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ボクの発表会  第七章

 第二幕は本部や他の教室の、しかも上級者がメインなので、邪魔にならない様に会場の隅で観覧させて貰う事にした。自分たちはクララにしろ王子様にしろ、一幕後半シーンのみのサブ・キャストの為、カーテンコールも出なくて良いと聞いているけど、念の為という事で着替えは最後にするよう指示が来ていた。だから、今は舞台衣装の上からパーカー羽織って、濃い化粧顔を隠す為にフードも深く被っている。


 舞台では、紗妃さきさんが『くるみ割り人形』最大の見どころのひとつ、金平糖の踊りを披露していた。

 くるみ割り人形の、物語上での主人公はクララだが、バレリーナでトップと言えば、この金平糖の精になる。だから紗妃さんは中学3年にして、自分たちバレエ教室のプリンシパルと言って過言ではない。


 改めて、実感する。

 太田さんのクララはとても上手うまいしかなわないけど、何とか張り合う位には上達できたとは思う。

 でも紗妃さんレベルまで来ると、ボクが真似する・太刀打ちできるとかそんなレベルでは無かった。

 先程、丸瀬さんの王子と紗妃さんの金平糖でグラン・パドドゥがあったが、その名の通り、偉大グランにふさわしいものだった。

 ボクとお姉ちゃんで第一幕に、同じ様な構成でやった、なんちゃってパドドゥとは全てにおいてレベルが違うというか、これに比べれば所詮、前座演技に過ぎない事を実感させられた。


 プロレベルってこうなのかと。技は高難度、熟練度も格段に上で、でも安心してずっと見ていたくなる様な。自分達とは、もう次元が違っていて、どうすればそんな高みまで登れるのか。

 正直、どれくらい凄いのかも説明できない。

 もっと頑張れば、その凄さの意味も理解できる様になるのだろうか。


 確か紗妃さんは、年期・年齢でも、お姉ちゃんと同じ位の筈だが、もしお姉ちゃんも本部クラスで本気で続けていれば同じぐらいのレベルになっていたのかな?

 そう思って、ネギお姉ちゃんの方をチラッと見たら、

「ねぇ、ひょっとして今、《《とても》》失礼なこと考えていなかった?」

「え、そんな」

 何故分かったのだろうか。


「でもね。もしアユミがバレエを続けていくのなら、彼女が目指すべき目標なのよ。私ぐらいのレベルで満足してちゃ駄目」

「う、うん」

 分かる気がする。

 まだママの手の中で踊らされている気がするが、宝塚音楽学校に入学しようと思ったら、紗妃さんレベルでも、まだまだとか言われるのかもしれない。


 同時にネギも感じる。

 今でこそバレエの腕前はアユミよりは上かもしれないが、この先に本部クラスで週2回のレッスンを始めたら、半年くらいで追いつかれ追い越されてしまうだろう。何より自分は今日バレエを卒業する。今後アユミの指標としては、親友でもある紗妃の役割になるであろう。


 それはそれで構わない。紗妃は厳しくも優しくアユミを導いてくれるだろう。人間的にも信頼できる。

 でもそれで今後、アユミとバレエという接点がなくなる事が、ネギに寂しい思いを感じさせていた。

 今後、どれだけアユミに寄り添ってあげてもいいのだろうか……。


「あー、いたーっ!」

 客席に、例の意地悪3人娘がやってきた。

 背が高いのが高井さん、チビなのが小玉さん、太っちょが太田さんだ。


「なーにしているのよー。まーだー出番あーるのよー」

 ノッポの高井が、ヒステリックな剣幕で迫ってきた。でも言葉は間延びしている。

「え? だって出るのは第一幕後半だけだったし、カーテンコールのメンバーでもないし」

「方ー針が変ーわったのよー!」

「「ええーっ」」

 初耳だ。本当に何も聞いていない。

 しいて言えば「着替えてもいいですか?」と聞いた時「まだちょっと待っていてね」と訳アリ顔で返された位。


「貴ー方たちは、今ー回の発表会のー台風の目ーなんだからねー。一幕でーあーんなにおー客さんの反響あってー、まーさかカーテンコール出さない訳にはいーかないって、代表とかー運営・舞台演出の方ー々でメンバーやら順番のー段取りをー変更していてー、もう、てんやーわんやーなのよー」

 そんな事言われても、ボク達は知らない。


「それに…、貴方…!」

 クララ役の太田さんが突っかかってきた。

「貴方がねぇ…あんな演技した後で…、雪の精霊の演舞の中にねぇ…、私と王子の人とで舞台に上がったけど…、さっきのクララじゃない…って、凄く白けた雰囲気の中…踊ったのよ。私、多分…、これまでの人生の中で…最高の踊りが出来たと思ったけど…、会場からはねぇ…拍手も何にも無かったし…。一体、何ってこと…してくれたのよぉ!」


 あ、ああ。そうなんだ。

 本来ならボク自身が、さっきのじゃない!って言われるかもしれないとビクビクしていたから、ちょっといい気味だな、と思った。


「だから…本来なら私、夢の国に招待されて…舞台の端っこで…椅子に座って…舞台の演技を…観覧する役する筈だったんだけど…、無理言って…それごとやめて貰ったの…。だって…針のむしろよ…、そこにいるだけで」

「そ、そんな事言われても……」

 ボクとお姉ちゃんは、互いに見合った。

 言いがかり以外の何物でもない。


「でも…最後の最後には呼ばれて…エンディング場面には出ないといけないの…、でも…絶対嫌!…だから貴方、…責任取って…私の代わりに出てよ!」

 きっぱり、彼女は言い切った。

「え゛!?」

 ちょっと待って、なぜそうなる?


 そうしたら、チビの小玉が、代わりに出てきた。

「このままもう一回、彼女が出たら、今度こそブーイングが起きるわ。貴方、この発表会、メチャクチャにする気!?」

「で、でも、最後の場面って練習どころか段取りも知らないし……」

「全然知らない訳じゃないでしょ。舞台の下手しもてに待機して、呼ばれたら真ん中に出て行って、王子様がくるみ割り人形を手渡すから受け取ったらいいのよ。踊りもステップも何にもいらないわ。出来るでしょ!」

「ええっ、でも」


 そう渋っていたら、お姉ちゃんがボクの肩に手を置いた。

「やってあげて。困っているじゃない」

 そう言ってにっこり微笑んだ。

 あ、はぁ。お姉ちゃんがそう言うのなら、

「分かりました」と、小さく答えた。


「あ…やってくねるのね。よかったー」

 太田さんは、これまでの嫌な顔全部吹き飛んで、満面の笑顔になった。

 ああ、この人は舞台以外でも、こんな良い表情になるんだと思った。しかも舞台の作った笑顔ではなく演技抜きの魅力的な笑顔。


 ついでに、そこにいた全員がそんな彼女の笑顔を見た。ネギお姉ちゃんも、仲間の2人も。仲間内でも、そんな表情を見せる事は珍しかったのかもしれない。小玉さんなんか目が点になっていた。


 そんな中、太田さんは、我に返って、

「わ、私は…貴方のバレエを…認めた訳じゃ…ないんだからね!」

 と言って、プイと横を向いた。


 それを見て高井さんは

「あー、ツンデレだー」と言い、

 小玉さんも「おまわりさーん。ここにツンデレがいまーす」

 と揶揄からかわれて、太田さんは、その2人をポカポカと叩いた。

「あー、じゃあとりあえず、急いで控室に戻ろうか」

 お姉ちゃんの言葉に、全員が移動を始めた。



 控室に帰ると、関係者全員から大きな笑顔と小さな拍手(舞台は進行中だから)を貰った。そして舞台演出の人が、ボクの手を握って必死の表情で攻め寄られ、

「で、やってくれるんだよね。クララ」

「あ、はい。大丈夫です」

 と、言いながらパーカーを脱いだ。下はそのままクララの衣装のままだ。

 安心した舞台演出の人は、そのまま他の人に指示する為か忙しく去った。

「あ、汗で落ちているだろうから化粧直し、してあげる」

 落ち着いたところで、お姉ちゃんに隅っこの椅子に引っ張って行かれた。


 向こうから、舞台関係の人達の打ち合わせの声が聞こえる。

「良かったよー。もう誰もクララの代役間に合わないし、最悪ピーター・ライト版みたく、人間に戻ったくるみ割り人形とドロッセルマイヤーが抱き合って終わりにしようかというバージョンも考えたけど……」

 その後ろに、迷惑顔の山本さんとキーちゃんパパがいた。

 うん。良かった、んだよな……。

 

 何はともあれ、控室の空気は一変した様だ。

「アユミちゃん、見つかったって? 良かった」

 舞台から、王子様の丸瀬さんと、金平糖の紗妃さんが一旦帰ってきた。

 今は、ほんの短い間だけど、花のワルツとか各精とかだけのステージらしい。

「そーか。まぁ何はともあれ、そーいう事やから、きっちりやったってな」

 紗妃さんは座って化粧直ししているボクの頭をてのひらでギュッと押さえて、一瞬お姉ちゃんからキッ!とにらまれた。

「おー怖っ。ほんじゃ、安心してラスト締めよーか」

 そう言って、紗妃さんと丸瀬さんは、また舞台袖の方に移動して行った。


     ☆


 化粧も直して、ボク達も舞台袖に移動した。

 舞台はもう最高潮に盛り上がっていた。

 最後のシーン。王子と金平糖のパドドゥから、そのまま第二部のチョコレートの精、コーヒーの精、中国茶の精や花のワルツとかの方々のダンサーの方々が全員加わって、一斉に舞台いっぱいの群舞を披露した。

 最後には王子様……じゃなくて花の精の男性が金平糖の紗妃さんを軽々と頭上高くにリフトで持ち上げると、もう会場から盛大な拍手が起こった。


 あれ? リフトするの王子じゃないんだ、と思ったらその丸瀬さんの王子は、パドドゥをギリギリ最後のところで花の精の人とスイッチして、ゆっくりと、こちら舞台の袖までクララであるボクを呼びに来た。


 袖の中に入った丸瀬さんは、ボクとすぐ後ろにいたネギお姉ちゃんと顔を合わせて『うん』と大きく頷いた。

 これは、ボクじゃなくお姉ちゃんに向かって頷いたのか?

 王子様交代? 違うよ。ボクにとっての王子様は……。


『頑張ってね』

 でも、ネギお姉ちゃんが耳元でそうささやいて、後ろから両肩をポンと叩いて励ましてくれた。


 そうだよね。今からこの王子様のエスコートで舞台に行く。

 舞台の袖だから、観客にはその仕草は見えないのに、王子様は優雅に片膝を付いて大きくお辞儀をした後、ボクの手を取った。

 あ、ゴメン。お姉ちゃん。ちょっとクラっと来た。

 あ、浮気じゃないよ。本当だよ。

 顔をパンパンと叩いて、気合を入れた。

 よし、行ってくる!


 彼の手を取って舞台に入って行くアユミのクララ。その姿を見てか、おさまり始めた拍手が再度大きくなって会場が盛り上がった。

 先程のボクとお姉ちゃんの舞台の時と違って、ボクの気持ちも一旦落ち着いたから分かる。これまでの人生で最大の拍手。

 そして何か、お客さん同士も顔を見合わせて、満面の笑顔を向けてくれている様な気がする。喜んでくれている。


 そのお客さんの中に、歌舞伎ファンがいたのか

「待ってました!」と掛け声がかかった。

 みんな、ボクを待っていてくれたんだな……。


 中央まで歩くと、そこに金平糖の精・紗妃がいて、額にキスしてくれた。そして小さく『ビギナーズラックはここまでや』とささやいて、ウィンクしてくれた。

 そう。この先も、声援を貰う為には、真の実力を身に付ける必要があるんだ。


 そして一旦、王子様は後ろに下がり、くるみ割り人形を受け取りに行く。

 そこに軍服で高い帽子を被ったくるみ割り人形役の山本さんが、木で出来た方のくるみ割り人形を持って袖から一歩だけ舞台の中に入って来た。

 あれ? 違う。山本さんじゃない。

 帽子を深くかぶって顔が見えにくいが、体格で分かる。

 お姉ちゃんだ。お姉ちゃんが、くるみ割り人形役で出てきたんだ。


 客席の方からも『あれ? あれ!』と指をさしている人がいる。

 ああ、お客さんからも気付いている人がいる。


 軍服を着たお姉ちゃんは丸瀬の王子様に、手に持ったくるみ割り人形を渡し、舞台には残らず袖に消えて行く。

 そして、人形を受け取った王子様はこちらに向かって来る。


 丸瀬さん。この舞台の、ある意味本当の王子様。

 彫りの深いハンサムで、背も高く、肩や腕もがっちりしていて、ぴっちりタイツの股間もこんもりしている。

 

 とても立派な王子様。でもボクにとっての王子様じゃない。

 ボクにとっての王子様は、少し頼りないかもしれないが誰よりもボクの事を思ってくれていた、ネギお姉ちゃん。


 丸瀬さんは、くるみ割り人形を、この手に渡してくれた。

 その、くるみ割り人形をしっかりと受け取って、抱きしめる。

 くるみ割り人形の硬く冷たい本体からだが、指と頬に触れる。


 そう、このくるみ割り人形こそがボクの王子様だ。

 正式なくるみ割り人形役は山本さんだが、でもボクにとっては、代役として一緒に練習したお姉ちゃん。そして先程丸瀬さんに人形を手渡したお姉ちゃんが、ボクにとってのくるみ割り人形であり、王子様なんだ。


 バックの人達が手を振ってくれて、照明が暗くなってきた。

 ボクはその後ろに向かって、手を振っていたんだけど


 あれ? あれ?

 ちょっと待って、涙が、涙がほとばしる様に出てきて、え? 止まらない。

 待って、待って、違うよ。今、泣いている場合じゃないんだよ。


 バックの照明はどんどん暗くなり、そこにいる人たちが見えなくなってきた。

 手を振り返さないといけないのに、その手を止めて人形を抱きしめてしまった。手を振り返さないといけないのに、

 ダメだよ、涙がどうしても止まらないよ。

『うわぁ、うわぁ、うわぁ』

 止めようと思えば思う程、自分の中でパニックになって、涙は全然止まらない。

 くるみ割り人形に顔を埋める。くるみ割り人形で顔を隠そうとしても、涙が頬の横からポタポタ流れていく。

 涙が止まらない。泣くのを止める事が出来ない!。

 

 結果。

 観客も、もらい泣き。

 ついでに背景バックの人達も、もらい泣き。

 でもまぁ良い。サヨナラの場面だから。手を振りながら泣いていても。

 さらに、そのバックの人達の涙も相乗効果となってか観客は、さらにもらい泣き。


 音楽は最高潮まで盛り上がってきて、また拍手も盛り上がってきている。

 背景の人たちは照明が消されて、もう見えなくなり、

逆にボクだけにピンスポットが当たっている。

 注目されている。

 本来なら、このくるみ割り人形を持ち上げて見上げるとかアクションもしないといけないのに、今はもう、さらにギュッと抱きしめる位しか出来ない。声を出さない様にするのが精一杯。

 ただ立っているだけしか出来ない。立って泣いて、小刻みに震えるしか出来ない。


 音楽は、最後のシンバルが鳴って、ザーン・ザザーン・ザン!になって、ようやく幕が下りてきて、ボクの姿を隠してくれる。

 もう少し、もう少し、終わった。足も隠れた。終わったよぉ。


 完全に幕で隠れて、あわててネギお姉ちゃんが迎えに来て、上手かみてサイドに抱きかかえて連れて行ってくれた。

 お姉ちゃんは、すれ違う人、すれ違う人に『すみません、すみません』と、頭を下げまくっている。

 途中、紗妃さんが『こら』って、コツンと頭を叩いていった。

 もう舞台は、カーテンコールの準備で、てんてこ舞い。

 3人娘がやってきて「どーしてくれるのよ、化粧落ちちゃったじゃない!」と文句を言ってきた。


 邪魔にならない所まできて、やっとちょっと落ち着く。

 でも、まだ涙は止まらない。お姉ちゃんの軍服が、涙で濡れてしまっている。

『もう、泣き虫なんだから』

 お姉ちゃんは、他の人には聞こえない位の声で、ささやくようにつぶやく。

『だって、だってお姉ちゃんが……』

『ああ……』

 お姉ちゃんは呆れるように天井を見上げる。

 正確には、お姉ちゃんが悪い訳じゃない。でも被害者兼、加害者。


 お姉ちゃんは仕方なく、いい子いい子しながら、

『何とか、カーテンコールまでには治まるかな?』と心配していた。


     ☆


 急げー、急げー。

 本来なら、第二幕メンバー中心にカーテンコールの予定だったが、大幅にメンバー変更したみたい。


 舞台の中央に、最初のパーティの時の招待客たちが並んだ。

 実はこの人達は教室の生徒達の父兄で、ゲスト応援で参加してくれたので、最後くらいはと、背景として並ぶ様にしたらしい。

 そして幕が上がる。


 観客からの拍手も、パン・パン・パン・パンとリズムに合わせたものに変わっていった。カーテンコールの拍手だ。


 最初に挨拶するのは、太田さんのクララと、高井さんのフリッツ。そして、その両親役。

 段取り変わって、太田クララはこの家族と一緒に登場した。第一幕のパーティメンバー達と一緒という演出だ。

 真ん中に4人が集まって一礼のレヴァランス。太田クララは、華麗にカーテシーして、背景の方に下がっていく。

 下がったところで背景のところにいた、ラッパを持った少年役の小玉さんがその真ん中に入って、3人娘が並んだ。


 次が、山本さんのくるみ割り人形と、キーちゃんのネズミの王様。

 本来はカーテンコールには出る予定なかったけど、活躍のご褒美らしい。

 山本さんは仮面なしの素顔・帽子姿だが、案の定違和感なかった。

 2人は刀を、チャンチャンと当てた後、フィッテはしなかったがフィッテの後の時のポーズを決め、それと対称に、山本さんは歌舞伎風の見栄を切った。同時に目もギョロリと動いて睨みになった。この為に仮面を取ったのか。

 すると先程ボクのエンディングに、待ってました、と掛け声かけた人だろうか、

「山本屋っ!」と掛け声がかかった。

 山本さんの名前は、チラシのメンバー表に書いてあったからかなぁ。


 流石に悪ノリだったのか、真ん中にいたドロッセルマイヤー・パパに『こらっ』と2人共、オーバーアクションで頭を叩かれて、改めて全員で礼をして、後ろに下がっていった。


 その次がボク達だ。クララのボクを、王子様のネギお姉ちゃんがエスコートする様にして入場。

 会場から、盛大な拍手!!


 一礼、レヴェランスのカーテシー。再度、大きな拍手。

 サービスなのか、お姉ちゃんの王子がボクをギュッと頬を合わせる様に抱き寄せ、ボクが突然の驚きの表情を見せると、なぜか「キャー」と会場から声が。

 ちなみにその方々は、お姉ちゃんの軍服の、胸の上の方が濡れて染みになっている事に、しっかり気付いていたという話を、後ほど聞いた。


 ボク自身はすっかり気が動転して立ちっぱなしになったが、落ち着いているお姉ちゃんが、抱いたまま後ろに引っ張って行ってくれた。

 後ろに下がって、キーちゃん・山本さんの隣に並んだ。

 キーちゃんから羨ましそうに見られ、隣の山本さんを見上げていたが、山本さんは気付かないフリしていた。


 それからカーテンコールは、チョコレートの踊りの人、コーヒーの踊りの人、中国茶の踊りの人……と続いて行き、最後は紗妃さんの金平糖と丸瀬さんの王子様が、背景・背後の中央からゆっくり現れて、何度も(レヴェランス)と手を繋いで両手を上げるポーズを取って、ひときわ大きな拍手の中、幕が下りてきた。

 終わった。本当に、終わった。良かったー。



 ――― 次回、終章 ―――

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