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第五十七部

 マリアの助言を参考にしながら試行錯誤してみたが、結局魔法は定義できなかった。


「はぁ……いくらなんでも難しすぎる……」


「そう気を落とさないで。この魔法の定義は一筋縄ではいかないわ。人間を従えるのは簡単だけど、心を変えるのは簡単じゃない。それも世界中の人間となると、現実的に考えれば不可能に等しいわ」


「えぇ……」


「それでも諦めないで。できるかどうかではなくて、できるように定義するの。例えば、効果が及ぶ範囲は世界中の人間と固定して、効力を永続的ではなく一時的なものにするとかね」


「一時的って、それじゃまたいつか人間と魔女が争うようになるかもってことか?」


「それでいいのよ。この世界に永遠は存在しないのだし、ずっと魔法にかかっているようでは人間が人間らしく生きられないでしょう? この魔法を使うことで、人間と魔女の間にある壁を壊せればそれでいい。その先のことは次の世代に任せましょう。そうやって歴史は作られていくものだしね」


「まあ、そうだな。難しく考えすぎてもしょうがない。俺にできる定義でこの魔法を完成させてみるよ」


 椅子から立ち上がり、俺は思い切り伸びをした。


 随分と長い間この部屋にいたような気がする。

 いかんせん魔女の宮殿にいる間は時の流れが曖昧だ。

 二、三日経ったのではないかというくらい部屋を物色しても、現実に戻ってみると寝て起きたくらいの時間だったりする。


「ご先祖様、疲れたしそろそろ戻るよ」


「お疲れ様。人間と魔女が共に生きられる世界、実現するのを楽しみにしているわ」


「ああ、頑張ってみるよ。また手伝ってくれよな」


 そう言うと、マリアはわずかに視線を伏せた。


「どうかしらね。また会えるといいのだけど」


「えっ、これでお別れってこと?」


「さあね。第一、今私がここにいること自体よくわかっていないもの。もしかしたら、この魔法をあなたに引き継ぐために奇跡が巡り会わせたのかもしれないわね」


「えー、もっと話したいこととか聞きたいこととかあったんだけどなぁ」


「ふふっ、きっとまた会えるわ。願いを託すという役割は終わったけれど、また奇跡が起こるのを信じてみましょう。可愛いマリア、信じる心を忘れないでね」


「わかってる。さよならは言わないぜ。また会えるしな」


「ええ、きっとね。それと、一つお願いがあるの。あの娘には、ここで私と会ったことを秘密にしておいてほしいの」


「え、なんでだ? ご先祖様が死んでも元気だったら、お師匠様も喜ぶと思うけど」


「そうね。でも、あの娘には過去に囚われてほしくないの。いつまでも死者の影を追い続けるのは悲しいでしょう? 私の敵討ちのために世界を滅亡させようとしているなら、なおのこと」


「ご先祖様がそう言うなら……わかった、約束する」


「ありがとう」


 再び視線が交わる。


 マリアの瞳は慈愛に満ち溢れていた。

 まるで女神のような、万物を愛する優しさが宿っていた。


 最後までさよならを告げることなく、俺は魔女の宮殿を後にした。

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