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第四十九部

 次の日、俺は王都騎士団団長のクロヴィスを訪ねていた。


「また会えて嬉しいよ、マリア。今日は早速護衛の依頼かい?」


「いや、別の用件で来た。クロヴィス、あんたに頼みがある」


「頼み、か。大方予想はつく。スラム街の亡霊のことか?」


「勘がいいな。昨日、スラム街の亡霊に襲われた。運よく殺されずに済んだけど、ああいうやつがうろついていると思うと不安で夜も眠れない。だから、騎士団でなんとかしてほしい」


 しかし、クロヴィスは首を横に振った。


「それはできない。前にも言ったが、無法のスラム街で起きたことには一切介入しない」


 期待していた答えではなかった。

 が、想定通りの答え。


「じゃあ、このまま怯えながら暮らせって言うのか? スラム街の宿屋には、家族同然の仲間がいる。あんたらと同じ、れっきとした人間なんだよ。弱き者を守れるだけの力があるのに、どうしてそれを活かそうとしない?」


 王女を守るだけが騎士ではない。

 王都と国民を守ってこそ騎士だ。

 腰に下げた剣は、守るべき者のために振るわなければならない。

 迫り来る脅威を見過ごすのなら、剣はただの飾りへと成り下がり錆びついてしまう。


「守るべき者に価値があるのなら、喜んでこの剣を振るおう。だが、スラム街の亡霊を打ち倒したとして、スラム街の連中は救われるのか? あそこに住む人々は今日を生きるのが精一杯だ。根本的な解決にならない以上、こちらがリスクを負うことはできない」


「それでも手を差し伸べなきゃ救えないだろ! 何故無意味だと決めつける? 奇跡を信じて必死に生きている人がいるのに、何もせず見殺しにするつもりか! 命を奪われたら奇跡は起きようがない、そこでおしまいなんだ!」


「平行線だな。私は陛下の騎士だ。陛下の命令がない限り、独断では動けない。わかってくれ、マリア」


「ああ、よくわかったよ。あんたを頼ろうとした俺が馬鹿だった。こうなったら俺一人でスラム街の亡霊を始末してやる」


「馬鹿な真似はよせ。何も君が無駄死にすることはない」


「無駄死にかどうかは、やってみなきゃわかんないだろ。俺、こう見えても腕力には結構自信があるんだぜ?」


 クロヴィスは諦めたように首を小さく左右に振った。


「強情な人だ。わかった、私なりの助けを君に貸そう。だが、直接的に君を守るわけではない。それでは君を特別扱いすることになり、スラム街の連中と平等ではなくなってしまう」


 わずかに剣身を鞘から抜き、すぐ元に戻す。


「君には剣術を教えよう。三日三晩ではスラム街の亡霊を倒すに及ばないだろうが、自分の身くらいは守れるようになるはずだ」


 まさかの提案だ。

 俺が剣術……到底身になるとも思えないけど、馬鹿の一つ覚えで拳で殴るよりはましかもしれない。

 相手は刃物を持っている。

 ともなれば、こちらも刃物で対抗するのが妥当だ。

 昨日のように拳でなんとかしてしまったら、スラム街の亡霊以上の怪物になってしまう。

 スラム街の亡霊を倒すのは、魔女でもバーサーカーでもなく、ただの人間の体で成し遂げなければならない。


「どうだ?」


「ああ、頼むよ。俺に剣術を教えてくれ」


 交渉成立。

 俺とクロヴィスは固い握手を交わした。

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