第十七部
意識が覚醒する。
見渡す限り白の空間。
何もない。
壮観でもなければ不安にもならない、全く無の空間。
「寝坊だ、マリア」
「お師匠様。これは夢?」
「いや、ここが魔女の宮殿だ。ほら」
差し出されたのは銀色の鍵。
受け取った刹那、空間に景色がじわじわと広がっていく。
「ここは……」
大広間のようだった。
華美な装飾こそ少ないが、スケールが違う。
二階へと続く階段には赤いカーペットが敷かれており、三階、四階、五階とどこまでも伸びている。
両端には無数のドア。
アパートやマンションの部屋が膨大にいくつも連なっているような感じだ。
見上げると、異彩を放つ天井画。
歴代の魔女だろうか、一糸纏わぬ女たちの楽園が描かれている。
「この部屋一つ一つに魔法の知識が眠っている。魔法は自ら開花させるものもあれば、魔女の歴史から享受するものもある。我が創り出した魔法もあるが、ほとんどはここで知識を得て応用しておる。さて、魔法を使う上で最も重要なことを覚えておるか?」
「定義すること」
「うむ、その通りだ。己の秘められた才能を活かし、事象を定義して魔法とする。魔法とは願うこと。そして、それを実現させる奇跡を起こす力だ」
「奇跡を起こす力……」
「しかしながら、定義する理論を知らなければ願いはただの妄想で終わる。自然界の事象には全て原因や理由があるのと同様に、魔女が使う魔法にも理論が存在する。理論を組み立て定義とし、魔法となす。わかるか」
「ああ、大体は。お師匠様、説明嫌いなのにわかりやすいな」
「ふん、茶化すな。例を見せてやる。ついてこい」
ソルシエルの後に続き、とある部屋に入る。
部屋の中央には小さな卵が置かれていた。
卵にひびが入ったかと思うと、亀裂から雛鳥が生まれた。
雛鳥は成長し、やがて空を飛翔する鳥となった。
飛ぶうちに雨風に晒され羽は抜け、目が白く濁っていき地へと落ちた。
最後には皮と肉が腐敗し、骨となり土と化した。
「この部屋では、生命が生まれて死にゆくまでの過程が再現されておる。我は生命を創ることができるが、本来生死を操ることは禁忌。才能や理論でどうにかできるものでもない。しかし、慈愛や尊敬の念をもって魔法を構築すれば、無にも生命が宿る。創造神になれたという驕りは創り出した生命への冒涜、あくまで生まれ落ちた一つの生命として扱うのだ」
「つまり、優しい心を持たないと生命は創れないのか」
「我の理論だがな」
「じゃあ、お師匠様は優しい心の持ち主ってことの証明になるわけだ」
「……それは知らん」
照れて頬を染めるソルシエルに、思わずにやついてしまう。
やっぱりお師匠様にはまだ人間らしい可愛いところがある。
本当に人間を憎んでいるなら、人間らしさを捨てて非情の魔法を創り出していたはずだ。
きっと、魔法には使い手の本質が表れるんだ。
部屋を出て、隣の部屋に視線を移す。
とりあえず、いくつか部屋を見て回ってみよう。




