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【完結】弱小領主のダメ息子、伝説の竜姫を召喚する。  作者: 知己
第21章 『燕面の女、行路《みち》に迷う』
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082 ロンディーネとマルティーナ

 ロムルスの市街地を抜けたロンディーネは郊外に構えられた王宮の前で足を止めた。

 

 王宮の周囲は鉄柵付きの一際高い塀に囲まれ、正門では剣を携えた屈強な門番が一分の隙も見当たらない鋭い眼光を光らせたたずんでいる。塀の上部には、これまた巨大な旗が悠然とたなびいており、生き生きとした狼が牙を剥き出し今にも飛び出して来そうである。

 

 次いでロンディーネは仮面の隙間から塀の遥か奥に見える宮殿へ漆黒の瞳を向けた。塀の外側から見るそれは豆粒のようだが、近付くにつれその威容に圧倒されるであろう。

 

(……広大すぎる土地に、人が住まうには不必要な大きさのやしき。サンドラの家もかなりのものだったが、これは比較にもならない。これほどの土地と権勢を得るために、いったいどれほどの人間の血が流れたのか……)

 

 そんなことを考えていると、横から自らの名を呼ぶ声が届く。

 

「————ロンディーネ! 何やってるの? 早く行こうよ」

「ああ、今行く。ロンジュ」

 

 ロンジュに促され、ロンディーネは裏手の通用口へ回った。

 

 通用口にも門番の詰所があったが、門番はロンディーネとロンジュの制服の胸に刺繍されている紋章を眼にすると、やはり軽く会釈をするだけでスルーしてくれた。

 

 ロンディーネに先導される形で二人は通用口を抜けて王宮の敷地内を進んで行くが、いつまで経っても目的の場所にたどり着く気配がなく、不安そうにロンジュが口を開いた。

 

「……ロンディーネ」

「なんだ、ロンジュ」

「もしかして迷っ————」

「————迷っていない。到着への途中だ」

「それって迷ってるんじゃ……」

「……断じて違う。この広すぎる敷地と多すぎる家屋のせいで到着まで時間が掛かっているだけだ」

「う、うん……」

 

 有無を言わせぬロンディーネの物言いにロンジュは言葉を飲み込んだ。

 

 その後も黙ってロンディーネの背中に付いて行くロンジュだったが、やはり一向に着かないどころか、同じところをグルグル回っているような気がして来た。

 

「……ロンディーネ。あの噴水、さっきも通った気がするんだけど……」

「…………」

 

 痛いところを突かれたようにロンディーネが黙り込んだ時、背後から女の声が聞こえてきた。

 

「————ロンディーネ、ロンジュ! 何をやっているの、フランチェスコ様がお待ちよ」

 

 声に振り返ると、二人と同じ紫色の制服に身を包んだ眼鏡をかけた茶髪の女性が腕組みをしているのが見えた。歳は二十代後半といったところだろうか、知的さを感じさせる美人であるが少々気が強そうである。

 

「————ティーナ! 助かった! 僕たち迷子になってたんだよ!」

「待て。私は決して迷子などには……」

 

 ロンジュの言葉にロンディーネが異を唱えたところ、ティーナと呼ばれた女性が眼鏡をクイッとしながら口を挟む。

 

「……ロンディーネ、迎えに行った貴女あなたが迷子になってどうするの」

「ち、違うぞ。マルティーナ、私は断じて……」

「もういいから付いて来なさい。こっちよ」

「……む」

 

 ロンジュが喜んでティーナの後ろに付いて行くが、ロンディーネは釈然としない面持ちで続いた。

 

 

          ◇

 

 

 王宮の内部は似たような風景が延々と続いており、まるで迷宮のようであるが、眼鏡美人のティーナことマルティーナは一切戸惑う様子を見せずに石造りの廊下をスタスタと進んでいく。その後ろを安心した様子のロンジュが付いていくが、その隣で歩くロンディーネは複雑な表情で口を開いた。

 

「————マルティーナ」

 

 名前を呼ばれたティーナは振り向くことなく答える。

 

「……何?」

「先ほどから同じような場所を通っているように思えるが、大丈夫なのか?」

「貴女と一緒にしないでちょうだい。そんなことに気を回す余裕があるのなら、しっかり道順を覚えて欲しいわね」

「む……」

 

 女たちの険悪なムードを感じ取ったロンジュが慌てて間に入った。

 

「や、やめてよ、二人とも。お城の中でケンカしたらフラー様に怒られちゃうよ!」

『…………』

 

 ロンジュの仲裁でなんとか美女二人は口をつぐんだが、雰囲気は不穏なままである。そんな空気を吹き飛ばすようにロンジュがわざとらしく声を上げる。

 

「————あっ! 僕、この柱見覚えがある! この先を曲がればフラー様の部屋だよね、ティーナ!」

 

 言うが早いかロンジュは走って廊下を曲がって行ってしまった。

 

「……マルティーナ。この屈辱は必ず返すぞ……!」

「好きにすればいいけれど、貴女が勝手にそう感じているだけでしょう」

『…………!』

 

 ロンディーネはティーナと見えない火花をバチバチと散らしてロンジュの後を追った。

 

 廊下を曲がった突き当たりには、ここまでの道中で見てきた扉よりも一際重厚なそれがあり、ロンジュはすでに中に入っているようであった。

 

 追いついてきたティーナがノックをして、部屋のあるじに伺いを立てる。

 

「————フランチェスコ様。ロンディーネを連れて参りました」

「……ご苦労。入ってくれ」

 

 部屋の中から男の低くダンディーな声が届き、ロンディーネとティーナは真鍮しんちゅう製の扉の取っ手(ハンドル)を同時に引いた。

 

 薄暗い部屋の中には魔導書や文献らしき分厚い書物が納められた本棚が壁一帯を覆い尽くしており、作業台には緑や紫の液体が入ったフラスコや、奇怪な生物の標本の他にメスや鉗子かんしといった手術器具も置いてあった。

 

「————随分時間が掛かったな。ロンディーネ」

 

 部屋の奥から声が掛かり、ロンディーネはそちらに燕面を向けた。

 

 視線の先には乱雑に資料やメモが置かれた机があり、先ほどの声のぬしと思しき男が席に着いている。かたわらにはロンジュの姿もあった。

 

 ロンディーネは男の前に進み出て素直に頭を下げた。

 

「……すまない、フランチェスコ。少し問題が生じた」

「ほう……? 面白そうだな。その問題とやらを聞かせてくれないか……?」

 

 そう言って、部屋の主————フランチェスコは机の上で長く骨張った指を組んだ。

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