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ボクの発表会  終章

 もう本当にこれでお役目は終了なので、ようやく舞台の服から着替える事が出来たし、メイクも落とした。

 午後の部も同じ会館で、同じ市内の別のバレエ教室の発表会だから、ちょっと気楽な立場で観たいところ。


「ボク、お弁当持って来ているんだけど、横の公園のベンチで食べる?」

 横にいたネギお姉ちゃんに声をかける。

「そうなの? じゃ、コンビニで何か買うわ」

「あらぁ、じゃあ私も買いに行こっかなぁ」

「キーも、お弁当あるのだ。もちもっちーの分も作ってきたのだ」

「・・・・・・」

 その、一緒のお昼ご飯に、花江さん・キーちゃんも乗っかってきた。

 そして、そのキーちゃんの後ろには山本さんが何も言わずに立っていた。

 ああ、山本さんも一緒か。今回のメインメンバー勢揃いだ。



 運良く会館に隣接した公園のテーブル付きベンチが空いていたので、そこに座ってお昼に出来た。

 藤棚が日よけになって、暑くもなく風も気持ち良い。


「ところでさぁ」

 全員集まったところで、まずボクは切り出した。

「今回のこれでさぁ、お姉ちゃんが王子様するって事、誰々まで知っていたの?」

 どう見ても全員知っていた筈。それを、それぞれどう関わっていたか迄は分からないが。


「そ~ねぇ。それ全部一連で仕切っていたのは、やっぱ私かなぁ?」

 と、サンドイッチを摘まみながら、花江さんが答えた。

「時系列から行けばぁ、ネギがアユミちゃんママに呼ばれたのが水曜日でぇ、その日の夜に、ネギはその事を山もっちーに電話して、了承貰ったんだよねぇ」

 うんうんと、山本さんは頷いた。口にキーちゃんお手製のホットドッグを咥えていたから、声は出さずに。


「でもってぇ、その翌日の木曜日にぃ、私は学校でネギから相談受けたのよねぇ。その段取りだと、舞台メンバー全員がそのつもりで段取りしなきゃいけないからねぇ」

「ああ、そうなんだ」

「ネギが表立って動けない以上、一旦私で全体見ながら、ネズミ担当はキーちゃん、兵隊担当が私、でもってぇ山もっちーが本部との連絡とか聞いてぇ、紗妃ちゃん経由で打ち合わせていたかなぁ?」

「直接、山本さんじゃなくて?」

「私とネギと紗妃ちゃんはぁ同じ中学だけどぉ、山もっちーの校区は隣なのよぉ。」

「あーそれ、もどかしそう」

 山本さんも、ちょっと頭に手をやっている。

「でも、それで紗妃さんも協力してくれていたんだ。以外……」

 そう言うと、花江さんはニターと笑った。

「紗妃ちゃんねぇ、意外とツンデレなのよぉ。発表会終わるまで絶対に馴れ合いはしないって、立ち位置も微妙だったしねぇ」

 あー。やっぱり初日のアレ、守ってくれていたんだ。でも、あそこで厳しくされていなかったら、ボク自身もっとダメになっていたかも。

「当然、日曜の先生は真っ先に、というかぁアユミちゃんママとかから聞いていたみたいだけど」 

 そりゃそーだ。

 本当に、かなり大掛かりに仕組まれていた感じ……


「ああ、やっぱり教室でその事を知らなかったのボクだけなんだ」

「あらぁ。でも、幼稚園位の小さい子に教えたのは当日かな? あんまり理解していなかったかもだけど」

 それは全然、気休めにもならない。


 何とも微妙な気分ではある。腹を立てようにも、その背景にあるのは悪意ではなく、真っ白な善意だ。多少悪質ではあるけど。

 しかも花江は真っ先に声を上げる事で、本来ならネギに向かう筈の非難を自分に向けるよう持って行った。まぁこんな事で、アユミもネギお姉ちゃんと仲違なかたがいするような事は無いとしても、あえて今回の悪役を引き受けたのだと感じるから、怒るに怒れない。

 しかも、その花江さんは一番苦労してくれていたみたいだし……。


「あの山もっちーが教室に来た最初の日さぁ、私と山もっちーとキーちゃんで打合せするって出て行ったでしょ。アレも、そうなのよねぇ」

「あー、そう言われて初めて分かった。確かに、そういう雰囲気だったかも」

 本来ならボクが技術的に困っていて居残り依頼していた時、そっちの方に付き合ってくれそうな人が揃って出て行っちゃったから。


「打合せ内容的には良かったんだけどぉ、ちょっとオマケがあったのよねぇ」

「おまけ?」



――― 回想 ―――


 スポーツセンター近くのドーナツ屋さん。買ったドーナツをその場でドリンクと一緒に食べる事も出来る。

 キーちゃん連れ出す口実でもあったから、店内がいていたのは好都合だった。


 山もっちーは、既に台本のコピーを貰っていたので、自分たちのシーンの頁を開けて、自分とネギとが入れ替わる為の段取りについて、自分なりの説明を始めた。

 それだけならまだ良いが、ネギに王子様代役するにあたっての心配事や、パドドゥは絶対に大変だから、花江に事前に練習相手としての要請やら問題点やら色々挙げてきた。そんな事はネギ自身からすでに協力要請来ているのに……。


 つまり彼はもう勝手に完全にテンパっていた訳だ。見苦しい位に。

 しかも仕方ない用事があったとはいえ、今日に最初の合同練習が出来なかった事の自己嫌悪も交じって。


 仕方なく、まず落ち着かせた。

 その上で、問題を全部抱え込むな、と言い聞かせた。

 一番大変なのはネギだけど、逆にネギにとっては今回の事は、好きでする、というより絶好の機会の為の苦労だから、そっちは心配する事じゃない。むしろ要望が来た時にすぐ動けるように逆にどっしり構えろ、とも言った。


 まぁ滾々《こんこん》と説教するような感じで説明していたら、山もっちーは逆に失意のドン底かの様に落ち込んでしまった。要はやる気の空回りに、ようやく気付いたようで。


 そうしたら、いきなりキーちゃんが山もっちーを庇う様に間に入った。

 で、じっとこっちを睨む様に見る。

 いや、別に山もっちーを責めている訳じゃ、ないんだけどなぁ。


「でも、もちもっちーは偉いのだ。凄いのだ」

「え?」

 キーちゃんは、そう言って、うるんだ目で、山本を見上げた。


「そんな時でも、とゆーかこんな時だからこそ、義理と人情と愛のおとこになるのだ」

「え? いや、そんな事……」

 突然、褒められても嬉しさより戸惑いしかない山本。


 そう言って庇ったかと思うと、唐突にキーちゃんは、いきなりそのまま山本に抱きついた。

「偉いのだ、惚れたのだ、キーと結婚するのだ!」

 そう言ってこっちを向いて、イーっとした。


「ちょ、ちょっと!」

 張り合うみたいにこっちを見ているが、そういう意味で山もっちーには興味ないから大丈夫って、聞いてないか。

 まるっきり予想外の展開だった。


 そりゃ確かに、山もっちーが良い奴だという事は分かる。良い奴通り越して、単なるバカという感じもしないでもないが、でもそこまで話が飛ぶのか?

 抱きつかれて、山本自身も完全に硬直して石になっている。

 展開としては超ななめ上だが、初対面の関係から、親密になるという意味では、良かったとも言える。

 くるみ割り人形役とネズミの王様役の仲が良くなって、良いのか悪いのかは微妙などころ。少なくとも舞台の上で仲良くなられたら困るけど。

 くるみ割り人形とネズミの王様……。

 ひょっとして、コレも禁断の愛?

 花江は、別の意味で、頭が痛くなった。



――― 回想終わり ―――




「ちょっと待って、それ知らなかったよ。何で教えてくれなかったの?」

 ネギお姉ちゃんがつっかかる。

 そこが突っ込むポイントなのか!?

 ボク的にはもう、何をどう問い詰めて良いのか分からない。

 ボクは、皆がグルになって騙していた事を追求しようと思っていたところなのに。


 そういえば、確かにそういえば、いつもキーちゃんは山本さんのそばにしっかり寄り添っているし、練習の時も距離は近いし、殺陣なんかは本当に息が合っていた。

 だからかー。

 しかも今、さらっと流しちゃったけど、キーちゃん山本さんの為にお弁当まで作ってきているんだよね。

 うわ、ベタベタだったんじゃない。何で、この状況を気付かなかったんだろう。


「でも、もっちー14歳でキーちゃん9歳でしょ。犯罪じゃない?」

 お姉ちゃん、突っ込む。

「犯罪者にするな。俺も困っているんだ」

 流石に、その点については、きっぱり山本さんは言い切った。

 確かに、いくら好かれて言い寄られても、その気になったら犯罪かも。


「でもねぇ、これがあと5年とか後だったらねぇ」

 と、花江さんは言いかけ、

「ダ~メ~っ。19歳と14歳って、もっとヤバそうな気がするわぁ」

 あー確かに……。



「あれ?」

 ふと、気付いた。ちょっと離れた向こうに、女の子2人が寄り添って、何かこっちにスマホ向けている様な気がする。

「ねぇ……」

 ボクは他の人に声かけ、そっちの方を小さく指で示す。

「…………」

 思わず山本さんが立ち上がろうとするのを、花江さんが制して自分が先に動いた。ささっと小走りで、その達の所まで行って、何か話している。


「……」

 山本さんは何か言いたそうにしていたが、

「ここは花江さんに任せましょ。本当にヤバそうな時は、お願い」

と、お姉ちゃんに言われて、肩の力を抜いた。

 暴力的厄介事には、山本さんはとても頼りになると思うが、その代わり口下手で不器用だから。


 あ、でもあの人達、さっき会場でキャーキャー言っていた人の様な気がする。

 しばらくして花江さんは、こっちに戻ってきた。その達も連れて。


「ごめーん。隠し撮りはやめてって言ったついでに、ちゃんと声かけてくれたら撮ってもいいよって言っちゃった。いいよね?」

「あー……」絶句する山本さん。

「いいんじゃない? 悪用しなければ」と、お姉ちゃん。

 こういう場合の悪用って何だろう?


 と、そのタイミングで

「あー!、こんな所にいるやん。ってみんな、おそろいして」

 破れジーンズに、狙っているのか豹柄のジャンバー姿の紗妃さんが、こっちを見つけてやって来た。


「「あー!!」」

 その達は紗妃さん見て、びっくりしている。

 その感じは、紗妃さんが金平糖の精だったことに気付いたという事だろう。紗妃さんは、ここにいる自分達より1クラス上の大物だし。

 あ、とりあえず誤解無い様に説明しないといけない。


「えと、さっきの舞台観て、ファンになっちゃったみたい。写真、撮ってもいいか?って」

「ファンって、ウチの?」

「えーっと、みんなの」

 そう言うと彼女達も、うんうんとうなづいた。

 雰囲気に飲まれたのかな?


 とりあえず、とっさに声にでちゃったけど、隠し撮りしようとしてたは黙っておいた方が良さそうだよね。紗妃さん正義感、強いタイプだから。


「そーかそーか、しゃあないなぁ」

 紗妃さんは、そう言って、その達からスマホを取り上げて、こっちに渡した。


「よし、ほんじゃ」

 そう言って、その2人の間に入って「こう」って、手の平内側に胸の位置で交差させて、2人にも同じポーズをする様に指示した。

 戸惑いながら、そのポーズを取る2人。

「えーよ」

 そう言って紗妃さんは、こっちを向く。

 つまり、取り上げたそのスマホで、この写真を撮れ、と。

 仕方なく、花江さんはそのスマホで3人の写真を撮った。


「じゃ、皆の集合写真もいるか?」

 紗妃さんは、そのスマホを彼女たちに返して、今度はボク達集まっているテーブルの中心に来て座った。順番的には、お姉ちゃん、ボク、花江さん、紗妃さん、山本さん、キーちゃんで並んでいる。

「え、いいんですか?」

 考えてみたら、さっき花江さんの「いいよね?」の後、誰も「いいよ」とは言っていない。でも、既に「ダメ」などと言っていい雰囲気ではない。まぁボク的には良いけど。

 横を見たら、お姉ちゃんも苦笑いしている。まぁOKという事だろう。


 彼女達は、何枚かその集合の写真を撮った後、明らかにこっち、ボクとお姉ちゃんの2ショットだろう写真を何枚か撮っている。

 やっぱり、ボク達を撮りたかったのだろうか。2人並んでいて、良かった。


 そう思って横を見ると、お姉ちゃんその2人にウィンクしているよ。

 サービスしすぎだって!


 その女の子達は、何度も何度もお辞儀して去って行った。


嗚呼ああ、これを機会に、彼女達もバレエ好きになってくれたら良いなぁ」

 紗妃さんは、手を振りながら、しみじみと呟いた。

 ある意味、紗妃さん的にもバレエの促進活動の一つだったのかなぁ。


 ボク達もまた、お昼を再開し始めた。


「あー良かった良かった。ほんじゃ!」

 そう言って紗妃さんも立ち去ろうと3歩進んだ後、くるっと回れ右をした。

「ちゃうやん、ちゃうやん。本題忘れとった」

 そう言いながら、またテーブルに戻ってきた。


「で、どうしたの? こんな時に」

 ちなみに今は、改めてネギお姉ちゃんが買って来たお弁当とボクのお弁当並べて、摘まみ合いしていたところだ。


「いやいや、この機会に捕まえんと、ホンマにネギはバレエ卒業しそうやったから」

「するもしないも、これ終わったから本当にバレエ卒業なんだけど」

 惜しいけど、本来の予定でも、この発表会が最後の予定だった。


「せやろ、でもこれ見てもそう言う?」

 そう言って、紗妃さんは学校のパンフレットをそのテーブルに広げた。

 その学校名を見た。私学の、県境またいだ先にある高校だった。文化活動とかスポーツ・特に高校野球とかでも有名。知ってはいるが、でもまぁ、通常なら受験でも興味対象外のところだ。


 皆の『?・?』の表情の中、紗妃さんはドヤ顔をして切り出した。

「もし、ここにバレエ部があるって言ぅたらどぅ?」

「「「「ええっ!?」」」」

 一気に全員、キーちゃんも含めて、ビックリ顔になった。

「バレエ部? バレー部じゃなくて?」

 少し間抜けかもしれない質問をしてしまった。


「そんなん、バレー部なんか、どこにでも転がっとぅやん」※1

「こ、転がってはいないと思うけど……」


 改めて紗妃さんは人差し指をピンと立てたポーズで話し始めた。

「正確には、ダンス部の中にクラッシックバレエ同好会がある感じやけど、ちゃんと練習場はあるし、週一で外から先生呼んでくれて指導してくれるそうなんよ。発表会とかも年2回あるみたい。ダンス部と合同やけど」


「あ、でも私学なんかに行く余裕は……」

 ネギお姉ちゃんのところは、本人も気にしているけど金銭的に余裕がないと言っていた。公立なら大丈夫だろうが、私学は授業料やら入学金やら結構かかる。

 あ、我が家ならまぁ大丈夫だろう。普通の私学より高そうな宝塚音楽学校に入れたがっているし。


「知らへん? ウチの県はまだまだやけど、隣はもう私学でも授業料免除で、外部の県から通うのもOKなんよ。電車通学は、しゃあないけど、ここからやったら片道30分くらいかなぁ」

 そう言いながら、地図で見せてくれる。

 高校の名前くらいは知っていても、具体的にどの辺りにあるか迄は知らなかった。

 意外と、近いんだ。


「で、紗妃ちゃんは、此処ここ行くの?」

 お姉ちゃんはパンフレットをじっくり見ているが、まだ困惑している。

「ウチだけやのーて、一緒にこの高校を受験せぇへん?、って言うてるんよ」

「え?」

 言いながら紗妃さん、ちょっと照れている。何か、此処ここにもツンデレがいる感じ。


「あらぁ、ここだったら、私でも行けそうねぇ」と、花江さん。

「偏差値的に?」と、ネギお姉ちゃん。

「バレエ部って、男子もOKかな?」と、山本さん。

「ええんちゃう。山もっちーぐらいの実力者ならパドドゥでもイケるし、大概の演目は王子様役要るけど、外から応援呼ぶのも大変やし」と、紗妃さん。

 山本さんに、ジークフリード※2 やフィリップ※3 が似合うかどうかは別として。


「でも、そんな同好会的なところって、紗妃ちゃんプロ目指しているのに」

 ネギお姉ちゃんは心配そうに聞く。

「クラブは毎日あるけど、ウチはこれまで通り週2はちゃんと教室通うつもりや」

 ああ、なるほど。自分のレッスンはそのままで、その上で平日とかの練習場も確保する感じか。

 でも、もし本当に紗妃さんレベルの人に、お姉ちゃん・花江さん・山本さんも入ったら、結構クラブ活動としては凄く良くなるかも。それこそ同好会から独立した部に昇格することだって。


「ほんじゃ、考えとってね、前向きに。検討しぃや」

 そう言って、パンフレットは置いたまま、紗妃さんはまた走ってどこかへ行ってしまった。何か、午後の部も手伝いがあるとか。

「昔からそうだったけど、騒がしい人ねぇ」

「でも、高校のクラブ活動でなんて、魅力的ではあるな」

 山本さんも腕を組んで考えている。


 いいのかな? まだ自分はバレエ続けても、とネギは突然やってきた、絶好のチャンスに戸惑っていた。

 でもチャンスは来た瞬間に飛びつかないと、間に合わなくなる。そうなったら絶対後悔する。

 そしてまたバレエが続けられるなら、もう少しアユミのそばにいてあげられる……。


「あ、ちょっとコレ借りて良い?」

 次の瞬間、アユミはそのパンフレットを手に取った。

「えー? アユミちゃんには関係ないんじゃないのぉ?」

 花江さんは疑問そうに、そう言う。

 アユミとしても自分自身の高校進学はまだ先の事だし、しかも第一志望は宝塚だ。でも、別の理由で。


「コレ、ママにどんなものか聞いてみる。多分、こういう事にはママの方が詳しいと思うし、それに……」

 そう言いながら、ちょっと意地悪っぽい笑みを浮かべた。

「ママ、メモに残していたじゃない。何でも相談に乗るって、こういう時に利用しないと」

「はぁー……」

 ネギは大きく嘆息した。


「こういうところアユミちゃんは、お母さん似かもしれないね」

「だって、お姉ちゃんがバレエ続けられるなんて、素敵じゃない」

「そりゃ、そうなんだけどね」

 山本さんも、花江さんも同感してくれた。

 再度ネギは大きく、嬉しそうにだが、ため息をついた。


     ☆


※1 転がっとぅやん

  バレーボール部だけに……


※2 ジークフリート

 白鳥の湖に出てくる王子様の名前。最愛なるオデットと間違えて、魔法使いの娘のオディールに愛の誓いをしてしまう、薄情な王子。


※3 フィリップ

 眠れる森の美女に出てくる王子様の名前。実は”フィリップ”という名前は、ディズニー映画での名前なので最も有名であるが、バレエにおいては”デジレ”か”フロリムント”である。


   ☆


 午後の部は予定通り、同市内の別のバレエ教室関係での発表会だが、それはそれで良い勉強になりそうなので、お昼を一緒に食べたメンバーは、そっくり鑑賞組として、やはり一番後ろの目立たないところに固まって集まった。

 ただし、やっぱり紗妃さんは午後からも手伝いとか忙しいらしく走り回っている。出来れば一緒に観て、色々と教えて貰いたいところなんだけどなぁ。

 ちなみに例の3人組も観覧組ではあるが、ボク達とは反対側の端で観るらしい。


 ちなみに午後の部は午前中みたく、演目の全編をするのではなく、有名どころの1シーンとか面白い所だけ抜粋してする感じ。結構めまぐるしく変わる為、大掛かりなセットなどは無いとの事。

 何か、バリエーションとかかな? とも聞いたけど、ソロばっかりでも無さそうだから、まぁどう言うのだろうか?


「演目は、このパンフレットに載っているけど、知らないのばっかり」

「どれどれ、いや、結構有名どころ押さえているよ」

 ネギお姉ちゃんが、そのパンフレットを覗き込む。


「ネットやDVDで『くるみ割り人形』だけはかなり観たけど、それ以外は全然観た事ないし」

 その『くるみ割り人形』も、自分たちに関係あるところばっかり観ていたから、通しで観たのはそれぞれ1回づつ位?。

「知っているのって、どれ?」

「えと『白鳥の湖』と『眠れる森の美女』と『ドンキー・ホーテ』ぐらいかな」

「ほら、よく見て。『ドンキー・ホーテ』じゃなくて『ドン・キホーテ』だよ」

「え゛!?」

 何か、間抜けな事言っちゃったかな?


「でもCMで、♪ドンドンドン、ドンキー、ドンキーホーテって歌っているよ」

「ああ、あれは罪作りな歌だね。本当はドンがスペイン・ポルトガル語圏内での貴人の尊称で、名前がキホーテなの」

「キホーテさん?」

「キホーテさん」

「詳しいね」

「だって」


 お姉ちゃんは、ちょっと偉そうに指を立てた。

「そういう背景もちゃんと知ていた方が、バレエの演技に役立つから勉強したのよ」

「あ~、これもそうなの? しないといけない事、たくさんありすぎる~!」

 ボクは思わず頭をかかえた。


「ちなみにバレエの『ドン・キホーテ』も実質的な主人公はドン・キホーテじゃないし、ストーリー展開も全然違うからね」

「え? ドン・キホーテが風車に向かっていくとか、羊の群れに突っ込んで迷惑かけるとか、村娘をダルシネアと勘違いして剣を捧げるとかしないの?」

「しないよ。メインは町に住む男女の恋人で、ドン・キホーテはその町を通りすがりにちょっかい出すだけ」

「ふーん」


 そうしたら今度は、花江さんが口をはさんだ。 

「でもねぇ、ドン・キホーテって愚かな変人イメージあるけどぉ、軽く見ていたらスペイン人怒らせるかもしれないから気をつけてねぇ。スペインじゃ英雄扱いだから」

「え、そうなの?」

「そーよぉ。日本で言うところのぉ、坂本龍馬とかぁ新選組みたいにぃ、本当の武士じゃないけどぉ、時代の変化に対して信念もって立ち向かった人なんだからぁ」

「あー、確かに坂本龍馬をバカにしたら、面倒な事になりそうな人いるな」

 山本さんも実感する様に言った。


「あ、そろそろ始まるよ。静かにしないと」

 あ、舞台の幕が上がりそう。

 結局、パンフレットに書いてある、知らない演目とかについては聞けなかった。

 まぁ、知らないなりに観てみようか。


     ☆


 プログラムは順調にいかず、押しに押して、終了予定時間の4時半を大幅に超えて5時半近くになってようやく終わった。

 公演は終わっても、最後に市やお祭りの関係責任者と、主催者側の挨拶としてウチの教室の代表とかが出てしゃべる様だったので、帰るに帰れなかった。

 ボクは会った事無いけど、ママとは仲が良いらしい。ママはとっくに帰ったけど。


 今日観た演目の感想。 

 全体的に凄いキャリアの人がたくさんいて、参考になった、というより凄すぎて、ただ茫然と観ていたという感じ。


 ただ出演者の中には、小さい時に出来なかったけど、大人になって自分でお金稼ぐようになってから始めた人もいて、そういう人達に関しては……

 まぁ何だ。うん、頑張っているなという感じだった。

 パドドゥしている相手が凄く苦労して、重そうな身体を必死でリフトしてくれているな、とか。

 あ……でも、それについてはボクも人の事、あまり偉そうに言えない……。


「あれねぇ、気付いた?パドドゥの相手、丸瀬さんだったよぉ」

 あとで、花江さんが教えてくれた。

「丸瀬さんって、ウチの王子様の人?」

「そう。別のバレエ教室の人相手だけど、たっての希望だからゲストで出演してね。

そういう場合、結構謝礼金貰えるんだって」

「はぁ」


 ボクは、それを聞いてため息をついた。

 謝礼金貰えるなんか良いなぁ、という事ではない。

 バレエダンサーが、ダンスの仕事だけで食べていくのはキツイと聞いたばかりだったから、そういう機会をかき集めて頑張っているんだな、と実感したから。

 彼が世界で活躍しているのも、逆に言えば日本の舞台だけでは稼げないという事なんだろうし。

 

 舞台観て、また同じ舞台の上で人形を手渡された時、ちょっとファンになっちゃったけど、こういう人が好きなバレエだけして暮らしていけたらいいなぁと思った。

 

 でもまぁ実力も経験もまだまだなボクから見れば、どれも魅力的であると同時に厳しい世界だと実感するには充分。

 本当に、それはそれとして、ボクも明日からも頑張らないと。


     ☆


 夕方になり、そこそこ暗くなってきた。

 山本さんは責任もってキーちゃんを家まで送り届けるらしいし、花江さんや紗妃さんも別行動。

 ボクの事も、ネギお姉ちゃんが責任もって送ってくれた。


 家の前に着いた。

「ママに会っていく?」

「あー……」

 お姉ちゃんはちょっと考えている様だったが、


「いいよ、やっぱり。また今度そういう機会あるだろうし」

 と言って、振り返って帰ろうとした。


「お姉ちゃん!」

 そんなお姉ちゃんに、後ろから声をかけた。

「ん、どうしたの?」

 声かけられて振り返る。


「ボク、バレエやって良かった。お姉ちゃんに会えて良かった!」

「うん。そうだね。お姉ちゃんも、良かったよ」

 そう答えるお姉ちゃんに飛びつく様に抱きしめ、強引に唇を奪った。


「!!」


 ぎゅっと濃厚なキスを10秒か20秒か、大きく二呼吸分の時間。

 そして離れる。大きく息をする。


 お姉ちゃんは驚きながらもじっとボクの顔を見ている。ボクもお姉ちゃんの顔を真剣に見つめる。

 再度、呼吸を整えて、


「お姉ちゃんが、他の男の人を好きになるのはいいけど、絶対に他の女の人とは浮気しないでね!」

 渾身の告白をした。

 呆然とする、お姉ちゃん。


「男の人は、いいんだ……」

「だってそれは自然な事だから、そこまで束縛しちゃいけないと思うから」


 おそらく今なら、それは絶対には無いだろうけど、ちょっと前に感じた事の例えで山本さんの顔を思い浮かべた。

 キーちゃん抜きにして考えたら、受け止めてくれそうだったし、山本さんが相手なんだったらボクも納得していたと思う。

 でも他の人は誰も思いつかないなぁ。今のところ。


「ま、前向きに、善処する」

 とだけ言って、ネギはまた背中を向けて歩き始めた。

「絶対だよ!」

 お姉ちゃんは振り返らずに、手だけ振った。


 これから自分達が何をするにしても、まだ何をしたらいいのか確信出来ていない。

でもきっと、未知な未来が、それもきっと素敵な未来があるのだろうと、思った。


 それぞれに・・・・・・



―― 終わり ――

今回で、第二巻終わりです。


正直、バレエという世界観を把握するのはメチャしんどかったので、『バレエはもうこれっきり!』と思いながら書いてましたが、後に続きそうな設定立ち上げてしまったから、気が向いたらあるかもしれません。


ただ、今作とは関係ないバレエものの単発の構想出かかっているので、そっちが先かも。


さて、実際にバレエを趣味にするにはハードル高そうだし、舞台のチケットもメチャ高と感じるでしょうが、youtubeにも結構上がっているから、もし興味あればどうでしょう? 特に3分で分かるシリーズはお勧めですし、この元ネタの『くるみ割り人形』も全編ものも観れますよ。(日本もの・ウクライナもの・ロイヤルもの3本位は)


ではここまで、私の自己満足的作品にお付き合い頂きまして、ありがとうございます。

また、宜しければお願いします。

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