第五十一部
かれこれ三時間は剣を振っていただろうか。
汗が滝のように流れ、腕も足も筋肉痛で痺れかけている。
俺はドレスが汚れるのも気にかけず座り込んだ。
「はぁ、はぁ……ちょっとは身についたと思うか?」
「ああ、上達が速い。何年も修行を積んできた私と同等かそれ以上の実力だ。あと二日も練習すれば、確実に君の方が格上だ」
「ははっ、それは嬉しいね。この調子なら王都一の剣士になれそうだ」
実際のところ、俺に剣術の才能はない。
人並外れた力を持っているだけで、技術はまだクロヴィスに遠く及ばない。
魔法を使えば技術の埋め合わせはできるだろうが、人間に手を差し伸べるのなら一人の人間でありたい。
「マリア、君は正義の味方みたいだ。弱き者を守るために立ち上がろうとしている。私たち騎士よりよっぽど立派だ」
「そんなんじゃないって。たまたま仲間が危険な目に遭わされたから腹が立っただけで、スラム街の人たち全員を守ろうってわけじゃない」
「それでも立派さ。今の私は陛下の傀儡、意志を持てば騎士としての意義を失う。君のような人が今の王都には必要なのかもしれない」
「またスカウトか? 悪いけど、今はまだ無理だ」
「はははっ、断られると思ったよ。やるべきことがあると言っていたな。差し支えなければ教えてくれないか?」
「……いや、教えられない。俺だけじゃなくてお姉様にも関わることだ、クロヴィスは信用できそうだけど秘密にしておくよ」
「そうか。すまなかったな、詮索なんかして。さて、もう遅い時間だ。そろそろ帰るとしよう」
「明日も指導してくれるか?」
「ああ、あと二日だけな。それ以上は私に教えられることはない。宿屋まで送っていくよ」
「え、大丈夫だって」
「何を言う。君は強いかもしれないが、レディーを一人で帰すなんて騎士失格だ。私の面子のためにも送らせてくれ」
「わかったわかった。それならエスコートしてもらおうかな」
「お任せを、お嬢様。ほら、手を」
差し出されたクロヴィスの手を取って立ち上がり、俺は帰路についた。




