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【完結】弱小領主のダメ息子、伝説の竜姫を召喚する。  作者: 知己
第21章 『燕面の女、行路《みち》に迷う』
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083 ロンディーネとフランチェスコ

 何かの研究室のような部屋のあるじ————フランチェスコは三十代前半くらいだろうか。暗めの金髪ブロンドを乱雑に後ろへ撫でつけており、頬や顎には無精髭が目立つが、細く切れ長な眼元と薄い唇も相まって逆にそれがセクシーさを演出していた。

 

「————大した問題ではありません、フランチェスコ様。単に、迎えに行ったロンディーネが迷っていただけです」

 

 ティーナに告げ口をされたロンディーネは慌てて手を振って弁解する。

 

「ち、違う! 私は迷子になどなっていない!」

「なっていたでしょう。いい加減に認めなさい」

 

 またもや言い争いを始めた女たちをよそにロンジュがフランチェスコに話しかける。

 

「……フラー様。僕がおっきな石のところにいたら、ベルって人に会って少し話をして、それで帰るのが遅くなったんだ。ごめんなさい」

「ロンジュ……!」

 

 ロンジュは助け舟を出したつもりだったが、ロンディーネとしてはベルのことを持ち出して欲しくはなかった。

 

「ベル……?」

「えっと、ベルは愛称で本当の名前はベルティカ。ベルはロンディーネのことをヤンアルって人と勘違いしてたんだよ」

「————ほう、『ヤンアル』……?」

 

 ロンジュの報告を聞いたフラーは興味深げに顎に手を当て、ロンディーネに視線を移す。

 

「そうなのか、ロンディーネ(・・・・・・)?」

「……偶然会っただけだ」

「偶然……か。アンヘリーノからわざわざ出向いてきて、とてもそうとは思えないがな」

「…………」

 

 思わせぶりなフラーの言葉にロンディーネは自らに言い聞かせるように口を開いた。

 

「————フランチェスコ。改めて言うが、私の名はロンディーネだ。ヤンアルなどと言う女と私は無関係だ」

「……そうか、分かった。では任務を与える。ロンジュと共に向かってくれ。手筈はこの通りに」

 

 フラーが指を弾くと、メモがふわりと宙を漂いロンディーネの手元に届いた。

 

「了解した」

「道案内はいないが、迷うなよ?」

「……善処する。行くぞ、ロンジュ」

「行ってきます、フラー様!」

 

 ロンディーネが扉のノブに触れた時、「待て」というフラーの声が掛かった。

 

「……なんだ、フランチェスコ」

「その燕面もなかなかサマになってきたではないか、ロンディーネ。美しい女の顔が見られないのは、男としていささか残念ではあるがな……」

「…………」

 

 眼を細めて話すフラーとは対照的に、ロンディーネは口を真一文字に結んだまま扉を開けて出て行ってしまった。ティーナは二人が充分に遠ざかるのを確認して、フラーへ向き直った。

 

「————フランチェスコ様、『ベル』とは例の……?」

「ああ。確か、ベルティカ=ディ=ガレリオだったか。トリアーナ県の領主の息子だ。どうやら一命を取り留めていたようだな」

「……『処理』いたしましょうか……?」

「いや、捨て置け。たかが弱小領主の小倅が一人現れたところで何の問題もない」

「出過ぎたことを申しました。それでは私も任務に戻ります」

 

 ティーナが辞去した後、フラーは椅子から立ち上がって窓辺へ歩み寄った。

 

「……フフ、やはり『伝説の竜姫』は興味深いな……!」

 

 

            ◇

 

 

 フラーの研究室を後にしたロンディーネは自室に戻り、請けた任務の準備に当たっていた。

 

「————ロンディーネ」

 

 声に振り返ると、ロンジュが申し訳なさそうにモジモジしているのが見えた。

 

「……ロンディーネ。ベルのこと、フラー様に話したこと怒ってる……?」

「……怒ってなどいない」

「でも……」

 

 ロンディーネは準備の手を止めて、ロンジュの頭を優しく撫でる。

 

「分かっているよ。お前が私を助けるために言ってくれたのはな」

「ロンディーネ……」

「お前は優しい子だ。大人になってもその気持ちを忘れないでいてくれ」

「うん……、分かっ————ッ」

 

 突如、ロンジュはうずくまってガタガタと震え出した。

 

「————ロンジュ! 大丈夫か⁉︎」

「……か、身体が、寒い……ッ‼︎」

 

 服越しにロンジュの身体に触れていたロンディーネは指先に強烈な冷たさを感じて思わず手を離した。

 

「ロンジュ! 『薬』はどこだ⁉︎」

「……む、胸の隠し(ポケット)、に……」

 

 ロンディーネは素早くポケットから小瓶を取り出すと、中の錠剤をロンジュの口に放り込みコップを差し出した。

 

「水だ! 落ち着いて飲んで、ゆっくり真氣を身体に巡らせろ!」

「…………ッ」

 

 水で薬を流し込んだロンジュは言われた通り、座禅を組んで精神を集中させた。

 

 

 ほどなくしてロンジュの頭から白い煙が昇り始め、乱れていた呼吸が落ち着いてきた。

 

「————どうだ……? ロンジュ」

「……ありがとう、ロンディーネ。もう、平気」

「そうか、良かった……!」

 

 ホッとしたロンディーネがロンジュの背中をさすると、確かに先ほどまでの骨までみ入るような冷たさは無くなっていた。しかし、ロンジュはうつむいたままでポツリとつぶやく。

 

「……ロンディーネ。僕、このまま発作がどんどんヒドくなって、いつか氷のように固まって死んじゃうのかな……?」

「馬鹿なことを言うな! きっとフランチェスコが完全に治せる薬を作ってくれる。それまで諦めずに任務を続けるんだ……!」

「うん、ロンディーネも手伝ってくれるよね……? どこへも行かないよね……?」

「……ああ、安心しろ。どこへも行かない」

 

 ロンディーネはロンジュを安心させるように、その身体を優しく抱きしめた。

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