呪ったら解かないでと言われました
ジュリア・メルヴェリスはお怒りであった。
親が決めた婚約者であるジェイソン・ドルテナウスとは、以前までは良好な関係だと思っていたのに最近別の女に心が移ったのか、自分をほったらかしにしてそっちの女とイチャイチャしている。
噂だけで済めばジュリアだって多少は寛大な心で受け流しもしただろうけれど、二人で出かける約束をした日にドタキャンされたり手紙でのやりとりなども段々雑になってきたりと、見過ごしてはならない部分が増えてきた。
それについて、一度お互い話し合いをしましょう? と切り出してものらりくらりと言い訳にもならないような事をのたまい先延ばしにされ続け。
そうしてジュリアは婚約者から愛されず、それでも惨めに縋っている、なんてとても不名誉な噂が流れるようになってしまったのだ。
別にあいつの愛なんて乞うておりませんが!?
そう叫びたくとも、ジュリアは淑女としてそんなみっともなく喚き散らすような事はできなかった。
ただ、友人たちには本心を余すところなくお伝えしたけれど。
大体、家柄として確かに向こうの方が上だけど、ジュリアが嫁入りするのではなくあちらがこっちに婿入りである。
結婚前から愛人を作るにしても、こんな堂々とやらかすとは思わないし結婚後に愛人作るにしてもせめてもうちょっと上手く隠せと言いたい。
好きな相手ができたのならば、こっちだって別に他の婚約者を探せば済む話だ。
穏便に解消してお別れする事だって考えていたのに。
その程度の情は持ち合わせていた。だがしかし婚約者としての座を捨てるつもりはないけれど、でもボクチン他の好きな相手と恋愛するし結婚後もその関係続けるよ、というのを堂々とやらかされてはその情すら消滅する勢い。
ジュリアは正直な話、気が長い方ではない。
それ故にこの状況を長く続けるつもりはなかったし、婚約を続けるままにするなら向こうの態度を改める必要があるし、そうじゃないならとっとと解消したい気持ちで一杯だった。
そんなジュリアはジェイソンに、大勢の前で結婚したらちゃんと妻として扱うから結婚前くらい好きにさせろや、という意味の言葉を言われてしまった。
結婚前から好き放題やりたいならわざわざ自分と婚約続けなくたってそっちとくっつけばいいでしょうに! とジュリアだって思わず言ってしまったが、ジェイソンと良い仲になりつつあった令嬢は身分が低く、そのせいで身分違いの恋、結ばれない悲劇、なんて周囲に印象付けていたせいもあってか、ジュリアは何一つ悪い事をしたわけでも言ったわけでもないのに、場の雰囲気で悪役みたいな印象をつけられてしまったのである。
ジェイソンに愛してほしいのに愛されない惨めな女。
虚勢を張っているものの、愛されないのは一目瞭然。
そんな風に周囲の空気はなってしまっていた。
勿論、ジュリアの友人たちはそんな風には思わなかったけれど。
しかしジェイソンの隣にいた女がこれまた庇護欲をそそるような、儚くて触れたらそれだけで壊れてしまいそうな繊細な美貌を持った相手だったせいで。
実情を詳しく知らない者たちにとっては、娯楽小説にありがちな薄幸の美少女ヒロインとそれを守るヒーローと、悪役令嬢みたいに見えたしそう思われてしまっていたのである。
おのれジェイソン許すまじ!
大勢の前でなんで自分があいつに縋る立場みたいにされてしまったのか!
ジュリアの怒りはあっさりと限界を突破し更なる記録を伸ばそうとしている状態だった。
限界のその先ってあるのね……なんて新たな気付きをこういった形で得たくはなかった。
大体、周囲も周囲だ。
話の内容ちゃんと聞いてたらどう考えたってジェイソンが浮気してるのが悪いだろうに、それを何故こちらが惨めな悪女みたいにされなければならないのか。
……いや、わかっている。他人事だからだ。
他人事だから自分には何の被害もない。無責任に楽しんでいるだけだ。
だがそれはそれとして怒りを鎮めるという事にはならない。
「――そういうわけで! 呪ってほしいの」
バン、と強めにテーブルに手を叩きつけて、ジュリアは一連の出来事を語った。
誰にって、魔女に。
魔女は人の形をしているけれど、実際には人と異なる別の生命体である。
敵に回さなければ問題ないけれど、喧嘩を売る時は一族郎党滅びる覚悟をした上での自己責任で、と言われている強大な力を持った存在だ。
率先して敵に回るような事もないし、味方になってくれる事もそこまでないけれど、それはあくまでも無償での話であり、お仕事となればちゃんと対価を払えばそれなりに願いを叶えてくれる。
叶えてくれる願いはなんでも、というわけではないが、それでも人間にはできない事が可能なので。
そういったお仕事を依頼する人間はそれなりにいるのであった。
ジュリアが今現在向かい合っている魔女は、街のお薬屋さんを経営している。
人間が作るお薬より少々お値段は高いけれど、よく効くので普通の薬で治らない場合の最後の砦みたいな扱いである。お金がない場合は物々交換でも対応可、という経営方針なので、お金持ちの商人やお貴族様だけがここを利用しているわけではない。
「確かに私魔女だけど、呪いが得意ってわけでもないんだよねぇ……どんなふうに呪ってほしいの?
殺したいの? 地獄の苦しみ体験させたいとか? だったら無理だよそういう呪いは苦手だもの」
「どういう呪いだったらできるの?」
「えーっと……こういうのとか……」
頼りなさげに魔女は呪い一覧表みたいなものを差し出してくる。
しょっぼ。
思わずジュリアの口からそんな言葉が出そうになったが、それだって仕方のない事であった。
本当にしょぼいのだ。
こんな呪い、呪われたところで気付くかどうか……みたいなものから、仮に呪われていると気付いても命に別状があるわけではないからまぁこのままでいっかー、なものまで。
平和的と言ってしまえばそう。
まぁ、この呪いなら仮に呪った相手が罪に問われても、殺されるまでにはならないわね……とジュリアは思う。
呪う相手にもよるが。
「……ん? あ、これ! この呪い! これがいいわ!」
「んえー? こんな呪い? 一体誰に使うんだろって我ながら思ってたし今も思ってるこの呪いで本当にいいの~?」
「えぇ、むしろこれしかないくらい最適解よ!
ただ、その。
呪う相手なんだけど」
「さっき言ってた浮気クソ野郎でしょ?」
「勿論そうなんだけど、その両親もこの呪いで呪ってほしいの!」
「親まで? そんなんしたら、家同士の争いに発展しない?」
「しないわ。多分。むしろ穏便に婚約を解消する交渉もできるはず!」
「そううまい事いくものかなぁ? ま、いいけど。
一人に対して呪いの対価はそうだなぁ……なんか甘いお菓子食べたい気分だしなぁ」
「それなら先日オープンしたお店の一番人気のタルトレットと、貴方がお気に入りだって以前話してたお店のバターサンド、それから……そうね、私お勧めのお店のマカロンを、月一で一年間。定期的にお届けでどうかしら?
途中でお店が閉店した場合他のお店の美味しい物に変える事もあるかもしれないけれど」
「それって一か月に一度纏めて届く感じ?」
「いえ、十日に一度くらいにしておくつもりよ。一度に纏めて食べたいの?」
「んーや、一度に食べると飽きちゃうからそれでいいよ」
「その他にもお勧めがあったら届けるわ」
「やったー」
交渉成立である。
それでいいのか、と魔女をろくに知らない相手からするとそう思うかもしれないが、この魔女に関しては何も問題はない。あまり人の多いところへ足を運ぶと、もしそこで何らかのトラブルがあった場合色々と面倒な事になりかねないので。魔女と知られているのも良し悪しである。
できれば気になってるお店の商品とかほしいんだけどなー、と思っても面倒事を回避する方が大事。
なのでジュリアの申し出は魔女にとってむしろ喜ばしいものだった。
お金とかはどうせ稼ごうと思えば稼げるし。宝石とかもまぁ、自力で作ろうと思えば作れるし。
だが美味しい物に関しては、自分で作るより人が作った物の方がダントツ美味しく感じるので。
しかもそれが一年間定期的にお届けされるのだ。
しょぼい呪いを三人にやるだけで。
魔女からすれば破格であった。
魔女的には対価に近所のお店で売ってるケーキをワンホール、くらいで終わるかなと思っていたので。
だからこそ魔女は、それじゃあちゃあんとお仕事として呪っちゃうぞー! と張り切って呪ったのである。
結果として。
ジュリアとジェイソンの婚約はつつがなく解消された。
解消なのに慰謝料までもらってしまった。
慰謝料の時点で向こう有責の破棄ではないのか、と思われそうだが、解消である。
慰謝料はあくまでもジェイソンの両親がお気持ちとして自ら支払ったものだ。
ジェイソンとその両親が呪われた事はすぐに判明した。
体内をじわじわ蝕む病のような呪いであれば気付かれなかったかもしれないが、その呪いは誰がみてもわかるように外見に出るものだったので。
そしてジュリアは三人を呪った事をあっさりと白状した。
本来であれば。
その事実は糾弾されジュリアは罪を償う事になっていただろう。
しかし事の発端は婿入り予定のジェイソンの浮気である。
他に好きな相手ができたなら穏便に解消するつもりも、そうじゃないにしてもどこかで落としどころを見つけるために話し合いを、と持ち掛けていたのにも関わらずのらりくらりとジュリアを避け続けていたジェイソンの態度がそうさせるに至った。
結婚前は好きにさせろと言っておりましたので、では結婚したらその呪いは解けるようにしておきましたの。
そうジュリアが言えば、では結婚しないままなら呪いはこのままなのか? とジェイソンの父――ニコル公爵はそう問いかけた。
それに対してジュリアはにっこりと笑って、勿論ですわと答えた。
結果として、婚約は解消されたのだ。
慰謝料という名目の、そのままずっと呪っておいてね的な謝礼と共に。
それに対して反対していたのはジェイソンだけだったが、両親はジェイソンの事はとりあえず件の浮気相手と結婚させた上で目の届く範囲で囲うか、そうじゃないなら領地で生涯幽閉しておくことにしたらしい。
何せ呪いの起点は間違いなくジェイソンだ。
彼が死ねばそのまままだ生きているニコル公爵も、その妻であるウリエラの呪いもそこで解けてしまうかもしれない。
ならば、ジェイソンには長く生きてもらう方がいい。そうして呪いを長く維持し続けるのだ。
「やっぱり、親を味方につけるのって大きいですわね」
後日、魔女のところにこれは成功報酬ですわ、と言いながら菓子折り持参でジュリアはやって来て言った。
ジュリアの両親はジュリアが幸せになれない結婚をするくらいなら、と婚約を解消させる事も視野に勿論入れていたのだけれど、しかし相手の家格が上。こちらから解消を申し出たところで、向こうがごねれば婚約は継続、そしていずれはジェイソンが婿に、というのは避けられない流れだった。
だが、公爵夫妻が婚約の解消を望んだのでジェイソンがいくらごねたところでジュリアとジェイソンの婚約はあっさりと解消された。
所詮跡取りですらないスペア以下の息子、と言ってしまえばそれまでか。
普通、呪ったならそんな相手との付き合いなんてしたくもないだろうけれど、しかしジュリアは公爵夫妻にこれからもお互いいい関係を築いていこうね! と凄い好印象を持たれて家同士が敵対するなんてありえないよとばかりの事になってしまった。
「あんなしょっぼい呪いでなんでそこまで感謝されてんの?」
魔女としてはそれが一番の疑問である。
「簡単な話ですわ」
魔女は直接公爵夫妻を見たことがないから疑問なのかもしれないけれど。
しかしあの二人を見た事がある人ならば、別に何もおかしな話ではないのだ。
ニコル公爵は、ぶっちゃけて言えば禿げだった。
遺伝的なものなのか、ニコル公爵の父も祖父も、聞けば更にその先の曽祖父といったご先祖様たちも、どうやら年齢と共に髪の毛が旅立っていく家系だったらしく。
それはニコル公爵もそうであったに過ぎない。ジェイソンはまだその兆候はなかったけれど、彼の兄は既にそうだった。だがジェイソンの兄は早々に潔く剃ってスキンヘッドにしてしまったのと、案外それを気に入っているようなので彼だけが、家系における悩みから一足先に解き放たれていたのである。
ニコル公爵の毛髪は側面だけが微妙に頑張って残っていたが、頭頂部は見事なまでのツルッツル。太陽の光を反射して輝くくらいにピッカピカ。
どうにか側面の髪を上の方に流して隠そうとしていても、隙間が見えているせいで余計みっともなく見える始末。いっそ開き直って全部剃ってしまった方がまだ見た目はマシになるかもしれないが、剃ってしまった結果まだあった毛髪とも永遠にバイバイするまでの勇気をニコル公爵は持ち合わせていなかった。
そうでなくとも、ニコル公爵がもっと厳つい体格であったなら、スキンヘッドも似合ったかもしれない。
けれどニコル公爵はどちらかというと瘦せ型の体系で、その上で髪を全部剃ってしまうとひょろひょろの坊主にしかならない。いくら着ている物が立派なものであっても、どうしたって貧相さが消えないのである。ニコル公爵以外の――父や祖父、曽祖父といったご先祖や息子たちはむしろがっしりとした体格なのに、彼だけが何故だか細身であった。
公爵という身分なのにその見た目は流石に威厳も何もあったものではない。
だからこそ、ニコル公爵は苦肉の策としてカツラを使用していた。
だがそのカツラはニコル公爵に似合うものではなく、周囲が見ればバレバレであった。
しかし違和感のないカツラを作ろうにも中々に難しく、公爵は陰で禿公爵と呼ばれていたのだ。
そして夫人のウリエラ。
こちらは遺伝的なもので髪が、というわけではなかったが数年前に罹った病気を治すための薬の副作用で髪質が変化してしまった。
以前はふわふわでボリュームのあった髪は、すっかりと細くなってボリュームも大きくダウン。
そうなるととても貧相な感じになってしまったのだ。
下手をすると頭皮が透けて見える部分すらあった。
そんな状態で社交に出るなど、女性としては死活問題である。
髪を隠すように帽子をかぶっても、場所によっては取らないといけない事もあるし、そうなると薄くなった頭を晒す事になってしまう。
男性の禿はもう年齢や遺伝的なものとして知られているからまだ開き直りようもあるかもしれないが、女性の禿は中々そうもいかない。
結果夫人は病気がまだ治っていないのだという事にして、すっかり引きこもってしまうしかなかったのだ。
ところがそこでジュリアが魔女に依頼して呪った事で、二人のお悩みは突然解消された。
ジュリアが魔女に願った呪いは、縦ロールの呪いである。
もう二度と生えてこないと思っていた頭頂部からも髪が伸び、それらがぐりんぐりんドリルを形成しているとはいえ豊かな縦ロールとなった公爵は、禿から解放された。
髪型に関して贅沢なんて言っていられない。無いよりマシ。禿公爵が縦ロール公爵と呼ばれる事になるだろうけれど、禿より全然マシだった。肩のあたりで揺れる縦ロールが自分の毛髪であるというだけでもう愛おしい。無縁だと思われたキューティクルという言葉が突然身近になったのだ。世界が色鮮やかに変化し、煌めいて見え始めた――と後にニコル公爵は語ったがそれはさておき。
ウリエラ夫人もまた、突然できた縦ロールに髪型を変えておしゃれを楽しむ事はできないが、しかし地肌が透けて見えるような事もなく、むしろ以前の貧相な頭と比べていっそゴージャスになったとなれば。
人前に出る事も今までは避けていたけれど、これなら全然問題なく社交の場に出る事ができる。
髪型が縦ロール一択だろうとも、それに合わせたコーデなんていくらでも考えてみせますわ! という気持ちで夫人はみるみる元気を取り戻した。
縦ロール夫妻と呼ばれる事になってもお互いの仲は以前から睦まじいもので、どちらも伴侶が禿げたからといって愛を薄れさせる事はなかったが、やはりお互い気にしていたのは確かなので。
そのお悩みが解決された事に大いに喜ぶしかなかったのである。
ところが、そのお悩みはバカ息子のジェイソンが本来予定していたジュリアの家に婿入りすれば呪いが解けて元に戻るというではないか。
冗談ではない。
また禿に戻るくらいなら、浮気するバカ息子の未来よりむしろ公爵家の未来を取るに決まっている!
どうせ婚姻前から浮気するような馬鹿な息子だ。
一応言い聞かせていたのに、親が勝手に決めただの、反抗期もあるのかもしれないがそれでもやらかしていたのだから、結婚後に突然マトモになれるはずがない。
むしろ結婚後にもあの浮気相手の令嬢と一緒にいて、相手の子をジュリアの家の子だと無理に押し切るような事をさせようものならお家乗っ取り重罪処刑コースまっしぐらである。
そこまでしないにしても、結婚前からすっかりジュリアはジェイソンに愛想を尽かしたようなもの。
そうなれば、結婚後にジュリアに蔑ろにされたバカ息子がどんなことをするかなんて、色々想像がつくけれど、まぁロクな未来はないだろう。
であれば、婚約を解消しこの呪いを継続してもらった方が余程……となったのだ。
今までは禿げている事を気にして不必要な被害妄想すら持っていたが、しかしこうなればそんなものに心を悩ませる必要はなくなる。以前にもまして公爵として執務に臨む事ができるし、塞ぎ込んでいた夫人も以前のような輝きを取り戻したも同然だ。
呪いにしろそれ以外の依頼にしろ、魔女の対価は毎回固定ではない。人によってはそれくらいで、と思うモノで済む場合もあるが、逆にとんでもない対価を要求される事もあるのだ。だからこそ息子が結婚した後、再度改めて呪ってもらおう、と考えるのはあまり良い考えとは言えない。
バカ息子を結婚させて呪いを解除するよりも、このままの方が公爵家は発展する。間違いない。
そして、バカ息子のせいでそんな決断を下してしまった事は申し訳なく思っているが、呪いを解除されるとこっちも困るので是非そのままでいてほしい。ついでにその呪いが思わぬ助けになったのもあって、公爵家としてはジュリアの家とはむしろそのまま末永く親しいお付き合いをしていきたい所存。
バカ息子の結婚はなくなったけど、むしろ公爵家を救ってくれたようなものだから、何かあったら是非とも言ってね力になるよ! とばかりである。
「ほへー。あの呪いで幸せになる人いたんだ」
「それがいましたのよ」
「何をどうしたって髪型が縦ロール固定する面倒な呪いだと思ってたのに」
「禿げた人からすれば髪があるだけで素晴らしいものなのですわ」
「そうなんだ、人間てやっぱよくわかんないね……」
ちなみに風の噂によると。
ニコル公爵は細身体系であったし、顔立ちも中性的なので縦ロールもそこまで違和感がなかったが、しかしバカ息子と呼ばれるようになってしまったジェイソンはどちらかと言えばがっしりした体格であったがために、縦ロールがビックリするくらい似合わなかったらしい。
ジュリアは見ていないのでどれくらい似合っていないかまでは知らないが。
噂だと、絶対に似合わない女装したムキムキの化け物みたいなもの、とか言われていたらしいが。
目撃者からすると思わず笑っちゃうくらい酷いものだったらしいけれど。
ついでにその姿を見て浮気相手とされていた件の令嬢は化け物を見たみたいな反応をして速やかに逃げたらしいのだけれど。
残念ながらジュリアがそれを目撃する機会はなかったのである。
ちょっと見てみたかったな、と思ったジュリアであった。
次回短編予告
公爵令嬢エリシアは己の現状をよく理解していた。
母の死、父の再婚。やってきた後妻と、血の繋がりが半分だけある妹。
彼らに虐げられるのも、妹を虐めただとかの言いがかりをつけられるような事も、それ以外の面倒事も。
何もかもごめんだった。
だからこそエリシアはさっさと泥船から抜け出したのだ。その後の公爵家はというと……
次回 悪役もドアマットもお断りですわ
まぁ、悪役もドアマットもいなくたって駄目な時はダメになるものですけれど。