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【完結】弱小領主のダメ息子、伝説の竜姫を召喚する。  作者: 知己
第15章 『弱小領主のダメ息子、昏睡状態から覚醒する』
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063 旅立ち

 ————ファビオとトレーニングを始めて数日後、ベルはサンドラに呼ばれた。

 

「お呼びでしょうか、母上?」

「来たわね。これをご覧なさい」

 

 自室のソファーに腰掛け紅茶を嗜んでいたサンドラがある物を差し出した。

 

「……これは?」

「ガレリオ家からの手紙よ」

「————父上たちから⁉︎」

 

 破顔したベルは急いで中身を確認する。

 

 そこには父・バリアントにミキとカレンとガスパールの祝いの言葉に溢れており、ベルは思わず目頭が熱くなった。

 

「……みんな……! 俺のことをここまで心配してくれて……‼︎」

「…………」

 

 サンドラは息子が落ち着くのを待って話しかける。

 

「……ベルティカ。あなたに頼まれていたヤンアルの行方ゆくえだけれど————」

「————何か分かりましたか⁉︎」

 

 身を乗り出してベルが尋ねるが、サンドラの表情は重い。

 

「いいえ……。方々に手を回しているのだけれど、一向に消息が掴めないのよ……」

「……そうですか……、仕方ありませんね。私の方ももう少し準備に時間が掛かりますので、引き続きお願いします」

「……意志は変わらないのね……?」

「ええ、私は必ずヤンアルを連れ戻します……!」

「…………」

 

 芯の通った息子の表情を見たサンドラは感心したように頬杖をついた。

 

「————あなた、変わったわね……」

「……そうですか? 自分ではよく分かりませんが」

 

 照れ臭そうにベルは頭をかいた。

 

 

 

 ————翌日の早朝、ファビオが中庭にやって来ると、先に着いていたベルが馬にまたがるような不思議なポーズを取っていた。

 

「……ベルティカ様。その姿勢は……」

「おはよう、ファビオ。これは『騎馬式』といって、ヤンアルが使う武術の練習の基礎姿勢の一つなんだそうだ。ヤンアルがミケーレに教えていたのを思い出してな」

「……騎馬式……」

 

 つぶやいたファビオはベルと同じポーズを取ってみた。

 

「……成程……、これはかなり身体に負担が掛かりますね……」

「丹田を意識すると良いそうだぞ」

「……丹田……、ヘソの下あたりですね……」

「そうだ……。これを後2時間続けるぞ……!」

「……かしこまりました……」

 

 早朝の中庭で男たちが二人肩を並べて妙なポーズを取っている。朝の散歩をしていたレベイアに白い眼を向けられたのは言うまでもない。

 

 

        ◇

 

 

 ————そこから数日の間ベルはトレーニングの合間に図書館へ通い、ヤンアルに関係ありそうな書物を読み漁った。残念ながら真新しい記述はほとんど見当たらなかったが、東洋武術の基礎呼吸法や歩法、技などが丁寧に図解されている本を見つけたことで、ベルの武術への理解は多少なりとも深まった。

 

 

 ————さらに二週間が過ぎた頃にはファビオの教えと武術書で得た知識が渾然と混ざり合い、ベルの動きや技は洗練された。元々の身体能力の差もあって、もはやベルの相手が務まらなくなり、ファビオは首を振って手を上げた。

 

「……ここまでにしましょう、ベルティカ様。これ以上、私がお相手をするとあなたの勘が鈍ってしまいます……」

「————本当にありがとう、ファビオ……! あなたはいつまでも俺の老師せんせいだ……!」

「……そのお言葉はガスパールへお掛けになってください……」

 

 そう言ってファビオがわずかに口角を持ち上げた。初めてファビオの笑顔を見たベルは、いつかヤンアルが見せたようにひざまずいて額を地面に打ち付け、感謝の意を示した。

 

 

         ◇ ◇

 

 

 ————その日の夜、ベルは再びサンドラから呼ばれた。

 

「母上、ベルティカです」

「……座りなさい」

 

 言われるままベルがソファーへ腰を下ろすと、おもむろにサンドラが口を開いた。

 

「ヤンアルらしき女性の目撃情報が入りました」

「————本当ですか⁉︎」

 

 興奮した様子でベルが立ち上がったが、サンドラはなだめるように手で制した。

 

「落ち着きなさい。順を追って説明するわ」

「はい……!」

 

 ベルは波打った心を鎮めるように左胸に手を置いた。

 

「数日前、ここから西のデルニという小さな街で黒髪で褐色の肌の若い女性が目撃されたらしいわ」

「デルニ……‼︎」

 

 ヤンアルが姿を消して初めて得た情報にベルの双眸が輝きを増した。

 

「……ただし、それがヤンアルだという確証はないし、その後の消息は掴めていません。それでも行くのかしら……?」

「可能性が少しでもあるのなら私はどこへでも行きます……‼︎」

「……分かりました。でも今日はもう遅いわ。出発は明日の朝にしなさい」

「————はい、ありがとうございました。おやすみなさい、母上」

「ええ、おやすみ」

 

 サンドラに礼をして部屋を出ようとした時、ベルの足が止まった。

 

「————あ」

「どうしたの?」

「母上、一つお願いがあるのですが」

「…………?」

 

 

 

 ————翌朝、旅支度を整えたベルは中庭で布を上半身に掛けて椅子に座っていた。息子の後ろに立つサンドラが確認するように声を掛ける。

 

「……本当に私で良いの? やはり専属の理容師の方が……」

「いえ、母上に切っていただきたいのです。私が幼い頃はよく切ってくれていたでしょう?」

「……それはあの頃のあなたが知らない人間に髪を触られるのを嫌がったからよ……」

 

 口ではそう言いながらサンドラは少し嬉しそうにハサミを握った。

 

 

 

「————うん! やっぱり母上はお上手ですね! ありがとうございました!」

「……まあ、久しぶりにしては上手くいった方かしらね」

 

 鏡を見ながらベルが賛辞の声を上げると、サンドラは照れ臭そうに笑って見せる。

 

 今までは結んだ髪を肩口から垂らしていたのだが、今は襟足が短く切り揃えられており、前髪もすっきりして眼元に掛からないほどになっていた。

 

「お兄様の短髪姿、初めて見ました……」

「そうだな、ここまで短くしたのは子供の時以来だな」

「どうしてお切りになられたの?」

「やっぱり長いと動きにくいからな」

 

 切った髪を払い除けたベルはサンドラとレベイア、そして後ろに控えているファビオへ向き直った。各々から餞別の言葉が贈られる。

 

「必ずヤンアルと一緒に帰ってきてくださいね!」

「何か困ったら手紙を寄越しなさい」

「……病気にはお気を付けて……」

「————はい! それでは行ってきます!」

 

 ベルは颯爽と馬にまたがると西のデルニへ向けて出発した。

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