがて雪になった。太陽は昇り、沈み、また夜がくる。それが繰り返し繰り返し、世界が廻る。街灯の下、その世界で糸音だけが置いていかれる。

 

「これは・・・いや違うか。置いて行っているのは私のほうだ」


そして電源が落ちるようにその光景は終わり、ブラックアウトする。

目覚めると糸音は白い天井を見上げていた。頭を押さえ、体を起こす。糸音は病室にいた。横を見ると、メイが静かに座りながら寝ていた。その体を見ると、至るところに包帯やら湿布なんかを貼っていた。

(コイツはどこへ行っても寝ているな。でも、無事で良かった)


「あれ・・そう言えば、どうなったんだっけ」


糸音は記憶をたどる。何故か、記憶の至るところに靄がかかっているような感覚だった。

 

「目覚めたか」

 

糸音が頭を抱えているといつの間にか、真っ赤な髪の黒いコートを羽織った女性が窓際にもたれかかっていた。

 

「咲夜・・遊さん?」

 

「へー、俺のことを覚えていたのか、いや思い出したのか。いずれにせよ嬉しいよ糸音、久しぶりの再会が病室とは、先日と同じじゃないか」

 

「先日?・・あー、そういえばあの時は私寝ていたそうですから・・・ところで、皆んなは?」

 

「そうだな。とりあえず全員生きているよ」

 

「良かった・・・そうだ!糸見は!」


「落ち着け、傷に響くぞ。言っただろ全員生きていると。もちろんあのバカ志貴もな。糸音、お前のおかげで助かったみたいだぞ」


「すいません遊さん。記憶が・・・あの後のこと全然覚えていなくて。なんか頭に靄がかかっているようなんです」


「なるほど。おそらく、急激な記憶のフラッシュバックによる反動だろうな。なら、私が順を追って結末を語ろう。まぁ、あの後遅ればせながらやってきたから、あの場にいた全員の話をまとめただけだがな」


そうして遊は一つ一つ、糸音へと語る。糸音と糸見の結末を。



糸音と糸見、鉾と盾、妹弟子と姉弟子、二人の戦いは唐突に終わりを迎える。

両者の糸は解け、全て火花と散った。辺りには何も残らず。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・」


「すごいな、やっぱりあんたは・・」


「いいや、ここはお前の勝ちだよ糸音。でも、まだまだここからだ・・糸はもう無いがまだ針が残って」


バンッ!!


「うっ!」


唐突に場違いな銃声が辺りに響いた。

その瞬間、糸見は自分の胸のあたりが熱くなるのを感じて手で触れる、そこからは血が滲み出していた。


「糸見!!」


バンッ!バンッ!


再び二度の銃声。糸音は咄嗟に反応する。どこからともなく飛んでくる弾丸を避け弾いた。


「真宵!」


志貴は咄嗟に真宵へと指示を出す。真宵は辺りを瞬時に観察する。銃声が鳴った時、一瞬だけ感じた人の気配はすでに消えていた。


「先生!だめです!もう気配がしない。クッソ・・戦いに夢中で辺りの警戒を怠っていました」


「いいや、俺も負傷しているとはいえ、気づけなかった。っくそ、やられた」


「糸見!」


糸音は銃弾を受けて倒れた糸見へと駆け寄る。


「くそ・・こんなつまらないことで・・」


糸見は心臓のあたりを撃ち抜かれていた。


「一体、誰が・・」


「ふん・・恨みを買うことなんて・・よくあることだ。残念だな、糸音。お前ともう少し・・・」


「大丈夫だ!私がなんとかする!」


「なんとかって・・やめておけ糸音。おそらく急所をやられているから・・もうじき死ぬ。だから私を救おうと思うな。もう十分だ・・心残りがあるとするなら、志貴を殺せなかったことか・・」


「無理なことはない!私なら治せる!」


「なんでそんな私のことを・・・」


「糸見は数少ない、師匠を知っている人だから!それに、それだけじゃなくて・・・あなたは私の姉弟子だから。あの人の元で育ったなら、志は一緒のはず。それに師匠なら、こんなことで諦めない!」


「お前・・・そうか・・・そうだな・・心残りはもう、ずっとあった。それはもう叶わない願い・・だから」


「もうしゃべるな!復讐は死へと向かうもので不の感情だって師匠も言ってた!不の感情は死を増長させる。だから、今は兄さんへの復讐より、生きることを考えろ!」


糸音は懐から糸を取り出し、糸見の傷口を縫合し始める。


(私ならできる、母さんに習った縫合施術なら!!必ず、助ける!)


それからしばらく静かな時が流れる。その間、糸見は驚いた。その糸音の手さばきは精密かつ確実に心臓の傷口を縫合していた。そして、糸音の手が止まり、施術は終わる。


「すごいな、糸音。さすがの私もそれはできない・・・縫合術か。ルシアール姉さんに感謝だな。・・・復讐は死へとか。たしかに言っていたな、あの人は。そんなことまで忘れて、私は復讐に囚われていたんだな・・・ありがとう糸音」


話終えた糸見は静かに目を閉じた。


「糸音、糸見は?」


「兄さん、糸見は・・だい・・じょうぶ・・ねてるだ・・け」


糸音の意識はそこで途切れた。


「糸音!」


「・・すぅ・・・すぅ」


「なんだ、寝ているだけか」


「先生!糸音先輩は!」


「大丈夫だ。あの縫合術はかなりの集中力を使うと聞いた。それをこんな連戦のあとでやったんだ。気絶してもおかしくない」


「よかった。終わったんですね」


「あぁ。でもまだ終わらない。いや、これは始まったのか・・」


「遅かったか?」


森の中から志貴たちのもとへ、ツグハと赤い髪の女性が現れた。


「糸音様!」


ツグハはすぐに糸音の元へと駆け寄り抱きかかえる。


「ツグハ、糸音は無事だよ。すまない、今回ばかりは僕が招いたも同然だ」


「いいえ、私も力になれずに申し訳ございませんでした。糸音様、お疲れ様です」


ツグハは糸音の寝顔を見ながら、優しく頭を撫でた。


「っで、志貴よ。説明してくれるか?・・まぁとはいってもここへ来る途中、観えたんだけどな。だから、説明というよりかは証明か」


「あぁ、遊。糸見が仲間を連れて、襲撃しに来た」


「随分と派手にやられたな・・・そうだ、先にこっちから悪い知らせがある」


「?」


()()が盗まれた」


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