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【完結】弱小領主のダメ息子、伝説の竜姫を召喚する。  作者: 知己
第26章 『弱小領主のダメ息子、指名手配を受ける』
114/201

113 魔法合戦

 ヤンアルが(あか)き翼を広げると、今まで余裕を見せていたレオとクリスの表情が引き締まった。

 

「……へえー。話にゃ聞いてたが思ってたよりヤベぇな、こいつぁ……!」

「ええ……。彼女が翼を広げると同時に威圧感が増しました……!」

 

 二人が相次いで感想を述べている間にヤンアルの身体が10メートルほど浮かび上がり、ベルたち四人を見下ろす形になった。

 

 どこか神々しさすら感じさせるその姿にベルは戦闘中であるにも関わらず陶然となった。

 

(ついに、ヤンアルの本気の闘いが見られる……! この二人がどれほどの強敵かは分からないが、翼を広げたヤンアルに敵うわけがない……!)

 

 そんなことをベルが考えている時————、

 

「————『稲妻(フルミネ)』ッ!」

 

 ドスの効いた男の声と共に稲光が夜空を駆け、標的であるヤンアルへと(ほとばし)った。

 

「ヤンアルッ!」

 

 ベルが叫び声を上げたが、当のヤンアルは翼をはためかせて難なく躱し、その余勢をもって上空を悠々と旋回し始めた。

 

「マジかよ! 俺の『稲妻(フルミネ)』を躱すとかフツーじゃねえぞ⁉︎ あの(アマ)!」

「関心してる暇があるなら二の矢、三の矢を放てば良いでしょう。何もご丁寧に一発ずつ撃ってあげることはありませんよ」

「うるせえッ! んなこたぁ分かってんだよッ!」

 

 クリスに促されレオが再び詠唱を始めた。その様子に気付いたベルが静止の声をかける。

 

「————やめろッ! ヤンアルに当たったらどうするんだ!」

「……バカか、てめえは……! 感電させて拉致(ラチ)るためにやってんだよ。ウダウダ言いやがるなら、てめえからやってやろうか……⁉︎」

「やれるものならやってみろ————不意打ちの『(フゥオーコ)』ッ‼︎」

 

 得意魔法————というより、攻撃魔法はこれ一種類しか知らないベルの火球がレオに飛んでいった。『(フゥオーコ)』の範疇を超える火焔が周りの空気を歪ませながら向かってくるのにも関わらず、レオは興味深げな表情を浮かべて左手をかざして見せる。

 

(ヤンアルの氣血が身体に入って強化された俺の『(フゥオーコ)』だ。いくら宮廷魔術局員でも簡単には防げないぞ!)

 

 自身の放った魔法の充実ぶりに得意げになったベルだったが、その自信は直後に脆くも崩れ去ることになる。

 

 ベルの放った火球をレオは左手で軽く受け止め、そのまま、まるでお手玉のように掌の上で弄び始めた。その驚くべき光景にベルは言葉を失った。

 

「……なっ⁉︎」

「ほぉー……。こいつぁ『(フゥオーコ)』っつーより『火焔(フィアンマ)』に(ちけ)えな。だが、この俺に火系魔法を浴びせるたぁイイ度胸してんじゃねえの……!」

「レオ。あのダメ息子は消し炭にして構いませんよ。生け捕りの命令が出ているのはヤンアルとマルティーナだけです」

「てめえに指図されんのは癪だが、了解……‼︎」

 

 凶悪な笑みを携えたレオが先ほどまでとは別の詠唱を始めると、ティーナが血相を変えてベルの前に駆け寄った。

 

「————ベル! 私の後ろに下がってください!」

「ティーナさん⁉︎」

「……暗き地の底から湧き起こりし灼熱の炎よ、この世の全てを焼き尽くせ————『獄炎(インフェルノ)』ッ‼︎」

 

 呪文の完成と共にベルの『(フゥオーコ)』とは比べものにならないほどの業火が襲い掛かる。死を意識したベルの前に立ったティーナが両腕をかざすと、二人を包み込むように光の壁が出現し地獄の業火を遮断する。

 

「す、すごい、ティーナさん! さすが結界魔法の達人!」

「……いえ、かろうじて後方へ受け流しているだけです……!」

「えっ?」

 

 苦しげなティーナの声を聞いたベルが恐る恐る振り返ると、先ほどまで休憩に使っていた母屋がゴウゴウと音を立てて大炎上しているのが見えた。

 

「えええっ⁉︎ ティーナさんの隠れ家がッ‼︎」

「そんなことを気にかけている場合ではありません……! このまま我慢比べをしていたらこちらが先に消耗してしまいます……‼︎」

「そんな……!」

「……『獄炎(インフェルノ)』は火系の最上位魔法……。更に火系魔法はレオナルドが最も得意としている系統です……!」

「…………‼︎」

 

 額に(たま)のような汗を浮かべて話すティーナの様子にベルが青ざめた時、上空のヤンアルから声が掛かった。

 

「ティーナ、少し待っていろ。今、緑髪の男を片付けてやる」

 

 風に乗ったヤンアルが『獄炎(インフェルノ)』を放つレオに狙いを定めると、隣に立つクリスが仲間を守るようにスッと立ち塞がった。

 

「……面倒ですが、レオが倒されると更に面倒なことになるので、貴女(あなた)には大人しくしていてもらいましょうか」

「…………?」

 

 クリスが右手をかざして何やらつぶやくと、それまで颯爽と空を駆けていたヤンアルの動きが鈍くなり、そのしなやかな身体がゆっくりと降下していく。

 

「ヤンアル……? いったい、どうしたんだ……⁉︎」

 

 いまだ翼は生えているものの、ヤンアルの足は完全に地面に着いてしまっていた。ベルの言葉にヤンアル自身も信じられないといった様子で答える。

 

「……分からない。どうしてだか身体に力が湧いてこない……⁉︎」

「なんだって……⁉︎」

 

 力なげなヤンアルの返事にベルは戸惑いの声を上げた。

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