表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/60

第十五部

 屋敷に戻るなり、ソルシエルは花畑の方へと歩みを速めた。


 花畑にはすっかり風化した石が、ぽつんと場違いに佇んでいる。


「歴代ソルシエルたちの墓だ。まあ、皆がここに眠っているわけではなかろうがな。辺境の地で死んだ者もいれば、魔女の名を次代に譲り隠居した者もいる」


「魔女も、死ぬんだな」


「ああ。不老不死の肉体を手に入れても、魂の摩耗を防ぐことはできぬ。所詮肉体など魂の器、魂が生からの解放を望めば死んだも同然だ」


 頭蓋骨を石の前に置く。

 両手を固く握りしめるソルシエルに倣い、俺も見知らぬ魔女に祈りを捧げる。


 やがて頭蓋骨は土の中へと吸い込まれていった。

 百年を経た遅すぎる埋葬となったが、あんな落ち着かない場所に安置されるよりはいいだろう。


「ナナシよ、人間とは何故かくも残酷なのだろうか。短い人生だからこそ情があると思っていたが、これでは悪魔と変わらぬではないか」


 ソルシエルは泣いていた。

 瞬きすることなく、ただ涙の雫を頬から顎にかけて流していた。


 俺は何か言葉を発そうとしたが、ぱくぱくと口が動くばかりで何もしゃべれなかった。


 命とは儚いから美しい。

 人間には心があり、自分のためだけではなく他人のためにも心を動かすことができる。


 だが、心には二面性がある。

 慈愛と無慈悲。

 同じ人間に対しては慈愛に満ち、魔女という強大な存在に対しては無慈悲にも排斥しようとする。


 俺は今、どちらの側にもいてどちらの側にもいない。

 人間と魔女の狭間にいる半端な存在だ。

 そんな俺がお師匠様に言葉をかけても気休めにすらならない。

 薄っぺらくて軽い慰めならかけない方がいい。


 でも――

 お師匠様はまだ人間に未練があったのかもしれない。

 世界の滅亡を目論みながらも、共存の希望を夢見ていたのかもしれない。

 それなら――


「お師匠様、俺にはまだわからない。人間がこの世界に蔓延っていい存在なのか、滅ぼすに値する存在なのか。考え直してもいいか」


「……何?」


「世界を滅亡させるのをさ。勘違いしないでくれ、何もお師匠様を裏切ろうってわけじゃない。そもそも俺は安請け合いしすぎたんだ。見極めもしないで加担したんじゃ後味が悪いだろ」


「なるほど、一理ある。だが、貴様は選ばねばならぬ。人間として人間を見極めるのか、魔女として人間を見極めるのか。最終的にどちらにつくのかは選べばよいが、立場もどっちつかずでは都合がよすぎる。そうは思わぬか?」


「ああ、確かにお師匠様の言う通りだ」


 答えはもう決まっている。


「魔女だ。俺は魔女として人間を見極める」


 魔女でいい。

 俺も元の世界で人間には辟易していた。

 やつらと同種なんて嫌なんだよ。


「後悔はないか? 魔女になれば最後、二度と安寧に落ち着けると思うな。どう足掻いても真っ当な死に方はできぬ」


「覚悟ならできてる。たった今から俺は魔女だ。もう自分を人間だと思うことはない」


「よかろう。貴様の覚悟、しかと受け取ったぞ。貴様はもうナナシではない。貴様には魔女の名をくれてやる。これからはマリアを名乗るがいい」


 もうカンザキでもナナシでもない。

 俺は魔女マリアだ。


「ありふれた名は気に入らぬか?」


「いや、気に入ったよ。ナナシよりは大分魔女らしくなった」


「ふふっ、その名は先代のものだった。貴様が同じ轍を踏まぬよう祈っておる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ