学園襲撃(五)
「夕凪糸音・・不思議な少女でしたね・・この先、確実に彼女はボスの障害になったでしょう。さて・・・」
フィは糸音の亡骸を背にして屋敷の外へと歩きだした。
ヒューーーーー
その時、一陣の風が吹く。フィは違和感を感じた。違和感というよりは嫌な予感だ。・・自分が化物の封印を解いてしまったのではと・・パンドラの箱を開けてしまったのではと・・・確実にこの手で殺したと言うのならまだ安心はできる。だが、完全に殺したことを確認するまでは安心できなかった。その予感を消し去りたくなり、倒れている糸音の首に触れようと近づく。次の瞬間、今まで眠ったように横たわっていた糸音は目を見開いた。
「!?」
瞬間、フィは後方へと飛び引いて針を構える。
「・・嫌な予感は当たりましたか。しかし、なぜ・・なぜ動けるのですか」
「嫌な・・予感?それより・・わたしは死んでいたのか?」
糸音はゆっくりと立ち上がり、辺りを見ながら状況を確認する。
「さぁ、どうでしょう・・・確認する前に起きましたからね・・・というより本来生きているのがおかしいのですが」
「そうか。まぁでも、少なからず死んでないのはわかるな」
「みたいですね。まぁどちらにせよ、今から確実に殺します。たった今確信しました。あなたは必ずボスの脅威となる存在」
「ボスねぇ・・誰かは知らないけど、そいつの邪魔をするつもりもないが、もし私の生きる道を邪魔するなら容赦はしない。それじゃぁ、続きだな・・」
糸音は腰に刺していた針剣を抜き、構える。
「やる気満々ですか・・いいでしょう。では望み通り殺しましょう!」
シュッシュッシュシュッシュッシュ
シュッシュッシュ
シュッシュッシュ
シュッシュッシュ
カッカッカカッカッカ
カッカッカ
カッカッカ
カッカッカ
カッカッカ
カッカッカ
カッカッカ
カッカッカ
カッカッカ
カッカッカ
再び毒針の雨が糸音を襲うが、糸音はそれを自身が持つ針剣で叩き落とす。糸音は体が慣れてきているのか一つ一つの動きが俊敏だった。
「動きがいいですね。とても先ほどまで猛毒を喰らっていた人の動きではないですね」
「いい感じだ・・・次はこっちから行かしてもらう!」
ヒュー
糸音の姿はフッと風と共に消えた。そして、フィはもう一つ消えたものに気づく。
「こ、これは」
(音が消えた!・・異能か)
「小癪な!」
足音だけではなく風の音、服の擦れる音、周りにある音が消えた。聞こえるのは声のみ。
「どうだ・・声だけの聞こえる世界・・面白いだろ」
「ふっふ・・そうですね。面白い能力です。それにこれは暗殺者向きの異能ですね。この暗闇の中、音を奪われては動きづらく、さらにあなたのその速さ!居場所を特定することは皆無ですね。本当に真に暗殺者ですよ、あなたは・・・しかし逆に、私はさらに慎重に動くことになるんですよ・・墓穴でしたね」
「墓穴?」
「えぇ・・それでは丸わかりです」
シュ!!
糸音の声がする方へ一本の針が投げられる。
「無音にしたのが仇になりましたね!やるなら徹底的にです!あなたは声を出すべきではなかった!辺りを無音にしたせいで声の発生源がわかりやすく正確に狙いやすかった。最後にいいものを見れました。あ、そうそう、その針には先ほどよりも数十倍の猛毒を塗ってあります。これで完全に終わりです!」
カンッ、カンッ、カン!
「・・・何!?」
音が聞こえた。しかしそれはフィの思っている、人にあたる音ではなかった。無音の世界の中、乾いた針の落ちる音が響く。そして、自身の真下から声が届く。
「愚か・・」
ドンッッ!!!
「ぐはっっ!」
糸音はフィの腹目掛け、針剣の柄で一突きくらわせる。フィはたまらず悶絶し膝をつきそのまま倒れる。
バタッッ!
「なっ・・なぜ!?」
「私の異能は確かに音を操る異能。それはあっているが解釈が足りなかったな。操るってことは声という音も操ることもできる。このようにな・・・」
糸音は暗闇の中へと指を指す。
「このようにな・・」
指の先の暗闇の中から糸音の声が独りでに聞こえてくる。
「声を置いたんだ・・声も一つの音。音を操るっていうのは極論、空気の振動を操ることが元となる。異能の本質は側ではなく中にあるって、涼香姉さんが言っていたよ。だから異能は奥が深く、探究しがいがあるんだって」
「ふっふ・・なるほど。物は使いようですね・・見事です・・」
バタッ
そこまで言って、フィは意識を失った。
「はぁ・はぁ・・はぁ・・一撃で沈んでよかった、長期戦はさすがにきついからな」
糸音は天を仰ぎながら肩で息をしていた。そんな糸音の胸の内には、言葉にはしがたいものが渦巻いていた。この戦いで期せずして自身の記憶の一部を取り戻した。しかし、スッキリはせず、余計な思考が頭を巡る。
「今は考えても仕方がない・・急ごう」
糸音は呼吸を整えると学園へと走り出した。そこには、彼女の記憶にとっての重要な人物がいるとも知らずに。
ニ
「やるねぇ、真宵君」
図書室にて真宵と謎の女との戦いは続いていた。
「一体、お前は何者なんだ?」
「わたしはねー、わたしはー何でも屋・・金次第で何でもやるよー。殺しも誘拐も・・ちなみに君たちを連れ去って来いっていう依頼の方は値段でいうとたしか五百万だったかな・・それだけでも当分は遊べるしねー」
真宵は今のセリフの違和感を聞き逃さなかった。
「その言い方だと依頼は一件ではないな・・一つはわかるが他は誰からだ?」
「正解!正解した君にはもう一つの依頼内容だけ教えてあげよう!それはねー・・君たちの足止めだよ。そうだなー・・もうじき時間だしー、君たちに一つ提案しよう!」
「提案だと?」
「そう、提案、というか契約。君たちはどう足掻いてもわたしには勝てない・・だろ?それにもう一つの依頼内容は足止め。時間も時間だし、これはもう完了している。でも誘拐の方はねー・・うーん・・正直どうでもいいんだよねー。何故なら、あまりにも提示された値段が破格だからだ。本来なら0ひとつ足りない案件だと思うんだよー。第一、依頼主が嫌いだし。こっちは破棄しても問題が無いこともないが、まぁ当分は大丈夫かな。そこで提案!君たちは学生だから依頼料には期待していない。だから依頼者ではなく協力者っていうので話聞いてよ」
「まったく話が見えないな・・値段うんぬんはどうでもいい。早く要件を言え」
「まぁまぁ、そう急かさないでよー、怖いなぁ。まぁ簡単に言うと生かしてあげるから、今度わたしの仕事を手伝ってもらうって言う話」
「何を言っている!ふざけるな!第一、お前に何のメリットがあるって言うんだ!」
「メリットならあるよ。誘拐の依頼主より君たちとお友達になる方が今後メリットになると思ったからだよ。価格に対して、君たちと友好関係を結ぶ方が価値がある。それに君たち兄妹が気に入った。とても面白くてユニークだからねー、・・・・それに面白いのが混じってるし」
真宵は苦い表情になり本棚の後ろで隠れていたユズを見る。
(今この状況でこいつに勝てる可能性はゼロ・・ユズの命が最優先だ。ここでやれなくても今は・・・いずれ殺ればいいか・・)
「なるほど。いいだろう、受けてやる。でも、あんたがユズにしたことは絶対に許さない・・それだけ覚えておけ」
「まぁ、別に何もしてないけどねー。まぁ、よしよし契約成立だね!じゃあ連絡先送るねー」
女は携帯を取り出し、手に持って近づいてきた。真宵は警戒などせず無防備に近づいてくる女の隙を伺っていた。そして連絡先を交換した瞬間、真宵は手に持っていたナイフで女の喉を掻っ切る。
シュッ!ビチャッッ!!
女の喉から勢いよく血が溢れてきた。
「ガハッッ!はっはっは・・・やるじゃん・・・お兄ちゃん!」
ゴトッ!
血が出る首を抑えながら女がニヤリとした瞬間、女の体が丸太に代わり地面に落ちる。
「なんだ!?これは・・」
真宵は辺りの空気は冷め、女の気配が消えたことに気づいた。しばらくしてすぐに真宵の携帯が鳴り、画面を覗くとそこにはメールが一通、届いていた。
(いやー、寝首を掻くっていうのは良く言ったものだねー。驚いちゃったわー・・ってか驚いたでしょ!あれはね知り合いに教えてもらった技なんだー。忍者みたいでしょー(笑)
真宵君、譲葉ちゃん、なかなか楽しかったよー、ありがとね。またね! (*´ε`*)チュッチュ
波風紫織より)
「メールでもうるさいですね・・・波風紫織、覚えたぞ。今度こそ必ず」
「兄さん!」
譲葉が駆け足で真宵の元へと寄ってきて袖を掴んでいた。その小さな手は少し震えていた。
「ユズ、すまなかった。もう大丈夫だ・・とりあえず先生の所へ行こう。きっと爆発があった方だ」
(嫌な予感がする・・速く行こう)




