111 恐るべき想像
ティーナの突然の告白にベルは思わず訊き返す。
「フランチェスコが聖ロムルスの子孫……⁉︎」
「ええ。表向きには秘されていますが」
「驚いたな……! だから、信奉しているのは聖ロムルスだと言っていたのか……!」
「ティーナ、続きを」
ベルとは対照的に冷静なヤンアルに促され、うなずいたティーナが続ける。
「……人格が変わられる前からフランチェスコ様は個人的に『ロムルスの七丘』の研究をなさっていました」
(……それでフランチェスコは『七丘』へフィールドワークに出ていたのか……)
話の腰を折らないようにベルは心の中で独白する。
「————最初はエリクシールの研究の気晴らしに尊敬する先祖の成した偉業を追っていただけのように思えましたが、ある時を境にのめり込むように研究に没頭し始めたのです……」
ティーナはここで言葉を区切って、少し気を落ち着かせてから再び口を開いた。
「……先ほど話に出した、アリーヤさんに注入された注射器の中身についてですが、あれは魔獣の魂を抽出したモノだったと考えます」
「魔獣の魂を抽出したモノ————⁉︎」
信じられないといった表情でベルが繰り返したと同時に、今度はヤンアルが立ち上がった。
「————まさか、ヤツが私とロンジュにさせていたことが……⁉︎」
「……そうだ。なんだかんだで今まで聞けなかったけど、フランチェスコはキミたちに何をさせていたんだ……⁉︎」
「ヤツは私とロンジュに、常人では到達できないような場所にある貴重な素材を集めさせたり、強力な魔物の退治をさせていた。いま思えば、それはエリクシールを作るための素材集めだったんだろう」
「……ん? 素材を集めたいなら、それこそギルドに依頼するなり、王宮特権を使って献上させるなりすればいいんじゃ……」
「ベル。ギルドは独立した巨大組織ですから、いくら王宮と言えどおいそれと従わせることは難しいのです。だからこそカステリーニのように裏で素材の横流しを行う者が後を絶たないのですが……」
ティーナの補足を聞いたベルは納得した様子でうなずく。
「なるほど……。フランチェスコにしてみれば、S級冒険者が裸足で逃げ出すようなヤンアルとロンジュは貴重な人材だったと言うわけだ」
「裸足で逃げるかは分からないが、ヤツは任務と称してもう一つ別のことを私たちに命じていた」
「それはいったい……⁉︎」
「……ロムルスの七丘で墓荒らしのような真似をさせられたんだ」
ヤンアルの返事にベルは眼を丸くさせた。
「墓荒らし……? ……まさか、あの馬鹿デカい石碑を持ち上げたのかい……⁉︎」
「ああ。かなり真氣を消耗させられたが、ロンジュと二人でなんとかな」
「…………!」
こともなげに話すヤンアルにベルは顔を青くさせた。
(……金輪際ヤンアルを怒らせないようにしよう。本気の平手打ちをもらったら、首が360度回転して千切れ飛んでしまいそうだ……‼︎)
そんなベルの内心など知る由もないヤンアルが不思議そうな表情で尋ねる。
「どうした、ベル? 顔色が悪いぞ?」
「……いや、なんでもないさ。それで、その後はどうしたんだい……?」
「ああ。石碑の下を掘って出てきたものを回収した。その中には骨のようなモノもあった」
「…………!」
ヤンアルの答えを聞いたベルはゆっくりとティーナへ顔を向ける。
「————ティーナさん……。貴女はフランチェスコが、その骨から魔獣の魂を抽出したと考えているんですか……⁉︎」
「ええ……。ここからは私の想像ですが、おそらく研究を続けていくうちにフランチェスコ様は七丘に封じられていた魔獣の一匹を目覚めさせてしまい、魔獣に精神を支配されてしまったのではないかと……‼︎」
「……そして、その魔獣は仲間を順々に蘇らせようと考えて、その一匹目があのインヴィディアだったと……⁉︎」
「…………」
ベルの言葉に無言でうなずいたティーナの表情が強張り、その両肩が震え出した。それも無理もないだろう。彼女のこれまでの言動の端々から、フランチェスコへの敬意以上の感情は感じ取ることは出来た。そんな誰よりも大切な人間の精神が、この世で最も恐ろしい魔獣に乗っ取られているのかも知れないのだ。気丈に振る舞ってはいても、内心では今すぐにでも泣き叫んでしまいたいはずである。
ベルはティーナの芯の強さに舌を巻きながらも別のことを考えていた。
(……彼女の想像が事実であるとすれば、なんという運命の皮肉だ。七匹の魔獣を封じたとされる聖ロムルスの子孫であるフランチェスコが、よりにもよってその魔獣に操られ復活を企んでいるだなんて……!)
その時、ヤンアルが立ち上がって、震えるティーナの肩にそっと手を触れた。
「……ヤンアル……」
「ティーナ。すでにフランチェスコの精神が魔獣に食い尽くされていたとしたらどうする……?」
「…………ッ‼︎」
「————ヤンアル!」
あまりに非情なヤンアルの言葉にたまらずベルも席を立って声を上げた。しかし、ヤンアルはティーナの両肩をガッシリと掴んで再び尋ねる。
「ティーナ。答えてくれ」
「…………私は信じているわ……! あの方が、フランチェスコ様の魂が無事だということを……‼︎」
長い睫毛を涙で濡らしながらも気丈に答えるティーナをヤンアルは優しく抱き締めた。
「よく言った……! お前のためにも、フランチェスコを助けることを改めて誓おう……‼︎」
「ヤンアル……‼︎」
感激の涙を流したティーナはヤンアルの背中に手を回して礼を述べる。
「……俺も力の限り手を貸しますよ。彼は命の恩人ですからね」
「ベル……!」
鼻をすすりながら話すベルにヤンアルがイタズラな笑みでツッコミを入れる。
「どうしてお前まで泣いているんだ、ベル?」
「そういう野暮なことは言いっこなしだよ、ヤンアル」
「ふふ……」
微笑を浮かべたヤンアルだったが、何かを察知したように突然窓の方へ顔を向けた。




