第四十三部
「やめたまえ。レディーに無理強いは感心しないな」
銀色の鎧、腰には精巧なデザインが施されたロングソード。
救世主は、金髪のイケメン騎士だった。
「ちっ、騎士様か。俺たちはこれからデートなんだ。邪魔しないでくれるか」
「合意の上か? 一部始終を見ていたが、とてもそうは思えんな。レディーに聞いてみれば話が早い」
「合意の上なわけないじゃん。こいつが無理矢理……」
涙ぐむ演技をしてみせると、イケメン騎士は安心させるようにそっと微笑んだ。
同じ金髪男でもここまで印象が違うなんて、神様は残酷だ。
「だそうだ。素直に過ちを認めここから立ち去るなら、今回は見逃してやろう。こんなことで連行されたくはないだろう?」
「……ちっ、わかったよ。じゃあね、お姉さん。また会えるのを楽しみにしてるよ」
投げキッス。
ナンパ男が名残惜しそうにちらちら振り返りながら人混みの中へと消えていく。
俺は深い溜め息を吐いた。
「はぁ、本当しつこいやつだな……えっと、騎士様? 助けてくれてありがとな」
「どういたしまして。困っているレディーは放っておけなくてね。私は王都騎士団団長のクロヴィス。君は?」
「マリア。今はスラム街の宿屋に泊まってる」
「君のようなか弱いレディーがスラム街に? あそこは危険だ。王都と呼ぶのも憚られるほど治安が悪いし、何よりスラム街の亡霊が出没する」
「騎士団は退治してくれないのか?」
「あそこは無法だ。騎士団が介入することはない」
「差別的なんだな。同じ人間なのに」
「仕方のないことだ。今の王都には貧しい者たちに手を差し伸べる余裕などない。陛下はこの世の中に平等があるとは思っていらっしゃらないし、私もそう思う。マリア、君は異国から来たみたいだが、君の国に平等はあるか?」
平等――確かに、元の世界にも平等なんてなかったと思う。
社会どころか学校の中でさえいじめられ、対等な立場も俺の居場所もなかった。
人間はいつも差別的だ。
生きとし生けるものは皆平等であって然るべきなのに、いつの間にか人間は支配することに味を占めてしまった。
権力の意味を履き違え、排他的な種族になってしまった。
「沈黙が答えか。いや、すまない。君を言い負かせる気はない。とにかく、君のような美人は苦労することも多いだろう。困ったことがあったらいつでも頼ってくれ」
「そうさせてもらうよ。城下に来るといつもこうだ。次は護衛でも頼もうかな」
「手が空いていれば構わない。では、私はそろそろ巡回に戻るとしよう。マリア、君も暗くなる前に帰った方がいい」
「はいはい、言われなくても帰りますよ。じゃあな、世話焼きの団長さん」
手を振りながら踵を返し、俺はがっくり肩を落とした。




