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【完結】弱小領主のダメ息子、伝説の竜姫を召喚する。  作者: 知己
第8章 『伝説の竜姫、執事長から読み書きを習う』
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024 ガスパール老師

 ガラテーアの街へヤンアルの服を買いに行った翌朝、ガレリオ家の食堂では静かな時が流れていた。

 

 ————いや、沈黙の時と言った方が正しいのかも知れない。

 

「…………いやあ、今日の朝食はいつもより美味しいなあ! そうは思わないか、レベイア?」

「…………いいえ、特には」

「……そ、そうか」

 

 いささかわざとらしい笑顔でベルがレベイアへ話し掛けるが、可愛い妹からの返事は素っ気なかった。会話が空振りに終わったベルはターゲットを変えた。

 

「……特にこのスープだな! 味付けを変えたのかい、カレン?」

「…………いえ、そのようなことは一切ございません」

「……あ、そう」

 

 全く感情のこもっていないカレンの返答にベルは一瞬気落ちした様子を見せたが、すぐに持ち直して笑顔を作る。

 

「————そうだ! 今日の勉強は久しぶりに俺が見てあげようか、レベイア?」

「結構ですわ。カレンに教えてもらいますので」

 

 レベイアは慣れた手つきで口元を拭うと、カレンを伴って早々と食堂を後にしてしまった。

 

「————ベルティカ。レベイアと喧嘩でもしたのか?」

 

 明らかに不機嫌な様子の娘を見た父・バリアントが息子へ問い掛けた。

 

「はい……。実は昨日ガラテーアへヤンアルの服を買いに行ったのですが、合流するのを見事にすっぽかしてしまいまして、それからずっとこの有り様です」

「成程、それはお前が悪いな」

「返す言葉もありません」

 

 ベルが素直に非を認めると、隣でナイフとフォークに四苦八苦していたヤンアルが助け舟を出す。

 

「バリアント、ベルを叱らないでやってくれ。そもそもの原因は私が迷子になってしまったからなんだ」

「ありがとう、ヤンアル。でも、いいんだ。キミが迷子になってしまったのも俺が眼を離したのがいけなかった」

 

 互いにかばい合う二人を見てバリアントは眼を細める。

 

「まあ、終わったことは仕方ない。数日もすればレベイアの機嫌も直るだろう。ベルティカ、レベイアは難しい年頃だ。気を付けて接してやりなさい」

「はい、父上」

 

 ベルの返事にバリアントはうなずくと、ヤンアルの方へ顔を向けた。

 

「ヤンアル。その服、良く似合っているがそれは誰かの見立てかね?」

「うん。ベルが選んでくれたものだ。動きやすくて気に入っている」

「そうか、それは良かった」

 

 微笑んだバリアントは席を立って、再びベルの方へ向き直った。

 

「今日は片付けねばならない書類が沢山ある。昼食は書斎で取るから、また夕食でな」

「分かりました」

 

 バリアントが食堂を出ていくと、残されたヤンアルが神妙な顔つきになった。

 

「……ベル、一つ頼みがあるんだが」

「ん? なんだい、ヤンアル?」

「私に『読み書き』を教えて欲しい」

「……読み書き?」

 

 おうむ返しするベルに対しヤンアルが続ける。

 

「うん。昨日、街で迷子になって色々考えたんだ。私はこの国のことを何も知らない。そのせいでベルたちに迷惑をかけてしまった」

「そんなこと気にしないでいいんだ。迷惑だなんて俺もみんなも思ってはいないさ」

 

 優しく諭すようにベルが言うが、ヤンアルは首を横に振った。

 

「いいや。どうして私がここに居るのか分からないが、居るからにはいつまでもお前たちに甘えてはいられない。少しでも出来ることを増やしたいんだ」

「ヤンアル……」

「————ヤンアル様。僭越せんえつではございますが、よろしければ私にその役目をお申し付け頂けないでしょうか?」

 

 声のした方に二人が振り向くと、教師然とした初老の男が胸に手を置いている姿があった。

 

「ガスパール。お前が?」

「はい。恐れながら、ベルティカ様の教育係も私が務めさせて頂いておりました」

「本当か? ベル」

「あ、ああ。まあ……」

 

 幼少の頃のスパルタ教育を思い出してベルは冷や汗を流した。

 

「そうだったのか。しかし、どうして私の勉強を見てくれようと思ったんだ?」

「はい。ベルティカ様の教育は『一応』終わっておりますし、レベイア様はカレンが担当しております」

 

 『一応』と強調するガスパールに視線を向けられたベルは、口笛を吹きながら顔を背ける。

 

「つまり、教えたいのに教える相手がいなかったと言うことか?」

「いえ、それだけではございません。先ほどのヤンアル様のお気持ち、このガスパールいたく感動致しました。是非とも私に教師の役目をお申し付けくださいませ……!」

 

 ガスパールの眼には熱いものが溢れており、その身体は小刻みに揺れていた。どうやら感動したというのは誇張ではなさそうである。

 

「……まあ、厳しいがガスパールは俺なんかよりも教えるのは上手だと思うよ」

 

 ベルが老執事長の意を汲んでやると、ヤンアルは考え込む仕草を見せた。

 

「……一つ条件があるがいいか?」

「なんなりと」

「これからは私のことは『様』など付けず『ヤンアル』と呼び捨てにして欲しい。これが条件だ」

 

 真面目な顔でヤンアルが言うと、ガスパールは少し驚いた様子を見せたが、すぐに優しげな笑みを浮かべる。

 

「————了解しました。ヤンアル」

「うん、よろしく頼む。ガスパール老師せんせい

 

 胸に手を当ててお辞儀するガスパールに対し、ヤンアルは立ち上がって右手の拳を左の掌で包み、礼を返した。

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