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天使の探究者  作者: はなり
第一章  始まりの夜

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学園襲撃(七)


「すごいですね」


糸音と糸見の熾烈を極める戦いを目の当たりにして真宵を唖然としていた。真宵は正直、初めて糸音に出会った時、実力はなんとなく察してはいたが、これほどとは思っていなかった。さっき屋敷で会った時とはあきらかに何かが変わった。真宵が目で測る力量は確かなものだ。長年、志貴に叩き込まれた真宵は相手の実力を見抜くことに長けている。そんな真宵の師である志貴も驚くほどの変わり様。こんな短時間で糸音の身に何が起こったのかはわかない。ただ言えるのは強い、速い、ただ圧倒的に。だがそんな強さと速さに、むしろそれに負けずと劣らずの立ち回りをしている糸見もやはり強かった。


シュッッ!シュッッ!シュッッ!カッカッカ!!



刃が擦れ空を斬り、交わり時折小さな火花散らす。閃光のような二人の戦闘は苛烈を極めていた。両者引かず、途切れずの剣勢。しかし、両者未だに実力の探り合い。

 

「ここまでやれるなんてね糸音!」

 

「私も、こんなにやり合ったのはいつぶりかな!」

 

斬撃がぶつかっては消え、ぶつかっては消えが繰り返される。


「そろそろ、だね!」


そんな折、唐突に糸音の足が止まる。

 

「ん、これは!?」


いつの間にか、糸音の両足を針が貫通して地面に針が刺さっていた。


「気をつけなよ糸音。まぁ、とはいっても君はもう動けないだろう」

  

「なるほど・・神経毒付きの麻酔針だな」

 

「そうそう。さすがの君もこれには気づけなかったか。仲間にね、毒に詳しいやつがいてね。そいつのお手製さ。もしかしたらもうその毒は既に受けているかもだけど。もうじき全身に毒がまわり、身動きが取れなくなる。これであっけなく終わりだ」


「そうか・・・あいつのお手製ね。なら安心だ」


「・・!?」


糸音の体が前へ出る。そして、油断しきっていた糸見の顔面に鉄拳をお見舞いする。


ドガッ!!


糸見は受け身が間に合わず、そのまま後方の木へと吹っ飛び打ち付けられた。その衝撃によりぶつかった大木が豪快に倒れた。


「とりあえず一発か・・」


「お・・どろいたな、どうやった?」


糸見はすぐに起き上がり鼻血を拭ってゆっくり歩んでくる。


「どうやら、あんたの仲間のおかげで毒が効かないみたいだ。それがあいつのお手製なら尚のことなんだろう。耐性ってやつか」


「しまったな。そうか、そうだよな。あいつと戦って生きているのなら、そういうことも危惧しておくべきだった・・・しかし、ひどいな。女の子の顔を殴るなんて」


「ふん・・私も女だし。一緒だろ」


「はっは、理由になってねぇ」


バサッ!


糸見は着ていた上着を乱暴に脱ぎ捨て、腰に差していた小さな針を数本を手に持つ。


「安心しろ。もう毒なんて姑息な真似はなしだ」


シュシュシュシュシュシュ!!!!!


放たれた無数の針が凄まじい速さで糸音へと向かう。


(今さら、こんな攻撃を・・)


疑問に思いながらも針を打ち落とすため構えた。


ヒューヒューヒューヒューヒュー


「!?」


糸音へ向かった針はあろうことか糸音を素通りして後ろへ飛ぶ。


「そんな単純に攻撃はしないよ」


糸見は笑みを浮かべ、何も持っていないはずの手を握り横へ引っ張る。


グサッ、グサッ、グサッ!


後方に向かったはずの針が糸音の背中に突き刺さる。


「っく!・・どういう。いや、そういうことか!」


糸音は何かに気づき、背中に刺さった針を抜く前に針剣で自身の背中の辺りを斬ろうとした。


「っは!無駄だよ!」


糸見は握った手を曲げ、まるで何かを引っ張るような動作をする。


「くッ!」


次の瞬間、糸音の背中に激痛が走った。そして糸音は後ろ向きの状態で糸見に吸い寄せられる。


「お返し!」


ドガッッ!!


鈍い音が鳴る。糸音の顔面に今度は糸見の強烈な一撃が決まり吹き飛ぶ。


ザッザザッザザーー!!!


糸音は砂埃を上げながら転がった。


「どうだ?痛いだろう。背中のその針はわずかに先が曲がっていて、釣り針の様になっているんだよ。だから、抜くのも一苦労だし、何より激痛だ。しかし驚いた、まさか糸に気づくとは・・流石、師匠と弟子」


「わずかに、見えてな・・」


糸音は痛みを堪え、ゆくっりと起き上がり立つ。


「あらかじめ針に糸を通し投げ、迂回させることを可能にした、さながら追跡ミサイルの様に。師匠の技だな・・それにその針も」


「さすがに同じ師を持つだけあるな。でも、わかったところで攻略法はないよ。だからまたほら!」


再び糸見は糸を引っ張る。糸音は宙に浮き、糸見の元へと背中から一直線。


「同じ手はくわない!」


シュッ!


糸音は器用にも空中で、背中に刺さった針は抜かず、それについている糸を体を回転させながら針剣で切り裂いた。そして引っ張られた勢いは衰えておらず軌道の先には糸見。これに乗じて、糸音は針剣を構え直し、糸見に斬りかかる。


カンッッッ!


「器用だな。本当に!」


カッカッカカッカカッカッカ!!!!!


再びぶつかり合う刃の嵐。しかし、糸見に分が上がるのは必然。糸音は背中の傷がかなりのダメージだった。そのため針剣の動きが僅かにぶれる。


「致命傷だったな!」


ドンッッ!!


糸見は隙がでた糸音の腹を思いっ切り蹴り飛ばす。


「っぐ!」


糸音は後方に飛ばされ膝をつく。


「つまらないなぁ、こんなもんか?・・何してんだお前?遠慮せず使えよ、異能をよう」


「・・・・・」


「何に迷ってるんだ?・・お前は」


「そうだ、なんで糸音先輩は異能を使わないんだ」


戦いを見守る真宵はここにきて違和感に気づいた。


「異能は使えるはずですよね、先生」


「あぁ、だがおそらく糸音は迷っているのだろう」


「迷う?こんなまずい状況で何に迷いが?」


「推測だが、糸音にとって異能は殺人の手段なんだろう。一瞬使う分には問題ないだろう。でも今、、糸音は強敵と戦っている。異能を使って無意識に糸見を殺してしまう可能性を恐れている」


「そんな!だからって自分が死ぬかもって時に」


「糸音にとっては死よりも優先すべきことなのだろう」


「夕凪糸音!!くだらない誓いのために死んでもいいのか!それでいいならこのまま殺すぞ」


糸見は今までにないほど本気の殺意を糸音に向けた。


「くだらなくはない・・・私にとってはな!」


「ふん・・ならもう死ね」


糸見は針剣を構え駆け出し、糸音へと斬りかかる。


ヒュンッ!


「!?」


走る足が止まる。糸見は頬に鋭い僅かな痛みを感じ、手で触れるとジワリと血がにじんでいることを確認する。何かが糸見の頬を掠めた。そして、糸音を確認する。

見ると糸音が腰に挿してあったもう一つの武具がなくなっていた。代わりに糸音の前に、もう一つの大きな針が突き立てられていた。それは両端に穴の空いた針剣であり、僅かに目視で確認できる糸が両端の穴に張られていた。そして懐から小さい針を取り出して、矢のように針を構え、小さな針が放たれる。


シュンッッ!


「!?」


糸見は僅かにそれを視認でき、既の所で針を避ける。

 

「なるほど驚いたな。もう一つ何を腰に差しているのかと思えば、そんな物がねー。でも、全然当たってないぞ。当てる気がないのか?まさかお前まだ・・」


糸見の言葉を遮るように糸音は弓のようにして針を飛ばし続ける。


シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ!シュンッ! 


糸見は次から次へと放たれる針を交わしながら糸音に迫る。


「いい加減にしろよ!糸音!そんなに死にたいなら死ね!」


目前に迫ってきた糸見は剣先を糸音に向けて突き刺す。

しかし、糸音の目と鼻の先まで迫った針剣はピタリと動きが止まる。

 

「は?・・・あーなるほど、そういうことね」

 

糸見は全身に違和感を感じ確認する。よく見ると体の節々にいつの間にか糸が巻きついていて、その糸の先、糸音が飛ばした針が糸見の後方にある地面に四方八方へ突き刺さっていた

 

「わざと外していたか。いや、最初から私が避ける事は予測済みで動きを読んでいたのか。

あらかじめ、糸を通した針を飛ばし私の動きを止めたか。なるほどね」

 

「これで終わりだな。ちなみに言っておくと、そのまま無理に動けば骨が折れるぞ。だから動かない方がいい」


「ふん、どこまでもふざけたやつだ。こんなもので私を止めたつもりか?」


「あぁ終わり・・!?」


バキッ!バキッ!


糸音は驚愕する。あろうことか糸見は無理やり腕を動かした。骨が折れる音が辺りに響く。


「ふぅ、痛いな流石に」


糸見は無理やり振りほどいた針剣の持った腕を動かして、地面に深く突き刺さった針を力いっぱい引き抜いた。折れた片腕は、ぐにゃりとしていたが、さらにその腕を回して体に巻き付いていた糸を斬った。


「驚いた。でもその片腕はもう使えないだろう」


「ふん、片腕はまだ動くぞ。私もお前と同じ、糸と針の使い手だということを忘れてないか。だからこんなことも可能だ」


糸見は片方の折れていない腕で針を取り出して器用にもう片方の腕を這わせるように通していった。


「いっったいなーー・・さすがに。でも、ほら」


今しがた折れたはずの腕が普通に動いていた。


「高度な技だろ?糸で折れた腕を補強、さらに糸で神経、骨をつなぎ合わせた。さらに針には痛覚を麻痺させる毒を塗っておいた。これでまだ戦える」


「繋げるか・・なるほど。そんなこと思いつかなかったな。なら、何度でもその糸を断ち切ってやる」


「そうか、ならやってみろ!さぁ、ラウンド2だ!」


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