第十六部
シャワーを浴びてそろそろ床に就こうかという頃。
「マリアよ、魔女になったというのに大して魔法が使えぬのは不便であろう」
「なんだよ、藪から棒に。これから修行して使えるようになるんじゃないのか?」
「それでは手間がかかるだろう。少し早いが、貴様をあれに連れていこうと思ってな」
「あれ?」
「魔女の宮殿だ。歴代魔女の魔法や知識がそこに眠っておる」
「へぇ、そんなところが……でも、一体どこにあるんだ? 魔女の宮殿なんて、いかにも人間が嫌いそうなもんだけど」
「人間には立ち入れぬゆえ魔女の宮殿なのだ。まあ、じきにわかる」
魔女の宮殿、か。
仰々しそうな場所だけど、まともに魔法が使えるようになる近道かもしれない。
俺は早く真の魔女になりたい。
より神に近い領域に入り、人間に正しい裁きを下さなければ。
おこがましいことなのかもしれない。
だが、神が罪を裁かないというのなら、誰かがその役目を担わなければならない。
そして、裁定者には相応の資格がなければならない。
試しに林檎とナイフを魔法で出してみる。
具現化できるにはできるが、ナイフの切れ味は悪く、林檎はまるで味がしない。
全然駄目だ、その淵に辿り着くにはほど遠い。
もっと強くイメージしろ。
これじゃ魔法とは呼べない。
試行錯誤していると、ソルシエルの手が俺の頭を撫でた。
「そう焦るな。自力で芽生えるほど魔法は甘くない。今日は休め。明日になればベッドくらいは貴様にも用意できようぞ」
「あ、ああ、そうだといいんだけど」
「ふふっ、ベッドができるまで我の隣で眠ってもよいのだぞ?」
「え、遠慮しとくよ。いつまでもお師匠様に甘えるわけにはいかないしさ」
「そうか、殊勝だな。だが、我らは師弟同士、気兼ねすることはない」
「あ、ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ」
「では、我はもう寝る。おやすみ、マリア」
「お、おやすみなさい」
な、なんだよ、お師匠様ってば急に優しいじゃん。
名前ももらったことだし、仲間だと認めてくれたってことかな。
頭を撫でられたのは初めてだった。
冷たい氷さえも融解させるような温かい手を思い出すと、何故だか涙が出そうになった。




