第五十部
城内、訓練場。
騎士たちが寝静まった夜をあえて選んだため、まるで処刑場のように粛然としている。
「でも、よかったのか? 俺みたいな一般人を城の中に入れたりなんかして」
「平気さ。見つからなければどうということはない。さて、早速始めようか。ほら」
手渡されたのは、刃の潰されたロングソード。
持ってみると案外重量感がある。
「模擬戦用の剣だ。切れないだけで、重さと使い勝手は本物と変わらない。初心者には木剣で指導するのが望ましいが、君の場合は急を要するからね」
「気遣い感謝する。何から始めればいい?」
「まずは素振りからだ。剣は振れなければなんの役にも立たない。見たところ、君の腕には筋肉がない。腕力には自信があると言っていたが、あまり期待はしない。さあ、振ってみてくれ」
柄を両手でしっかり握り、切っ先を振り上げて振り下ろす。
何度か繰り返し、徐々にそのスピードを上げていく。
「そこまで。いや、驚いた。そんな細腕でよくできたものだ」
「言ったろ、腕力には結構自信があるって」
「……変な意味ではないのだが、少し腕を触らせてもらってもいいか?」
「ん、別に構わないけど」
クロヴィスの手が俺の腕をぷにぷにと摘まむ。
今まで筋トレなんかしたことないから、筋肉なんてあるはずもない。
ただの柔らかい肉だ。
「感想は?」
「……いや、すまない。レディーの腕だ。こほん……続けよう。次は基本的な剣の使い方だ。ロングソードは切るためでなく、どちらかといえば重みで殴りつけるための武器。振り回さなければ攻撃にならない以上、路地裏などの狭い場所では不利となる。通りにおびき寄せるのが理想だが、やつも目立つ場所にわざわざ出ていくのは嫌がるだろう」
「じゃあ、やっぱ路地裏で戦うことになるのか」
「大方そうなるだろうな。狭い場所で動作が大きい攻撃は読まれやすい。だから、抜剣と同時に攻撃を仕掛ける」
「剣を抜く時ってことか? でも、一度きりの攻撃で仕留められるのかよ?」
「仕留めなくていい。これは不意打ちに近い。閃光のごとき一撃を放ち、その後の攻撃に繋げるんだ。先行が取れたら優位に立ちやすくなる」
「そういうことか。じゃあ、やってみるぞ」
剣を鞘に収め、柄を握る。
呼吸を止め、侍になった気分で集中する。
抜剣。
剣身は風を薙ぎ、切っ先は風を切り裂いた。
音が遅れて聞こえたのは、剣を振る速度が音速を超えたためだ。
「……マリア、君も騎士になるつもりはないか? どうやら君には剣術の才能があるようだ」
「いや、遠慮しとくよ。俺にはやるべきことがあるし。それより続けようぜ」
「君のような逸材は放っておけないな。そのやるべきことが終わったら、またスカウトしてもいいか?」
「まあ、考えとく」
「ありがとう。よし、次は私と手合わせだ。手加減はしない。君は強いからな」




