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【完結】弱小領主のダメ息子、伝説の竜姫を召喚する。  作者: 知己
第3章 『弱小領主のダメ息子、事情聴取を受ける』
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006 事情聴取

 ————翌日、ガレリオ家の当主であるバリアント=ディ=ガレリオが帰宅したところで、長男の行状と謎の美女についての事情聴取ならぬ家族会議が開かれることになった。

 

 参加者は以下の通りである。

 

 

・ベルティカ=ディ=ガレリオ(参考人A)……二十二歳、男性。ガレリオ家の長男。普段から領主の息子としての自覚に乏しい上、当主不在の折に無断で屋敷を抜け出した挙句、素性の知れない女(参考人B)を引き込んだ疑いが掛けられている。

 

・ミケーレ・ヴァレンティーノ(証人)……二十五歳、男性。ガレリオ家の使用人。参考人Aを連れ戻し、参考人Bと一戦交えた経緯から証人として採用された。

 

・レベイア=ディ=ガレリオ(聴取官A)……十二歳、女性。ガレリオ家の長女。怪我をして帰って来て心配させた上に、どこの馬の骨とも知れぬ参考人Bを連れ帰ってきた参考人Aを尋問するために参加。

 

・ガスパール・ドロレス(聴取官B)……六十二歳、男性。ガレリオ家の執事長。参考人Aの教育係として、この機会に立ち居振る舞いを矯正するべく参加。

 

・バリアント=ディ=ガレリオ(当主)……五十歳、男性。ガレリオ家の当主。所用で州都から帰宅したばかりだが、聴取官AとBに強く促され気が進まぬながら参加。

 

・ヤンアル(参考人B)……年齢不詳、女性。出自不明ながら参考人A曰くロセリア王国に古くから伝わる『伝説の騎士』であるとの証言があるが、現在客間で深い眠りに落ちていることから不参加。

 

 

 ◇◇◇◇ ガレリオ家の広間 ◇◇◇◇

 

 

 領主の屋敷としてはさほど広くない一室に、年齢も立場もバラバラな五人の男女が集まっていた。

 

「————それではベルティカ様。事の経緯をお聞かせ願いましょうか?」

 

 威厳に満ちた声で執事長のガスパールが声を上げると、当主の息子ながら下座に座らされたベルが頭を掻きながら口を開く。

 

「……ああ、昨日屋敷を抜け出した俺は気ままに馬を走らせて束の間の自由を満喫していた————」

「————まず、そこですわ!」

 

 ベルが話し始めた途端に右手の席に座る少女が口を挟んだ。

 

「以前から申し上げたかったのですが、お兄様には領主の息子としての自覚がお有りなのですか⁉︎」

 

 絹のような銀髪を蝶をかたどったカチューシャで纏めたこの少女はベルの年の離れた妹でレベイアと言う。美少女と言って差し支えない容姿をしているが、今は形の良い眉を吊り上げ、小さな口を『への字』の形にしてしまっていた。

 

「うーん、領主の息子としての自覚か。あるような、ないような……」

「いったい、どちらなんですの⁉︎」

「どうした、レベイア? 機嫌が悪いのか? 声が怖いぞ」

「ええ。ご覧の通り、すこぶる悪いですわ」

 

 小さな腕を組んで頬を膨らませるその様子がとても愛らしく、説教をされているというのにベルは微笑を浮かべた。

 

「心配を掛けて悪かったと思ってるよ。許しておくれ」

「心配なんかしていませんわ。私は怒っているのです。お兄様の領主の息子としての自覚のなさに」

「おや? そうなのか、おかしいな。いつもなら9時に眠るお前が、昨夜は日付が変わる頃まで俺が目覚めるのを起きて待ってくれていたというのに……」

 

 兄の言葉に赤面したレベイアは、ベルの後方に控えるミキへキッと視線を向けた。

 

「ミケーレ!」

「申し訳ございません! レベイア様!」

 

 ミキが深々と頭を下げると、左手に座るガスパールが再び口を開く。

 

「レベイア様、ベルティカ様のペースに乗せられてはなりません。それでは向こうの思う壺ですぞ」

「う……、心得ているわ」

 

 うなずいたガスパールはニヤついているベルに向き直り、促すようにゴツゴツとした手を差し出した。

 

「ベルティカ様、それでは続きをどうぞ」

「……分かったよ」

 

 すぐにこちらのペースに引き込める可愛い妹と違って、育ての親とも言えるこの執事長は一筋縄ではいかない。ベルは諦めて手を広げた。

 

「————どこまで話したっけ。ええと……そうだ、馬を樹に繋いで休憩していたところ運悪く三匹のワイバーンに出会でくわしたんた。繋ぎが甘かったせいで馬に逃げられ、近くの森に逃げ込んだ俺はなんとか一匹を仕留めたが残りの二匹に追い詰められ、あわや絶対絶命の窮地に陥ったんだ」

「そ、それで、どうなったんですの……⁉︎」

 

 兄の窮地と聞いたレベイアは、本人が眼の前にいるのにも関わらず悲痛な表情になった。

 

「突然眼の前が真っ赤に光って気付いた時には、どこからか現れた褐色の女に助けられたというわけだ」

「……その褐色の女性とおっしゃられるのは、いま客間で眠っている女性のことですかな?」

「ああ」

 

 ヤンアルのことが気になるのか、ベルは客間の方へ顔を向けて返事した。

 

「助けられたとは、どういった風に?」

「それが凄いんだぞ、ガスパール! 背中からあかい翼を生やして、宙を飛んで、あの細い腕でワイバーンの首をスパッと落としてしまったんだ!」

『…………』

 

 昨夜の出来事を思い出して興奮するベルとは対照的に一同の反応は微妙であった。

 

「……お兄様、お酒でもお召しになっていたのでは……?」

「……ベルティカ様、あまり無茶な飲まれ方はおめになられた方がよろしいかと……」

 

 レベイアとガスパールが同時にたしなめると、待ってましたと言わんばかりにベルが振り返った。

 

「ミケーレ! お前の出番だ! 昨夜、お前が目撃したことを証言してくれ!」

「……ワイバーンの件は分かりませんが、ベルティカ様がおっしゃられていることは本当です。私もあの女性があかい翼で宙に浮かんでいるのをこの眼で見ました」

 

 重苦しい口調でミキが答えると、レベイアとガスパールが顔を見合わせた後、再び同時に口を開く。

 

「ミケーレが言うのなら信じるしかないわね……」

「にわかには信じられませんが、ミケーレがそう申すなら……」

「おい、俺も傷つくのは傷つくんだぞ?」

「————ベルティカ」

 

 ベルがツッコんだ時、ここまで黙っていた当主のバリアントがようやく口を開いた。

 

「お前の言うことを信じよう」

「お父様、そんな簡単に……」

 

 ベルとレベイアの父であるバリアントは穏やかな風貌と物腰で、一目見ただけではとても領主とは思えない人物である。どちらかと言えば、よほどガスパールの方が領主然としているほどであった。

 

「いや、何も無条件で信じたわけではない。昨夜、ロセリア全土に一瞬赤い光が走ったことが確認されている」

「さすが父上! 懐が深い!」

 

 父の信任を得たベルが勝ち誇ったように拍手する。

 

「それでベルティカよ、その女性はいったい何者なんだね?」

「はい、父上」

 

 ベルはたたずまいを正して正面の席に着く父に向き直った。

 

「————彼女の名は『ヤンアル』。私が思いますに彼女は、ロセリアに古くから伝わる『あかい翼を携えた伝説の騎士』なのではないかと」

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