学園襲撃(八)
(自分の中にある確かな正義。それをしっかりと持っていたはずだった。それが崩れたのはいつからか・・・そうだ、あの時か。大層なものを掲げたくせに、大切な人の救いになれなかった。あの時、私に力があれば、あの男を押しのけて、駆け付けることができた。弱い自分も、あの男も、許せない。たらればだって?・・そんなことわかってるさ。でもしょうがないだろ。何も許せないんだから。何も・・。私は復讐に燃えている。業火の中、一人。もし叶うのならこの業火を・・・誰かが・・・私を・・・)
「さっきから全然当たってないんだよ!やはり、まだ躊躇っているのか!このままだと本当に殺すぞ!」
糸音は針を放ちながら後方へと下がって、攻撃を躱す。
ドガッッ!!
糸見の拳が糸音の顔面に直撃し吹き飛ぶ。
「いい加減にしたらどうだ、異能を使え」
「ぺっ・・・使わないよ。私はこの戦いでは絶対に!」
「ふん、意識も絶え絶えのくせに良く言う。ならもういい、殺す」
糸見の目の色が変わる。それは冷たく、鋭い、殺意のこもったものだった。そして倒れていた糸音へとゆっくり近づく。それまで静かに見守っていた志貴は、声を大にして叫んだ。
「まずいな・・・糸音!本当に殺されるぞ!そいつはまじだ!」
「夕凪志貴!!もう遅い、お前の妹は死ぬ!糸音はここで殺す!!それで終わりだ全部、全部全部全部!!!何もかもな!!」
糸見は倒れた糸音の前で立ち止まり、持っていた針剣に力を込める。そして、目がうつろになって意識が朦朧としている糸音の胸に突き付けた。
「どう・・した?・・殺らないのか?」
「くだらん信念を抱えたまま死ね」
グサッ
針剣は静かに糸音の心臓を突いた。
二
(少し前に思いだした・・そう、思い出した色々と。それは師匠の記憶であり、
師匠と私にまつわる記憶。師匠から連なる絆の記憶、これはその中のある日の記憶)
「師匠」
「なんだい糸音?」
「師匠は針と糸の扱いに長けていますよね。それって誰かに教わったんですか?」
「針殺術は独学だよ。ただ、糸に関してはルシアールに教わったんだよ。彼女は僕の糸使いの師なんだ。僕なんかよりずっと糸の扱いに長けているよ。僕ではあんなに編むことはできないよ。でも糸音ならあるいは・・・。だから、僕よりも彼女に教わるといいかもね」
「そうなんだ、母さんが・・」
「あぁ、おっ!噂をすれば、ほら」
「あら、こんなところで二人そろってどうしたんですか?」
「日向ぼっこだよー、それよりも母さん。母さんって、糸の扱い師匠よりもすごいんでしょ!教えてよ!」
「はぁ、また余計な事を教えたんですね、糸衛さん」
「ごめんごめんルシアール。もし嫌じゃなかったら糸音に教えてやってよ」
「嫌なんてことありませんよ。そうですね、私が使う技は守り専門ですから。自分を守るためにも教えたほうがいいかしらね」
「やったー!」
「糸音。攻撃することだけが強さとは限りません。戦術には守りも大事ですからね。隙をつくための守り、命を守るための守り、誰かを守るための守り。糸音にも、いずれ誰かを守ってもらいたいですからね。私のとっておきを伝授しましょう」
「やったー!ねぇねぇねぇ、それってどんなの?」
「それはですね・・・」
三
ポタ、ポタ
糸音の胸から血が滴る。しかし、糸音の目にはしっかりと光が宿り続けていた。そして糸見との視線が交じり合う。
「なっ、なんだ・・何をした?なぜこれ以上動かない!」
糸見の持つ針剣は糸音を貫くことがなかった。糸音が胸に刺さった針剣に手を掛けようとしたとこで、針剣を引き抜いた糸見が後方へと退いた。
「ふう、ちょっと半信半疑だったが、念のため編んどいて良かった」
「何を言って・・・」
「私の心臓の周りに糸を編んでおいたんだよ。だから貫けなかった」
「そんな、糸で・・いや、そうか!」
「やっぱ知っているか・・そう、ルシアール・・いや、母さんの技だよ。糸を綿密に編み込み鉄壁で強固な盾を作る、糸の守り手。それを心臓の周りに編み込んだ」
「ふん、危ない橋だな。一歩間違えれば、死んでるぞ」
「そうだな。でも生きてる」
「心臓へは届かないか・・なら、それよりも強固で強靭な鉾で貫くだけだ!」
糸見は糸を無数に宙へと放つとそれを器用にも編み込んだ。糸と糸の隙間は消え綿密に強固に強靭に編み込む。それを針剣へと施す、まるで鉾の形へと。
「さすがだな、この戦いの中で瞬時に編み込む技術。誇らしいぐらいの糸使いだよ」
「それはお前も同じだよ。いくぞ、糸音!」
ダッ!
糸見は糸音へと駆け出した。神速、一瞬で間合いをつめ、手にした鉾を糸音の心臓へと突き刺した。
ドンッッ!!!!
鈍い音とともに火花が散る。そして鉾はまるでドリルのような回転をし始める。
「これは!!」
「さぁ!どうなるかな!」
鉾は目に見えない速さで糸の編み込みが解けていた。編み込んだ糸が同じ方向で編み込まれていた。その解かれる力がまるでドリルのような回転をみせていた。
「くっ!」
ジリジリジリジリ
火花を上げ加速する、守る力とそれを破ろうとする力。両者の気迫が辺りに散る。
「うおおおおおおお!!!!!」
永遠のように続くかと思われたそれは、ついに終わりを迎えた。




