学園襲撃(二)
「先ほどから避けてばかりですね。つまらないですよ」
糸音は現在、フィの投げられた針の弾丸を避け、駆け回っていた。
「戦い方が似ているだけあってやりずらいな」
糸音にとっては、これ程の相手との戦闘は久方ぶりだった。最初は慣れずに避けるので手一杯だったが、今は少しずつフィの動きを読み、反撃のタイミングを伺っていた。そして、わずかな隙を糸音はここぞとばかりに距離をつめ、鉄拳を鳩尾に叩き込む。
「!?」
フィは動揺したが、ただそれだけだった。わずかな隙を狙ってきた糸音の攻撃を躱し、見事なカウンターが体制を崩した糸音の背中にきまる。その攻防は一瞬。糸音は器用にも体を回転させ、両手で頭上から迫りくる攻撃を防ぐ。残る足でトドメと言わんはがりの蹴りでフィを近くの壁へと吹っ飛ばした。
ドンッ!
威力は上々。しかし、フィはあまり効果的なダメージを受けてはいなかった。涼しい顔で、すぐに立ち上がる。
「油断してしまいました」
「さっきのお返し・・てか頑丈だな」
「私は子供の時から体が丈夫でしてね、この通りピンピンしてます・・・それから、私も貴女へお返しです」
そう言われて、糸音は足に少しばかりの痛みを感じた。見てみると小さな針が一本刺さっていた。
「くだらないことを」
「夕凪糸音、一つ聞かせてください。何故それ程の実力を持っていて弱者を救わないのです?」
「弱者?・・何のことか全くわからないが、困ってる人や助けを求める人には手を貸すようには生きているつもりだが」
「そうですか・・どうです?我々の仲間になりませんか?あなたはお強い。そしてその心、生き方、我々にあっている。ボスには私が自ら斡旋してあげますよ」
「は?・・ごめんだね。この先のことはわからないし、自分が何をしたいのかもわからない。だけど、少なくとも今は自分の居場所を守るため、友人と呼んでくれた友のため、そして保護してくれた兄さんに恩を返すため、学園を守ることを選ぶよ。だから、お前たちの様な悪者になる気はないよ」
「悪者・・・そうですか。残念ですね・・・・やはり偽りの正義を振りかざす夕凪家への粛清は必須」
「偽りの正義?」
(たしか・・・・街で会った仮面の女もそんな事を言っていたか)
糸音の疑問には答えず、フィは落ちていた針を拾い、懐にしまいだした。
糸音は相手の戦意が無くなったことを感じたが臨戦態勢は崩さず、さらに警戒を強める。
「何をしている?まだ終わってないぞ」
「いいえ、終わりです」
「なん・・・だ?」
バタッ
糸音は急な脱力感に襲われその場に倒れる。フィは倒れた糸音へと少しずつ近づき会話を続ける。
「君の敗因は、私が針を使うただの拳法家であると勘違いしたことです。私の本当の武器は毒ですよ。針に少量塗りました。街で会ったであろう未凪の者には遅延性の毒を打っていましたが恐らく意味はなかったでしょう。わからないでしょうが、あなたに打ったのはそれより数倍以上の効果がある毒です。一滴でも喰らったら数秒で即死のはずですが。かなりもってる方ですね、いやはやすごい。あなたがさっきの質問に、イエスと答えていたなら死なずに済んだのに残念だ」
(・・毒使い・・油断した・・これは仕方ないか・・)
「おわ・・りか」
「最後にチャンスをあげましょう。我々と共に来るのなら救いましょう」
「は・・・はっは・・ごめんだ・・ね」
「残念です。貴女の様な真っすぐな信念を強く持った人は好きでしたよ・・さようなら夕凪糸音」
糸音は静かに目を閉じた。
三
「おーい、どこかな譲葉ちゃーん」
かれこれ一時間程、女は本棚周辺に隠れたであろう譲葉を探してる。
「そろそろかなー、さてと!」
ガタ、ドーン!ガタ、ドーン!ガタ、ドーン!
「ふんっふっふふーふっふふーふっふふーん♪」
女は愉快に鼻歌を歌いながら、本棚をドミノ倒しの要領で倒していく。全部倒され、倒れた本棚の中から譲葉がゆっくり這い出てきて思わず咳き込む。
「ゴホ!ゴホ!」
「あらー、ごめんね譲葉ちゃん。埃っぽいもんねここ。安心して殺さないからー、ちょーと連れて行くだけだからさ」
ドンッ!
這い出て来た譲葉に近づこうと女が動いたその時、一発の銃声とともに何処からともなく飛んできた弾丸を女は避けた。女が銃声の鳴った方を振り返る。次の瞬間、暗闇の中に人影が現れて女へと襲いかかる。
シュッ!シュッ!シュッ!
「あら・あら・あ・ぶ・ない・よっと!」
女は暗闇で見えずらいはずの攻撃を軽快に避けていた。攻撃は止み、女は視認する。そこには月の光に当てられた、真宵が銃を構えて譲葉を庇うように立っていた。
「兄さん!」
「すまないユズ。もう大丈夫だ!」
「あれあれ?真宵君じゃん!あれ?あれ?捕まってなかったけ?」
「俺を捕まえた奴は殺されたよ。次はお前を殺す!妹に手を出したお前をな!」
「ウェイト、ウェイトー。まだ、だしてませーん。てかそっかぁ・・死んじゃったのか。まぁどうでもいいけど。とりあえず、面倒だけど仕事が増えただけかー。さて、それじゃ真宵君も一緒に来てもらおうかなー」
「殺すんじゃねーんだな・・未凪の件といい今日は妙だな・・いや、殺しが目的じゃなく誘拐・・・お前誰に頼まれた?」
「うーん・・そりゃあ言えないでしょ。企業秘密だよっと!でも察しの通りかもねー」
女は見透かすように笑みを浮かべる。
「ふん・・まぁたしかに察しはつくな・・だが、残念ながら俺たちは帰らないぞ」
「帰らない・・ねぇ。まっ、そうは言っても依頼は依頼だしねー。とにかく、おとなしく捕まってよ」
「お断りだよ!」
ダンッ!ダンッ!
真宵は短いライフルで女へ二発の弾丸を打ち込んだ。
「おっ!いきなりかー」
女はゆるりと避け、真宵に近づく。真宵はこれに応戦。
ダンッ!ダンッ!シュッ、シュッ!ダンッ!シュッ!
真宵は器用にもライフルと拳撃の合わせ技を女へと浴びせるも、これまた器用に女は軽快に避ける。
「いい動きだねー。良い師でもいるのかな?面白い戦い方だー」
「クッソ!ちょろちょろと・・」
(こいつ、僕の攻撃を避けながらユズの方を伺ってやがる・・・なめたやろうだ)
「どもどもー・・でーもー・・ほれ!」
ドガッ!
「うッ!」
女は銃と拳撃の嵐の中、隙を見つけて、真宵の腹目掛けて蹴りを一撃放った。
そのまま真宵はたまらず膝をついてしまう。
「兄さん!!」
「大・・丈夫だ!」
「おーおー、さっすがお兄ちゃん!カッコいいねー」
「うるせぇなぁ!!」
ダンダンダンダン!!
「うわっ!うわっ!うわーー・・あっぶないねー」
「クッソ!お前は嫌いなタイプだなー」
弾丸を数発放つものの、それは簡単に避けられてしまい真宵は少し苛立つ。そんな真宵を女はしたり顔で笑っていた。
「いいねー・・わたしは君みたいなタイプは好きだよー・・そうそう、どうせ時間稼ぎなんだからねー、目一杯楽しもうよ!」
「ヘラ女が!」
ダン!ダン!ダン!ダッダ!シュッ!シュッ!
「はっはっはっはっはっはーーー!!!!」
再び、残る硝煙と弾丸の嵐の中、女は笑いながら軽快に踊る。




