第二十八部
「さて、何から話したものか。そうだな、一般的に語られる伝説からにしよう。バーサーカーは強靭な不老不死の肉体を持ち、理性のない獣のような怪物だった。重厚な鎧を身に纏い、甲冑に覆われた顔は誰にも見せておらぬ」
「伝説になってるってことは、暴れて回ったのか?」
「ああ、一度は帝都を滅ぼしたくらいにはな」
「えっ、たった一人で?」
「そうだ。かつての帝都は今ほど軍事力がなかったとはいえ、一人で滅ぼせるほどやわではなかった。王都にも侵攻するはずだったが、我が師が秘密裏に阻止してことなきを得た」
「やっぱり魔法の方が偉大だったわけだ」
「当然。それで、この伝説を聞いてどう思う?」
「うーん、規模がでかすぎて天災クラスというか。稀代の悪者って感じだよな」
「では、ここからは我が師が語ったバーサーカーについてだ。真の名はヴァルザーク。その正体は、女しか生まれてこぬ王家の家系で唯一生まれた悲劇の男。いかにして強大な力を有したかは謎に包まれておるが、恐らく生まれ持って呪われておったのだろう」
「うわ、結構印象変わってくるな。でも、なんでお師匠様の先代がそんなことを?」
「それは、師がヴァルザークを殺したからだ。王都侵攻を阻止された後、ヴァルザークは魔女の屋敷に出向いてきた。そして、師に懇願した――殺してくれ、と。破壊衝動は日に日に増していくばかり、このままでは世界を滅亡させてしまう。己を捨てた人間たちは憎いが、こんな世界に一人ぼっちも耐えられない。ヴァルザークはそう言った」
「なんかかわいそうだな。運命の悪戯どころじゃない。人間として生まれてきたのに、人間を憎み滅ぼさなきゃいけないなんてさ」
「ふっ、そういう考え方をするなら、我らも似たような境遇かもしれぬぞ」
「あっ、確かに。運命か自分の意志かの違いしかないしな。で、続きは?」
「うむ。師はヴァルザークの不老不死の呪いを解き、安らかな死を与えた。死ぬというのにどこか満たされたようで、バーサーカーと恐れられた狂気は微塵もなかったという。遺体は歴代の魔女の墓に埋葬し、今もあの花畑の下で眠っておる」
「そういうことか。魔女と関わりがあったから、俺がバーサーカーの生まれ変わりってのも不思議じゃないんだな」
「そういうことだ。魔法が存在するように、説明のつけようがない奇跡もあり得る。さて、話し疲れた。我はもう寝るぞ」
首元と腰の辺りにしなやかな腕が絡められ、脇腹に豊満な胸が押しつけられる。
デジャブ。
「あのー、抱きつきながら寝るのやめてもらっていいですか……」
「よいではないか。百年もの間孤独に暮らしてきたのだ、人肌の温もりが恋しくてな。こうしているとよく眠れる」
「勘弁してくれよ……」
今夜もろくに眠れない――熟睡を諦めかけたが、ありがたいことに睡魔はすぐに襲ってきた。
温かくて柔らかくて心地いい。
あとは慣れだ。
この官能的な状況に慣れてしまえばいい……それができれば苦労しないだろうけど。
熱に浮かされるような感覚の中、俺はまどろみから深海のような夢へと滑落していった。




