第三十一部
スラム街を奥へ奥へと進んでいくと、屋台や街灯がなくなった辺りから空気が変わった。
なんというか、どんよりと暗く沈み切っていて、太陽のない靄がかかったような場所だ。
世界が破滅した後はきっとこんな風なんだろう、と想起させるほどだ。
「宿屋の方とは段違いに人気がないな」
「うむ。王都とは思えぬ。マリア、用心せよ。先ほどから血の臭いがしておる」
「血の臭い? 俺は何も感じないけど」
「貴様は鼻が利かぬな。流れ出してからさほど時間が経っておらぬ血の臭いだ」
「食用の肉とかじゃなくて?」
「いや、これは――」
ソルシエルが不意に立ち止まる。
路地裏に視線を向け、暗がりに目を凝らす。
どす黒い血溜まり。
その傍らには、首を掻き切られた男の死体。
「誰がこんなことを……」
「スラム街の亡霊だ」
答えたのは、無気力な若い男の声。
路地裏の隅で膝を抱えて座り込んでいる。
「俺はごみ箱に隠れていたから運よく難を逃れたが……あの野郎、老人でも子供でも容赦なく殺しやがる。全てを失った俺たち浮浪者から残りカスさえも奪いやがる」
「なんのためにそんなことを?」
「知るか。だが、やつは狩りをしている。生きる価値のない人間を殺して掃除している――そんな印象だった。だって、あそこまで冷酷な殺しがあるかよ。あんなのは狩りだ。やつにとって俺たち浮浪者は人間じゃない、ただの動物だ。ああ、今夜もやつがやって来る。生き残っても、どうせ今夜殺されるんだ」
男の言葉にもはや感情はなかった。
絶望、達観。
まるで他人事のように語る様子はいたたまれなかった。
スラム街の亡霊――直感だけど、なんか臭う。
この男が言うように人間の価値を判別して裁いているんだとしたら、そいつは人間を冒涜している。
人間が人間を裁くなんてあっちゃいけない。
人間を裁くのは、資格を有する者でなくちゃいけない。
俺もまだ人間を裁く資格はない。
だから、早く魔女になりたい。
「貴様、面倒なことを考えておるな」
「当たり。スラム街の亡霊、調査してみようぜ」




