第四十部
宿屋の少女たちが寝静まった頃。
俺は極彩色の薔薇に『永遠』の魔法をかけていた。
枯れない、手折られない、疑似的な永遠。
永遠を渇望する俺の願いを、魔法という形で薔薇に反映させる。
だが、俺にできたのは、薔薇が枯れゆく運命を遅らせることくらいだった。
魔女の宮殿で覚えようとした『永遠』とは似ても似つかない出来だ。
「そういえば、お師匠様は不老不死なんだよな? 『永遠』の魔法をかけたのか?」
「真の『永遠』ではないがな。理論は複雑ゆえ口頭で説明することは不可能だが、簡単に言えば輪廻転生を我が身一つで再現しているだけに過ぎない」
「どういうこと?」
「人間が死んだ後、肉体は朽ち果て魂だけが残る。魂は次の肉体を探し、宿ったその身体でまたゼロから人生を歩む。このサイクルが輪廻転生だ。『永遠』は不老不死を見せかけることはできるが、実際は何度も死んで輪廻転生を繰り返している。次の肉体を探すはずの魂が今の肉体に戻るだけだ」
「ごめん、よくわからん」
「理解する必要はない。理解したくてもできぬだろうからな。前にも話したことだが、不老不死の肉体を手に入れても魂の摩耗は防ぐことができぬ。いつかは自ら終わりを望み、生死のサイクルを止めてしまう。その薔薇とて同じ、『永遠』を使おうが薔薇が枯れゆく運命は変えられない。それゆえ『永遠』の魔法は紛い物なのだ」
「……とにかく、この世界に永遠は存在しない、と」
「まあ、そういうことだな。ヴァルザークが死を望んだように、永遠は地獄のごとき苦痛を生む。永遠は存在しないというよりは、存在してはならないのだ。貴様が紛い物の『永遠』しか使えぬのは、真にソルシエルの名を継いだ者のみがその権利を有するからだ」
俺に『永遠』が再現できないのはそういうことか。
悪用厳禁、永遠の愉悦に憧れて苦痛を与えるべからず。
薔薇にかけた『永遠』の魔法を解こうかと迷ったが、結局俺はそのままにしておくことにした。




