第四十二部
目が覚めると、隣にソルシエルはいなかった。
枕元に書き置きがあり、「出かけてくる」とだけ書いてあった。
お師匠様が一人で出かけるなんて珍しいな。
つい最近まで引きこもりだったのに。
いつもなら俺も連れていくはずなのに、今回は一人で行かなきゃいけない用事でもあるのか。
埒が明かないため、途中で憶測することをやめる。
本人が帰ってきてから直接聞いてみればいい。
しかし、そうなると暇だな。
女の子四人衆は学院に行ってるし、宿屋にいても一人ぼっちだ。
よし、特に目的はないけど、俺も城下に出かけてみるか。
思い立ったが吉日、早速俺は支度を済ませて城下へと足を運んだ。
カフェでコーヒーを一服。
本屋で立ち読み。
市場の屋台で似合いそうなアクセサリー探し。
イメージチェンジの参考までに服屋で試着。
……なんか女の子の趣味に染まってきちゃったなぁ。
最近、男であることを忘れてしまう瞬間が増えてきた。
いつか中身まで女になってしまうんだろうか。
とはいえ、俺は魔女。
外見や中身がどうであれ、魔女という名称に女がついている以上俺は女ということになる。
男でも女でも関係ない。
魔女でも人間でも関係ない。
自分が自分らしく生きられるなら、それでいい。
自問自答で吹っ切れ、そろそろ帰ろうかという頃合い――背後から肩をたたかれた。
「お姉さん、久しぶりじゃーん」
嫌な予感がして振り向くと、そこにいたのはやはりいつぞやのチャラ男だった。
「いやー、お姉さん、結構力強いんだね。まさか壁にめり込むとは思ってもみなかったよ。今日も一人? 彼氏とかいないの?」
「……よくまた話しかけられるな。その精神、呆れるを通り越してもうすごいよ」
「俺は諦めが悪い男なんでね。で、どうなの? 彼氏はいる?」
「いない。あのさ、はっきりさせておくけど、俺は女の子が好きだから」
カミングアウト風に言ってみたが、チャラ男は一瞬目を丸くしたくらいで怯んだ様子はなかった。
「じゃあ、俺の魅力で君を振り向かせてみせるさ。さあ、今日こそは俺とデートしよう。俺のこと、好きにしてみせるから」
「はぁー……」
また厄介なのに目をつけられてしまった。
路地裏に連れ込んでこの間みたいに壁にめり込ませるか?
いっそ記憶が飛ぶくらいの衝撃を与えてやれば大人しくなるかもしれない。
「ほら、行こうか。お姉さん」
名案を実行に移す隙もなく、チャラ男は俺の腕を掴んできた。
ここはまずい。
人気の多い通りでぶっ飛ばしでもしたら悪目立ちする。
俺の正体を邪推されないためにも、極力注目を集めることは避けたい。
「は、離せよ。また痛い目に遭いたくないだろ?」
「はははっ、壁にめり込むのはもう懲り懲りだね。でも、通りで暴れたら騒ぎになるぜ?」
「あんた、わかっててやってんのか……!」
力押しができない以上、魔法を使うしかない状況。
奴隷商人にかけたのと同じ催眠を使おうとした刹那だった。
俺とチャラ男の間に救世主が割って入った。




