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ボクの発表会 第 五・五 章

第 五・五 章です。六章ではありません。五章をぶった斬った後半です。

その流れで、お楽しみ願います。

 まさか!?

 先程の、くるみ割り人形が帽子と仮面を外して素顔になっている。


 でもゆっくりと身体を持ち上げたその姿は、山本さんじゃない。

 違う、明らかに違う。


 そう。

 その姿こそは、夢にまで見ていた先輩の、

 ネギお姉ちゃん、その人だったから。


 ボクの表情が、ハッと驚いた、まさに驚きの表情になった。

 しかし、これは演技ではない。本当に驚いていたから。


 ほんのわずかだが、思わず演技を忘れて立ちつくした。

 ここが舞台の上だという事すら忘れていた。

 顔と顔を合わせ、お姉ちゃんはにっこり微笑み、

 すぐ顔を引き締め、目と口パクで『続けて』と伝えた。

 我に返った。ここは舞台の上だった。


 音楽が追いかけてくる。

 それに合わせて、演技を再開させる。

 喜びに両手を広げ、相手に向ける。鏡のように同じ仕草をするネギ王子。

 2人の両腕が、ハートマークを作るかの様に動く。


 そして互いに距離を取ったところで、くるっと振り向いて、顔と顔で見合わせる。

 やっぱりお姉ちゃんだ。

 でもその表情は演技ではなく、それぞれが本当の喜びの表情になった。

 喜びを通り越して、少し情けない顔になった。

 涙は、堪えた。必死で堪えた。


 でもその仕草と表情が、観ている観客にも伝わったらしい。

 何か起こった。何かが違うと。

 2人の間にある、喜びと、驚きと、そして信頼・心と心でつながる何かと。



「ねぇ、ちょっと、アレ」

「うん。コレ、本物だよね」

 客席で、小さくうなづき合う観客の女の子。

 この2人は、本当に今、恋をしている!!


 プロであれば、その演技はもっとスマートだ。決まった型の『恋する2人』を決まった段取り通りに完璧にこなす。こう来れば、こう返す。コンマ数秒のタイミングで、流れる音楽通りの振り付けで踊る。

 もし演ずる人が代わったとしても、微妙に表現方法が変わるかもしれないが、見る方はその予定調和の中で流れるように動く演技を安心してみる事が出来る。

 同じ曲は誰が演奏しても、誰が歌っても、基本的には同じ。同じ台本なら、誰が振り付けても誰が演じていても、基本的には同じだから。


 でも、この2人はそうではない。微妙に狂う予定調和が、見る方を不安にさせる。

 ヘタなのではない。確かにプロの演技には及ばないが、そういう次元のものではない。

 互いに探り合っている。これで良いの? 触れていいの?

 見つめ合う微妙な表情の中で、ふと目をそらす瞬間。まるでそれぞれが、互いに気持ちを確認し合っている様に。


 だから分かる。これは演じているのではない。

 本物だ。本当に今、恋に落ちた瞬間を、見ているのだと。


 一体、この2人は何なのか?

 もう、一切目を離せなくなった。


 そして、この王子様は明らかに、先程のくるみ割り人形氏ではない。

 あの力強く、筋肉質の武闘派ではない。

 同じ軍服に身を包んではいるが、背はかなり小さい。身体も華奢だ。それより何より、明らかに胸がある。

 この人は女性。男装の麗人。

 まさにタカラヅカの様に、舞台に映えている。


 アリだ。

 これは、絶対にアリだ。

 

 もはや観客は先程までのくるみ割り人形と、完全なる別人であるこの王子様を受け入れ、見惚みとれた。



 クララ・アユミが見ている前で、ネギ王子様は自己紹介をする様に、起立してアンオー。一歩進んでターン。片足を後ろに伸ばしてポーズ、片手を上に掲げてターン。

 そして後ろに駆け足で戻って、大きくジャンプして回転。クルクルと反動をつけて回転した後、さあどうぞと手を前に差し出すポーズをした。

『どうだ? 僕の王子様は』そんなお姉ちゃんの声が聞こえてきそうだ。


 それを見てボクも、ゆっくりとステップを踏んだ後、大きくアラベスクから、パドブレでちょこちょこ歩いてまたターンして、左手を大きく上に上げてのアティテュードで、また見合わせる。

 見て欲しかった。ボクは練習したんだよ。お姉ちゃんに見て欲しくて。こんなに。

 ネギ王子はゆっくり頷いた。


 そこから2人で向かい合って踊ったかと思うと、ボクはつま先立ちでちょこちょこパドブレで逃げていった。

 音楽に合わせて染みついてしまった振り付け通りだが、同時に追いかけてきて、と誘っているのだ。

 それを王子様は、後ろからゆっくりと大股で追いかけてきた。途中大きくペアテで空中回転。追いつかれて、その後ろに立って、一度手と手を取った。

 その触れた指が電気が走った様に痺れた。それを感じて王子様はしっかりその指を、でも優しく包み込むように握ってくれた。ギュッと握りあって、ペアで同じ舞を踊る。共に両腕を大きく振って、重なる様に大きくジャンプする。

 そして、再度手と手がしっかりつかみ合う。ギュッと握る、安心感。幸せ。

 一歩、前に歩いて右足を大きくバットマンで蹴り上げる。そして一歩進んでくるっとターン。


 ボクは山本さんとは、さんざん合わせて練習したが、お姉ちゃんとは一度も組んで練習していない。

 なのに、ピタっと動きが合っている。こっちの動きを予測していて、必死でお姉ちゃんが合わせてくれているのか。

 凄いけど、驚かない。だってお姉ちゃんだから。



「凄いのだ!。ネギもアユミも、一回も合わせで練習していないのに」

「ああ、一応俺が、アユミちゃんとこう練習したよと、王子の振り付け練習というか打合せしたり、花江さんが代理で相手して練習したけどね」

「そうなんだけどさぁ」

 袖から、花江とキーちゃんと山本さんは心配そうに舞台の方を見ていた。

 ある意味、ぶっつけ本番。

 そして一回こっきりの舞台。失敗しても後は無い。

「でも、息が合っているのだ」

「そりゃそうよぉ。あの二人だもん」

 それを信じて、皆が舞台を整えた。皆が共犯者グルだ。

 皆、息をのんで舞台を見守った



 舞台は、まだまだ続く。

 そこから王子はボクの右手を掴んで大きく上に持ち上げて力強く支えてくれる。それを信頼し、支点にしてボクはデヴェロッペのポーズを取ったまま、ゆっくりその手の下をくぐる様に、くるりと回転した。


 再度ペアで同じジャンプとステップをした後、今度は互いの両手を持ったまま、クララはアラベスクで、王子はその手を持ったまま、その周りをゆっくりと歩いて1周回る。クララ自身は何もしないままの一回転ビルエットをした。


 嬉しい。お姉ちゃんとこうして2人きり。同じ舞台の真ん中で一緒に踊っている。

 それを皆に見られている。

 まだまだ拙いボクの踊りを、お姉ちゃんがエスコートしてくれている。


 ゆっくり回った後、2人でまた大きく駆け出す。飛んで、跳ねて、シンクロしながら空中で回転して。

 とても嬉しい、楽しい、喜びに満ちた舞を互いに見せ合って。


 そして、ここが見せ場!

 お姉ちゃんはボクの腰に手を当てて、2人で大きくステップ、同時にお姉ちゃんはボクの腰の部分をしっかり持ってリフトさせたまま大きくホップ。身体は腰で支えられているから、とても滞空時間が長い。そして2回目のステップ、空中を舞うように遠くへジャンプしたら、そのままお姉ちゃんはボクを持ち上げ、肩の上までリフトアップしてくれた。


 ふと気が付いた。練習では、あの山本さんだから軽々と持ち上げてくれていたが、正直ボクとお姉ちゃんじゃ身長も体重もほぼ同じ。さすがにこのリフトは無理があるんじゃないか?


 一旦は、全てを王子にゆだねる様にして、身体が横になったアラベスクだが、少し不安定。

 そのまま舞台の左から右へ、歩いて行こうとしたが、ガクっと大きくバランスを崩した。


『!!』

 

 でもボクはお姉ちゃんを信じた。

 そのまま全て身を、お姉ちゃんに任せた。


 端から見たら、王子は大きくガニマタになって、なんとか落とさない様に耐えていた。耐えたが、このままもう歩けない。ゆっくりと、まるでこれが本来の振りである様にゆっくりと舞台の上に降ろした。

 そのまま何事もなかった様に、2人して手を取り合って、本来降ろすべきところまで音楽に間に合うように小走りした。


 なぜか観ていた観客から小さく拍手が起こった。



「ちょっと、何でこんなところで拍手があるのよぉ」

 別の所から、意地悪三人組の内二人・高井と小玉が舞台の方をを見ていた。二人なのは、このシーンのすぐ後で太っちょの子・太田の出番があるから、ここにはいないのだ。

「完璧に観客らを味方につけたみたいやね」

 その後ろから、紗妃が声をかける。

「卑怯よ。ヘタなのを逆に武器にしちゃうなんて」

 小玉が言う。

「それだけと思う?」

「え?」



 観客たちは、時々危うい動きのあるこの二人の演技をハラハラしながら見ている。

プロの舞台なら絶対ミスなどあり得ないものだ。ウルトラC・超難度の高い技でもプロは平気な顔で決めるのを、また観客も平静な気持ちで見る事が出来る。

 だが、ここはプロを目指す子達が日ごろの練習の成果を見せる発表会だと、そんな事をも今、観客たちは気付かされてしまった。


 今、舞台にいるのが知らない子ならば平然と観る事ができるのだろうが、もしそれが身内だったら、自分の子だったらどうだろうか。ごく普通の技や演技をも、心配そうに見ているだろう。


 そう。今、観客たちは、まさに自分の子か妹がやっているのを観るがごとく、舞台をじっと見つめながら拳を握りしめていた。


 それと同時に、感受性の強い人達は、この舞台の上の二人が、ただならぬ関係であると感じていた。

 みつめ合う表情。ときおり見せる、心配そうな目。

 そしてそれは動きにも表れる。

 未熟なクララを、必死で王子様はカバーしている。

 ちょっとためらうように、壊れ物を扱うように、気を使いながらその手を取る。

 そしてクララは、全面的に王子を信頼している。もし失敗したら、大きく転倒するだろう場面でも躊躇ちゅうちょせず身を任せている。

 そしてまた見つめ合う時に変わる表情。

 単なる信頼関係だけでは説明できない。

 もしかして、本当に愛? などと穿うがった目で見てしまう。


 観る人が見れば、明らかに女同士と判る。まぁ男性ダンサー不足のバレエ界、特にこんな発表会では、男装の王子も珍しくはないが、そこに倒錯した愛を感じてしまうのは自然な流れなのかもしれない。


とうといわぁ……』


 なぜか、そういう目で見られた。

 もう、会場は完全に異常な熱気で覆われていた。



「本当に反則よ。ポワントは不安定だし、止めは不完全だし、回転遅いし、軸もブレているし、」

 チビの子・小玉が、毒づく。

「でもなぁ」

「何よ!」

「じゃあ何で今、泣いとんや?」

「えっ?」


 そう言われて、小玉もノッポの子・高井も、自分自身の目が微妙に涙でうるんでいる事に気が付いた。

「まぁ、観客も正直やな」

 紗妃は、会場全体を見渡した後、大きくため息をついた。


「でもなぁ、この子達の舞台はここだけ。次の、雪の国でのクララは、あの子に交代するんやろ?」

 そう言われて二人は、ハッとする。

 だから今、ここに太田はいないのだ。すぐ次の場面の為にスタンバイしている。

「主催者側は当初からその予定で段取りしとるけど、観ているお客さん的には、当然この2人が出てくるもんとして期待しとるわなぁ」

 二人はそう言われて、顔を見合わせる。

「そしたら見た目から全然違う2人が、この雪の精の群舞コールドの中を、嬉しそうに横切ったり踊ったりする訳や」

「あああ……」

「ウチやったら、そんな役は絶対に嫌やな。ちょっと同情するわ」

 2人は、思わず身震いして抱き合った。



 ネギとアユミは小走りして、音楽に間に合って指定の場所に着いた。

 そこで一回、大きく跳ねる様にグランパドウシャ・ジャンプ開脚してターン。ネギ王子も少し遅れて、トレースする様に同じ大きくジャンプ開脚し、同じ位置でターン。2人で駆けまわり、離れてはまた近付いて。軽くリフト……する筈だったが諦め、その代わりに地に足を付けた状態で段取りと同じパンシェしたアラベスク。王子もシンクロする様に同じポーズで重ねる。

 音楽的には一番の盛り上がり、本来ならバシャーンとシンバルが鳴るタイミングでリフトからぐるっと回してポージングなのだが、それが今回出来ずに地上でのシンクロをする。

 一瞬見せた、ネギお姉ちゃんの悔しそうな表情が、痛い。


 その後の見せ場。腕を小さく抱える様にしたアンナヴァンでビルエット・連続回転すると、王子はその腰を支えながら、さらに両手で腰を持って回転を加速させてくれる。自力ではこんな高速連続回転は無理。



「あらぁ。やっぱりさ、連続リフトは無理があるわねぇ」

 花江の言葉に、山本もうんうんと頷いた。

「一応練習ではさぁ、アユミの代わりにリフトの練習はしたんだけどねぇ、やっぱ同体格では無理ねぇ」

 花江はアユミ程も背は高くないにしても、練習相手としてはちょうど良い位。


「ちょっ? 花江ーっ。こっそりネギとそんな練習していたのかー」

「当然よぉ。相手無しで、どうやって王子様の練習できるのぉ? みっちりやったからさぁ、私もいざという時はクララの緊急代役ぐらい出来る様になったわよぉ」

「ずるいのだ。キーもやりたかったのだ」

「キーちゃんじゃ無理よぉ。しかも出来るだけ秘密行動しなきゃダメだったしぃ」


 花江は腕を組んで、ふっとため息ついた。苦労した、というドヤ顔と、肩の荷が下りたという安心感と。

「でも念の為、リフト出来なかった時の為の、地上で代わりの動きを練習していて良かったわぁ」

「もしキーが相手だったら、何とかなったのか?」

 キーちゃんの身長は135ぐらい。体重も相応。楽勝ではないだろうが、アユミよりは、はるかに楽だ。

「んーそぉねぇ、多分ーっ、出来ただろうけどぉ、余裕はないと思うわぁ?」

 と花江は腕を組んだまま言った。


 そうしたらキーちゃんは山本の方を見た。山本の腕力なら、アユミでもネギでも、例の太っちょ・正クララでも、楽勝だろうから。

 その視線に気付いたからか、

「そうだな、もしキーちゃんがクララだったら……」

 山本が重い口を開いた。

「リフトどころか、1m上に放り上げて、しっかり受け止めてやる」

「ふわぁ……♪」

 キーちゃんは山本をうっとりとした目で見て、逆に花江は冷ややかな目で山本の方を見た。



 舞台の上。

 王子とクララは再度離れる。舞台の左右のソロで喜びの舞を踊る。

 そして王子は近付いてきたクララの手を取った。その手を支点にして、足を大きく上げて回転。その後、抱きかかえるがリフトはしないで、アラベスクでビシッと手足を伸ばして、止め。


 そこからネギ王子は少し離れ、両足での連続回転の後、大きくジャンプして回転。地に足がついたところで大きく派手にターンした後、片膝をついて求愛のポーズをこちらに向けた。

 あ、練習で山本さんとやっていた時には全然気にならなかった。そうされて思わず、はにかんでしまうリアクションも所詮振り付けの一つだと思っていた。


 でも今、お姉ちゃんにされて、凄く胸が苦しくなった。クララとしてのリアクションとしては同じだが今、本当に嬉しくて胸が苦しい。でも本当にそうなの、そう思ってくれているの? って思ってとても切ない。そして、そう思っている事が表情に全部出てしまっている様な気がする。


 でも、それを見てか、お姉ちゃんもちょっと照れている。


 観客たちも、なぜか照れている。


 何人かの百合女子・男子は萌え死んでいる。


 そして、ここからは最後の一連の動き。

 本来なら一緒に端から中央までシンクロして移動&軽く抱えてアラベスクから、止めポーズで終了するところ。


 でもネギはアユミに、目と口パクで訴えた。

 『やるよ』と


 まさか、ここでさっき出来なかったリフトのリベンジを!?

 本来なら先程までの間に2回、リフトが入っていたが出来なかった。もし王子様が山本さんなら余裕で出来ていたリフトを、ネギはのその力の無さで出来なかった。

 そのリベンジがしたいのか? 本来ならリフトとも呼べない様な、軽く持ち上げる振り付けを、今からアドリブで大きなリフトに変えて。 

 そんな意思が、その一瞬で伝わってきた。

 不安だが『分かった』と小さく頷いた。


 シンクロして一緒に駆け出す。

 そしてアユミは大きくジャンプした。

 それをネギは腰で抱えて、大きく上に持ち上げる。


 リフトした!

 その突然の動きに、観客も思わず立ち上がった。

 スタンディングオベーションだ。


 アユミは持ち上げられた上死点で、右手と右足をピンと伸ばして伸びきり、左足はルティレでポーズを決めた。

 反動で降りてくるアユミを、ネギは抱え直す様に両手を組んで力が入る状態で受け止め、足はアテールで多少ガニマタになったが耐えた。耐えて、その動きを後ろに流す。

 しっかり抱えて落とさなかった。リフトが成功した。


 うおおおおおおおおおおおおおお!!

 観客も、興奮して、大拍手!!

「ブラボー!」

 幕の場面でもない、単なるリフトだけなのに声援が上がった。


 後ろに下がって持ち直した時に、アユミは左足を着地させた。

 アテールではなく、ルルヴェ位で。

 ネギの腕への負担は無くなり、ネギもクララと同様に右手・右足を伸ばして同じポーズでシンクロ。

 ゆっくり2人、腕をアンオーに上げて、そのまま顔同士が、見合った。

 顔を見合せたまま、本のページを開く様に、左右ほぼ対称のポーズに移動した。両腕を大きく開き、アユミは右足をデヴェロッペで大きく上に伸ばした。ちょっと勢いで足をさらに高く上げる。

 とたんにクララの衣装。長いスカートがめくれて、スカートの下の白いパンツが客席に披露された。当然見せパンで、その下にちゃんとアンダーのバレエ用ショーツを履いているのだが、観る方も追加のサービスを貰った気分だ。

 体勢はかなり不安定だが、ネギ王子がしっかり身体を支えてくれていた。

 拍手が止まらない。

 むしろ激しくなっている。

 完全な、スタンディングオベーション。


 終わったかな?

 大丈夫だった?

 お姉ちゃんと、目と目で見合った。

 大丈夫だよね。

 今、拍手貰っているよね。


 音楽が変わった。

 雪の群舞へ変わる直前の静かな曲に。


 そして拍手の中を、2人は連れだって向かい合って両手で両手を握りしめたまま、上手・会場向かって右側に消えて行った。

 2人がいなくなっても、まだ会場の拍手は止まない。

 音楽が変わり、次の演目の雪の舞う群舞の人たちが入場し、舞踊が始まって、ようやく拍手が止んだ。


     ☆


 袖に入って、観客の見えないところに来た途端、やっと我に返った。

 顔を見上げる。

 夢じゃない。

 目の前にお姉ちゃんがいる。


 でもまだ舞台は終わっていない。声は出せない。声は出さないけど、耐え切れなくなってお姉ちゃんの胸に抱きついた。

 本当に夢じゃない。

 このぬくもりと、柔らかい胸は、本物のお姉ちゃんだ。

 


 ――― もうちょっと、続く ―――

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