1話
ダンジョン都市、クアロ。ここに1人でダンジョンに潜る獣人の冒険者がいた。彼の名はゼノン。『沈黙の孤狼』の二つ名を持つ金級冒険者である。
「グォォォ!!!」
「はぁ(面倒だ)」
ダンジョン内の魔物をロングソードで切り捨てていく。魔石とドロップアイテムを残して死んだ魔物が黒い霧となって消えていく。
残ったアイテムを収納付きの肩掛けのマジックバッグにしまってい少し休憩する。ゼノンが休憩をしていると、
「誰か助けてくれ!仲間が死んじまう!!」
「コケェェー!!!」
近くから助けを呼ぶ声と魔物の叫び声が聞こえ直ぐに向かう。叫び声が聞こえた場所に着くと頭から血を流した金髪の女を鶏型の魔物からかばうように赤髪の男が覆いかぶさっている。
「ッ!すまない!あ、アンタは!」
「コケェ?!」
「フン。(キングコッコか。うまいんだよなコイツ。)」
啄もうとしていたクチバシを剣で弾き蹴り飛ばす。そのまま体勢を崩して首を切り落とす。首を切り落とすと直ぐに黒い霧になりドロップアイテムの魔石ともも肉、羽根を残して消えていく。
「済まない助かった(や、やっぱり沈黙の孤狼だ)」
「ああ。(危なかったな。ポーションもなさそうだし渡しておくか。)」
マジックバッグから、ポーションを取り出して渡して、ドロップアイテムをしまっていく。
「済まない。助けられた上にポーションまで。」
「ああ。(気にするな。)」
ゼノンが頷くとポーションを女にかける男。ポーションをかけるとみるみるうちに傷が治っていく。傷が治っていくと荒かった呼吸が緩やかで規則正しいリズムになる。その様子を見ていた男が安堵の表情を浮かべる。
「ダンジョンから出たらポーション代は払う。あとで酒を奢らせてくれ。っと名前を名乗るのを忘れていた。俺の名前はローガンだ。寝てるコイツは、マリーナだ。一人でダンジョンに潜っているとこを見るにアンタは沈黙の孤狼だよな?」
「ああ。(よく知ってるな)」
ローガンが手を伸ばし握手を求めてくるので答えるゼノン。握手を終えると申し訳なさそうにローガンが、
「済まないだが、武器も防具も壊されてされてしまってダンジョンから出れそうに無いんだ。助けてもらったうえにこんな事を頼むのはおかしいかもしれないがダンジョンの外まで頼めないか?」
「ああ。(まぁ、死んだら目覚めが悪いから外まで連れていくつもりだったんだがな。)」
ゼノンが頷いてダンジョンの外への道に歩みだすと慌ててマリーナを背負うローガン。
「で、どっちが出口なんだ?」
「ん(こっちだ)」
指を指すゼノン。その後ろを歩くローガン。ダンジョン内を歩いていると急にゼノンがローガンの前に手を出し静止させる。
「待て(魔物がいるな。)」
「?なんだ?ッ!」
草むらかでてくる蛇に似た魔物が飛びかかってくる。飛びかかってきた蛇の頭を切り落とし頭に噛みつかれないように消えるまで頭を串刺しにする。
「済まない助かった。」
「ああ(気にするな)」
「しかしよく気がついたな。どうして気がついたんだ?」
草むらを指を指すだけのゼノン。何がいいたいのかわからないローガン。
「済まない。俺にはさっぱり理解出来ないんだが……」
「ああ(そうか?草が不自然に倒れていると思うんだが。)」
道中無言の時間が続く。正確に言うとローガンは話しかけているのだがゼノンの返答が『ああ』しかなく話が広がらない。
「……なぁアンタは何で一人でダンジョンに潜っているんだ?」
「ああ……(誰もパーティーを組んでくれなかったからな。)」
悲しそうな目をするゼノンを見て、仲間は死んだものと勘違いをするローガン。
「……済まない。悪いことを聞いた。」
「?ああ。」
先程に比べ更に死んだ空気。何度か魔物の襲撃があったが、全てゼノンに切り捨てられる。
「……(流石、沈黙の孤狼。噂通りの強さだ。……出来れば会話を続けて欲しいんだがなぁ……)」
ローガンがゼノンについて考えているとダンジョンの浅い階層になってきたのか潜っている人が増えてくる。
「ん。(この辺でいいだろ)」
「アンタのおかげでマリーナの命も助かった。本当にありがとう。」
「ああ。(冒険者は助け合いが基本だろ。次は気をつけろよ。)」
ダンジョンの入り口付近まで送りダンジョンの奥に戻るゼノン。その足取りは何時もより軽い。
「……(久し振りに人と話したな。)」
周りから見たら話しかけても返事しかしない無愛想な男でしかなかったのだがゼノンからすれば会話がはずんでいたようである。
その日は浮かれてあまり魔物を狩れなかったゼノン。別れて直ぐにダンジョンから出ていく。
「はぁ(今日はあまり狩れなかったな)」
ダンジョンから出て冒険者ギルドの解体場に向かう。解体場に向かうと着ている服が今にもはち切れそうな筋骨隆々な金髪で無精髭を生やした男が近づいてくる。
「おう!ゼノンか。今日は早いじゃねぇか!なんかあったか?」
「ああ。(リカルドか。今日は色々あってな)」
「相変わらず無口なやつだ。で、今日はどれくらい狩れたんだ?」
マジックバッグに手を突っ込み狩った魔物のドロップアイテムを出していく。小さな山が出来上がるが気にせず取り出していく。
「しっかし、何時見てもやばい容量だなそのバッグ。それを売ったら一生働かなくても暮らせるだろうに何で冒険者を続けてるんだ?」
「ああ……(いや、これ呪われてるし外せないんだよな。)」
バッグを外そうとするゼノン。肩から外れないマジックバッグ。紐が千切れるんじゃないかと言うほど引っ張るが外れない。
「そうか、売る気ないんだな。まぁあんたの場合、売らずにダンジョンに潜ったほうが稼げるもんな。」
「ああ……(いや、売れるなら売りたいんだがな。)」
「さて、仕事しますかね。数が多いからいつも通り明日になるがいいよな?」
「ああ。(まぁこの数だしな。)」
「じゃあ明日の昼過ぎに来てくれ。」
リカルドの言葉に頷き、解体場から出ていく。
「……(少し早いが酒を飲むか)」
何時もより時間が早いが、酒を飲みにギルドの内の酒場に向かう。酒場に入るとフリルがたくさんついた服を着た金髪の女性声をかけられる
「あれ?ゼノンさん。今日は早いですね。まだ昼過ぎですよ?こんな時間から飲むんですか?」
「ああ。(ジェシカか。まぁたまにはいいだろ。)」
ジェシカがため息をつきながら訊いてくる。
「はぁ、今日だけですよ?で、いつものでいいですか?」
ゼノンの返事を聞く前に木でできたジョッキにエールをなみなみ注ぎゼノンの前に置く。
「ああ(やっぱり仕事終わりはエールだよな。最近はラガーも出てきたがあっちは少し飲みやすくて悪酔いしやすくてな。)」
ゼノンの返事を聞くと厨房に向かうジェシカ。しばらくエールを楽しんでいると、
「はい、お待たせしました!日替わりセットです。」
「ああ。(やっときたな!今日はなんだろうな)」
目の前に3品の料理が運ばれてくる。置きながらセットの内容を説明するジェシカ。
「今日の日替わりセットは、コッコの赤ワイン煮に、豆のトマトスープ、ガーリックトーストになります。」
「ああ。(今日もうまそうだ。)」
説明を終えたジェシカが離れるのを待ち、食べ始める。
「……(まずは、スープからだな。)」
スープをスプーンですくい一口。口の中にトマトの酸味とハーブの香りが広がり、その後にトマトの優しい甘さが疲れた体に染みる。
「ふぅ。(何時食べてもここの料理はうまいな。次は豆ごとだな。)」
今度は豆ごと口に含む。噛んでみるとホクホクとした豆にサラッとしたトマトのスープがよくあい、食欲を刺激する。
ガーリックトーストをスープにつけて食べるか、悩んだが先にコッコの味を確かめてからにする事に決めた。
骨の近くの肉にフォークを刺すと簡単にほぐれていく。
「……(これは凄いな。ホロホロだな。)」
骨を素手でつかみ、フォークとナイフで完全に骨を取り外し、フォークからスプーンに持ち替えて肉と、煮汁をすくって口に運んでいく。
「ふむ。(うまいな!あー酒が進む。)」
肉にワインの酸味と火を通したことで少し甘くなったワインの味が染み込んでいる。歯が要らないぐらい柔らかい肉は、ホロホロなのにしっとりしている。
肉を噛むたびに、ジュワっと熱い肉汁があふれてくる。それをエールで流し込む。
「む。(飲みきってしまったな。)」
「あ、お酒お変わり要ります?」
「ああ。(頼む)」
通りかかったジェシカが、エールを新たに持ってくる。エールが来るまでに、ガーリックトーストにコッコを乗せて味わう。噛むたびにニンニクの染みたパンからジュワっと油が染み出てきてコッコの肉によく合う。
「あ、(キングコッコ売っちまったな。まぁいいか。)」
キングコッコを売ってしまったのを思い出すが、酒が入ってるため深く気にしないゼノン。その日はつぶれるまで飲んで起きたら昼前になっていた。