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煩悩合体ドレッドエイト

作者: 湶田 頼太

あんたの子供の頃の夢は何だい?

俺かい? 俺は、地球の平和を守るスーパーロボットのパイロットになりたかったな。


おいおい、そんな笑わなくたっていいだろ。男の子なら誰だって憧れるもんさ。地球侵略を企む悪の宇宙人や怪獣に立ち向かう、正義のスーパーロボットに。いかにもヒーローが乗る感じの洒落たマシンが1つのロボットに合体、そんでもってド派手な必殺技で怪獣を叩きのめすんだ。当時、まだ4つか5つだった俺は夢中になってそのアニメを観てたね。もちろん、親にねだってオモチャも買ってもらった。あれから20年近く経つけど、今でも俺の宝物さ。


そんなわけで、ガキの頃の俺はいつもこう口走ってた。

「いつか俺も、すごいロボットに乗って戦うんだ!」


もちろん大人になるにつれて、ガキの頃の夢は夢で終わると知った。ところが人生ってのは不思議なもので、その夢はある日突然叶うことになったんだ。



 ◆



「君は選ばれたのじゃ、ヤノカネ・ジョー!」


だから光栄に思うがいいぞ――満面の笑みを浮かべる博士の顔には、間違いなくそう書かれていた。ところが、だ。


「えっと、何の話です? 大岩おおいわ博士」


俺は困惑していた。訓練中にいきなり呼び出されたて、なおかつ何も事情を知らないのだから無理もないと思う。

直立不動の姿勢のまま返答を待つ俺から、大岩博士はふいに視線を逸らした。遠い目をして、悲しげな声で語り始めた。


「もう1年になるかのう」


深い皺が刻まれた顔には哀しみの色が宿っていた。


「早いものじゃ。フィクションの中だけだと思っていた『宇宙人による地球侵略』が、まさかこうして現実に起きるとはな」

「っ! 俺だった最初は信じられませんでしたよ、最初は」


博士の言葉に同意した俺は思わず拳を握る。そうなのだ。幼い頃アニメの中で観ていた戦いは、今まさに現実で繰り広げられていた。


忘れもしない、今年の元日のことだ。日本をはじめとした、アジアや東南アジア各国の上空に謎の飛行物体が大量に出現した。最初はフェイクニュースだと思われていたUFOの群れは、何の前触れもなく攻撃を始めた。侵攻はみるみるうちに世界全土へと広がっていった。

もちろん各国の軍隊も反撃に出たが、圧倒的な軍事力――特に奴らが操る巨大怪獣によって苦戦を強いられるのが現状だった。


戦いの中で侵略者たちの名前が「アスラヴァ星人」だと判明し、それに伴って巨大怪獣にも「アスラヴァ獣」という名称がつけられたのも最近になってからだ。現状、まだまだ敵についてはわからないことも多い。


「そう遠くない未来、地球は植民地とされてしまうだろう」


重々しい口調ではっきり告げる大岩博士。


「そんな……!」


俺が二の句を告げずにいると、


「――この儂と、お前さんがいなければな!」


博士が勢いよく白衣を翻した。右手の親指で自身を、そして左手の人差し指で俺を指し示した。俺は自分の中の血が滾るのを感じた。


「ということは、博士! あの噂は本当だったのですね!」

「そうじゃ! 儂が極秘で開発していた対アスラヴァ星人用のスーパーロボット……そのメインパイロットをジョー、お前さんに任せたい」

「お、俺がメインパイロット!? くぅうううっ!」


後から聞いた話だが、このときガッツポーズをした俺の両目には涙が浮かんでいたらしい。そりゃそうだろう。


半年前、アスラヴァ獣による破壊活動で親父が大怪我を負ったときのことだ。なし崩し的に家業を継ぐ羽目になり忙しくしていた俺は、「君をスカウトしたい」とかなんとか言われて、この『株式会社 大岩科学研究所』という怪しげな会社に連行された。それから昼は自衛隊並みのハードな訓練、夜は謎のシミュレーターで操縦訓練ばかりやらされる地獄のような日々だった。


その苦労が、ついに報われるときが来たのだ。


「博士、博士! 『メイン』パイロットってことは……」

「察しがよいのう。そうじゃ、お前さんがこれから乗るのは複数のマシンが合体して完成するスーパーロボットじゃ」

「キタコレ!」


またまた歓喜の声が口をついて出た。


俺はスーパーロボットの中でも合体ロボが大好きなんだ。初めてハマったアニメがそのジャンルだったってのもあるけど、合体シーンの熱さ、何より戦いの中でチームメイトと絆が育まれていく過程がたまらない。


「そろそろ、説明に戻ってもよいか?」


1人ではしゃいでいた俺は、博士の言葉で我に返った。


「すみません、つい興奮しちゃって。お願いします」

「これが君の乗るロボットじゃ」


そう言って博士は司令室のモニターにロボットの全体図を映し出した。


「これこそ儂の開発した最高傑作にして、地球を守る切り札……その名も『ドレッドエイト』じゃ!」

「これが『ドレッドエイト』……。モチーフは金剛力士――いや、執金剛神しゅこんごうしんですか?」

「よくわかったな。流石じゃ」


力強く頷く博士を横目に、俺はドレッドエイトのデザインに惚れ惚れしていた。正直言ってめちゃくちゃ格好いい。強そうで敵に対しての威圧感もありつつ、正義のスーパーロボットに相応しいヒロイックな造形をしている。これが俺の愛機になるかと思うと、気持ちが昂った。全体的に和風を強く意識したデザインで、メカニカルな執金剛神(もしくは鎧をまとった金剛力士)と表現するのが最も的確な気がする。


「そしてこちらがお主の乗り込むマシン、『エイトジェット』じゃ」


博士がリモコンを操作すると、映像が1台の戦闘機らしい乗り物に切り替わった。


「博士こそ流石です。魅せ方をわかっておられますね」


俺は本心から博士を褒めた。合体ロボを公開するにあたって、まず合体後の姿、続いて分離形態を披露するのは王道中の王道だ。


「この『エイトジェット』、おそらく合体後はドレッドエイトの頭部になるんですよね」


俺がそう確信するのには理由があった。エイトジェットの外見上の特徴として、全長に匹敵する8の字型の装甲板が取り付けられている。そしてそれは、ドレッドエイトの頭部の飾りと同一のものだった。


「またしても的中じゃ、素晴らしい。それでこの『エイトジェット』――」


俺は胸を高鳴らせながら博士の次の言葉を待つ。ところが、ワクワクする時間はそこまでだった。


「――を含む108台が合体することで『ドレッドエイト』は完成する」

「……訓練のしすぎかな。今108って恐ろしい数が聞こえたんですけど。聞き間違いですよね?」

「合っておるぞ。『ドレッドエイト』は108台のマシンが合体して生まれる、その名も『煩悩合体ロボ』じゃ」

「いや、おおいわ!」


たまらず俺が突っ込むと、大岩おおいわ博士は顔をしかめた。


「……目上の者を呼び捨てにするのは感心せんな」

「ちげぇよ、合体するマシンが多すぎるんだよ! なんだ108台って!? 『煩悩合体ロボ』とかいう正義要素ゼロな肩書きも意味不明だっ!」


俺が敬語を使うのも忘れて叫んだ。さっきまでの夢見心地な気分はどこへやら、だ。


「それはじゃな……」


博士が口を開いた瞬間、司令室にサイレンの音が鳴り響いた。間髪入れず人工音声が敵の襲来を告げた。


「アスラヴァ獣出現、アスラヴァ獣出現! 場所は富士山上空!」


博士が血相を変えて叫んで。


「こうしちゃいられん、すぐに出撃してくれジョー! 説明はあとでする!」

「出撃って俺1人でですか!? 残りの……107人の仲間はどこにいるんです?」


口に出すと改めておかしい数だと実感した。そもそもこの司令室にそんな人数は入らない。


「安心せい、残りのメンバーとは現地で合流できるよう手配しておく!」


博士に急かされた俺は、やむをえず出撃することにした。経緯はどうあれ、地球を守るために戦う意志は変わらない。



 ◆



「本当ですか、それ」

「うむ、アスラヴァ星人の力の源は煩悩――もとい邪な心らしい。儂は運よく撃破したアスラヴァ獣の体内から、生物の煩悩をエネルギーに変える装置を発見したんじゃ」


数十分後、俺はエイトジェットのコクピットで博士と通信機越しに会話していた。アスラヴァ獣が現れた現場には、まもなく到着する。


「ジョー。奴ら、アスラヴァ星人が地球で最初に現れた場所を覚えているか?」

「確か、日本や中国……それから東南アジアだったと記憶しています」

「その通りじゃ。では、その国で最初に襲撃を受けた場所の共通点はわかるか?」

「共通点? いや、わかりませんね」

「ヒントは、君の実家じゃ」


博士の発言に俺はピンとくるものがあった。日本、中国、東南アジア……どこも仏教が盛んな国だ。


「まさか、寺ですか」

「そう。奴らは恐れていたのじゃ、煩悩を払う力を持つ存在をな。だから侵略を始めるにあたって真っ先に僧侶を根絶やしにしようとした」

「……俺がパイロットに選ばれた理由、わかった気がします」

「ところで、そろそろ合流するはずじゃが」

「ええ、見えてきました」


すでに俺の目は、こちらに飛来してくる総勢107機の戦闘機の大群を捉えていた。エイトジェットを一回り小型化したかのようなあの機体には『ドレッドマシン』という名称があり、航空自衛隊の隊員たちが乗り込んでいる。


「まさか、合体するマシンを現地調達するとは思いませんでしたよ」

「生産は低コスト、なおかつ高性能の自信作じゃからな。すでに世界中で量産が始まっておる。……そろそろ接敵する頃合いじゃ、合体を始めてくれ」

「了解」


頷いた俺の脳裏に、博士の語ったドレッドエイトの仕様が浮かび上がってくる。

――目には目を。煩悩には煩悩を。煩悩エネルギーを最大限発揮できる人数、それが108人だったのじゃ。つまり、普段は戦闘機として使用できるドレッドマシンを世界各国に常備しておく。そして、いざという時はお前さんのエイトジェットが頭部、107台のドレッドマシンが変形して首から下の全身を構成するというわけじゃ。合体のコールサインは……。


俺は息を大きく吸い込み、叫んだ。


「――レッツ・ドレッドイン!」


それを合図に操縦桿が2つに割れて展開、キャノピーから見える光景からエイトジェットが変形していくのがわかった。


続いて足下から衝撃が立て続けにした。ドレッドマシンが次々と合体していることを、モニターに表示された「合体完了率20%」という数字が示していた。ちなみのこの一連の合体は全てAI制御によるもので、よほどの緊急時でもない限り人力での操作は不要となっている。


やがて合体完了率が108%を迎えた。正直そこは100%でいいだろとも思ったが、言わないことにした。代わりにドレッドエイトを起動させるコールサインを口にする。


「煩悩合体! ドレッドエイト!」


俺の声を認識して身長108mの巨人が意志を持つ。

タイミングよく、雲の切れ間からアスラヴァ獣が姿を見せた。巨大な鳥の化け物、と形容するしかない不気味な姿をしていた。その顔は、未知の存在を目にした驚愕に歪んでいた。


「ゆくぞアスラヴァ獣!」


俺が操縦桿を操るのに合わせて、ドレッドエイトが拳を振るう。拳は見事、アスラヴァ獣の顔面に直撃した。

よほどの威力だったのだろう、怪鳥は錐揉み回転しながら地上へと落下していった。


「いいぞ、ジョー! 次は『天雷杵てんらいしょ』を使うのじゃ!」

「了解!」


博士からの通信を受け、俺は早くもドレッドエイト最強の武器を使う決意をした。


「――てんらいしょ!」


声に従い、ドレッドエイトが額から8の字型の装甲板を取り外す。その中央から柄がドレッドエイトの背丈ほど長く伸び、さらに装甲板の両端が刃へと変形した。


「こいつで決める!」


天雷杵をかまえたまま、ドレッドエイトは地上へと舞い降りる。待ち構えていたアスラヴァ獣が口から炎を吐いてきた。


「効くか、んなもん!」


天雷杵を勢いよく回転させ、炎をかき消す。そして落下の勢いそのままに、怪鳥の片翼を刺し貫いた。貫いた箇所から血は流れず、代わりに機械部品が露出した。


俺はとどめを刺すべくドレッドエイトのリミッターを解除した。鋼鉄の執金剛神が、必殺の構えをとる。


「君を選んだ理由がこれだ! ドレッドエイトの必殺技は君にしか扱えん! かね寺30代目住職・かねじょう!」


「――必殺! 煩悩ぼんのう粉砕ふんさいき!」


息つく暇もない高速の連撃を放つ。やがて108発……突く前にアスラヴァ獣は砕け散った。


「成敗!」


決め台詞を言いつつ勝利の余韻に浸っていると、博士から新たな指示が来た。


「ご苦労じゃった。早速ドレッド・アウト(分離)して次はこのエリアに向かってくれ」

「ちょっと待て! 連戦かよ!?」

「瞬殺したからほとんど疲れとらんじゃろう。現地の部隊にはもう連絡しとるから、くれぐれも時間厳守で頼むぞ」

「わかったよ……まぁ、せっかく夢が叶ったんだ。頑張るとしますか」


俺はそんな決意を胸に、合体解除レバーを引いた。

初陣を勝利で飾ったドレッドエイトとヤノカネ・ジョーの前に新たな敵が立ち塞がる!

その名もアスラヴァ星の英雄と名高い将軍グレンシャ! 宇宙最強と恐れられる彼の剣技に、ドレッドエイトはどう立ち向かうのか!

次回、煩悩合体ドレッドエイト!

『死闘! アスラヴァ星の英雄』にレッツ・ドレッドイン!


※つづきません


「じゃあなんで次回予告した!?」

「ぶっちゃけノリ、じゃな」

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― 新着の感想 ―
煩悩合体……新しいロボットモノですね✨️ 次回はないとされてますが、実は……シリーズ化!? という展開はないですかね?
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