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3-2



「……そ、それで?」

「そのまま気絶したっぽくてさ。気付いたら朝になってて、リビングで目が覚めたんだよね」

「だから、そんな疲れた感じに?」

「うん……」

 遥斗は気絶したまま硬いフローリングの床の上で朝を迎えたため、起きたときには身体中が痛くて大変だったらしい。

「えーーー。遥斗くん()体験したのぉ?」

 ブルブル震えながら最後まで話を聞いていた虎太郎が、顔を真っ青にしながら言う。

()ってことは、虎太郎も似たような体験したのか?」

「あぁ、ボクじゃなくて、月夜地区の子の、お兄さんが似た体験したんだって」

 虎太郎によれば、そのお兄さんは電車で通学しており、帰宅途中に銀星街を通った時に声をかけられたとか。

「で、やっぱり夜中に女の人が来て、子どものお化けが出たのか?」

「うん、そうみたい」

 今朝学校に向かう途中、月夜地区の子にそんな話を聞かされた虎太郎は、昼休みに雪弥と遥斗に話そうと思っていたのだ。しかし、まさか遥斗が同じような体験をしているなんて。

「……でも、不思議なんだよね」

「なにが?」

「実は昨日の夕方、僕もおつかいを頼まれて銀星街に行ったんだけど、ビラを配ってるその女の人、見なかったんだ」

「え、まじで?」

 虎太郎の言葉に、遥斗の疲れ切った顔がさらに暗くなる。

 もしかしたら銀星街でチラシを配り、話しかけてくるという女の人もお化けかもしれない。人間だったとしても、教えたわけでもないのに夜中に他人の家にやってくる時点でヤバいヤツだが。

「……ふん。『夕暮れ少年探偵団』なんて作るからだ」

 真っ青な顔を見合わせる遥斗と虎太郎を見ながら、雪弥が呆れたように息を吐く。

『夕暮れ少年探偵団』とは、つい先日、留守番をしている子どものもとに届く『赤い手紙』の一件を解決した後、虎太郎と遥斗の二人が妙に盛り上がって名づけた、この三人での愛称のようなものだ。名づけた虎太郎によれば、街の『怪奇』な事件を解決する探偵団という設定らしい。

 これまでは同じ地区の子どもたちからの相談がきっかけで『怪奇』な出来事にまきこまれてしまっていたが、今回は遥斗自身が遭遇しているので少しばかり事情が違う。

 きっと、探偵団なんてつくるから事件のほうから寄ってきたのだ。

「それとこれとは別だよぉ」

 雪弥の嫌味に虎太郎が頬を膨らませる。怖がりの癖に、探偵の真似事は好きなのだから、タチが悪い。

「とはいえ、放っておくわけにはいかないよなぁ」

 女が配っているチラシと、通学路のポスターが同じということは、あれもやはりお化けが貼ったのだろうか。

 遥斗をはじめ、街の人たちが怖い思いをしているのはいただけないし、なにより通学路が気持ち悪いままなのは嫌だ。

「子どもを探しててあんなことしてるなら、子どもを見つけて会わせてやればいいのかな?」

「えー……じゃあその男の子を、探すの?」

「いやもう、絶対生きてないだろ……」

「でもまぁ、それしかないだろ?」

 怯える虎太郎と眉をひそめる遥斗に、雪弥は当たり前だろう、という顔で頷く。

 お化けになっているなら、きっとその子はもうこの世にはいないはずだ。しかしお化けというやつは自分の死体を見つけて欲しくて出てくるというし、死んだ場所を見つければそこに男の子もいるのではないか、という安直な考えである。

「よし。とりあえず、帰りに例のポスターをちゃんと見てみようぜ」

「見つかるかどうかは置いといて、なにか手がかりはあるかもな」

「……わかったぁ」

 放課後は一緒に帰ろう、と話がまとまったところで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。



 ☆



 学校が終わった後、雪弥たち三人は通学路沿いの壁に貼られた、例のポスターをじっくりと見た。

 ポスターに書かれていた男の子は、小学二年生で、黒髪短髪、背は120センチ、体重22キロの痩せ型。いなくなった当時は、ボーダー柄の半袖Tシャツに、紺の半ズボンだったようだ。

 写真がモノクロなのもあるのだが、前髪が長いせいで目元がわかりにくく、顔の判別は少し難しい。背中を丸めているので、少し引っ込み思案な印象をうけた。

「んー、見た感じ普通の男の子、って感じだね」

 ポスターをしげしげと眺めながら、虎太郎がズレる丸メガネを指先で上げる。

 確かに虎太郎の言うとおり、学校で一度は見たことありそうな、よくいる雰囲気の、悪く言えば特徴のない感じの男の子だ。

「遥斗がみた男の子と同じか?」

 虎太郎と同じようにじぃっとポスターを見つめる遥斗に雪弥が尋ねると、遥斗は小さく頷く。

「そうだな。髪型は同じ感じ……服装までは覚えてないけど、こんな感じだった、かも?」

「なんか印象に残ってる部分はないの?」

「うーん……。あるとしたら、掴んできた手が異様に細かったのと、腕にアザがいっぱいあったくらい、かな」

「……なるほど」

 腕を掴まれ「いないって言って!」と言われてすぐ気絶したらしいので、手の印象が強いのかもしれない。

「……しかし、困ったな」

「なにがだ?」

「この子を探すんでしょう?」

「そのつもりだったんだけど……」

 腕を組みながら雪弥は唸る。

 最初は虎太郎の言うとおり、写真のこの子を探すつもりであったが、このポスターには肝心なことが書かれていない。

「このポスター『どこでいなくなった』か、が書いてないんだよな」

「あっ!」

「言われてみれば、確かに……」

 人探しのポスターなら、いつどこでいなくなった、ということが書かれているべきなのに、このポスターにはいなくなった男の子の特徴しか書かれていないのだ。

 これではどこを探せばいいのか、探そうにも探しようがない。

「ど、どうするの?」

 居場所の手掛かりはないが、男の子に会う方法ならひとつある。

「女の人に話しかけられたら、夜にその子が来るんだろ?」

「そうだけど……。あ、もしかして」

「逆に女の人を見つけてこっちから近づいて、話しかけてもらうんだよ」

「ええー!」

 それはもう分かりやすく虎太郎が嫌な顔をした。

「やだよぉ! ピンポンされた時点でボク倒れちゃうよ!」

「俺もさすがに2回はいやだ……」

「ええー……」

 虎太郎が嫌がるのは分かっていたが、遥斗も嫌がるとは。しかし、立て続けに家にお化けが来るのは流石にいやか、と雪弥も思い直す。

 しかし、いなくなった場所も分からない男の子をやみくもに探すより、駅前や商店街で目撃されている母親のほうが、圧倒的に見つけやすいし、他に方法は思いつかない。

 何せ男の子と女の人はセットで現れるお化けのようだし、事前に来ると分かってさえいれば、そんなに怖くないような気がする。

「じゃあ見つけたら俺だけで話しかけるよ。それならいいだろ?」

「う、うん……」

「まぁ、それなら」

 しぶしぶ、という感じで虎太郎と遥斗が頷いた。

「よし、じゃあまず銀星街のほう行こうぜ!」

 雪弥はそう言いながら、ランドセルを揺らして駅前にある銀星街へ足をむける。虎太郎と遥斗は一足遅れて雪弥の後を追いかけた。

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