第十三部
「なんだ、あれは……」
「だから言ったじゃん……」
危うく市場で圧死するところだった。
今までモテなかった分、お師匠様の『反転』の副作用が効いてるのか。
モテるのも考えものだ。
あんなに一々声をかけられたら鬱陶しくてしょうがない。
市場を抜けて通りに出ると、人混みは大分ましになった。
「王都の様子はどう? 昔と変わってる?」
「ああ、まるっきり違う。まあ、当然だな。例の戦争で王都が壊滅してからここには来ていない。おまけに百年以上経っているとなればな」
通りの街並みを眺めるソルシエルの目はなんだか物悲しそうだった。
世界に居場所がなくなって百年もの時を過ごす気分はどんなだろう。
きっと、孤独なんて言葉じゃ生易しい。
生き地獄のような人生だったに違いない。
「少し疲れたな。休憩がてら何か飲むとしよう。そこのカフェでよかろう」
「お師匠様なら魔法で紅茶を出すと思ってた」
「風情がないだろう、なんでもかんでも魔法で出したら。魔法は便利だが、同時に退屈でもある。万能ほどつまらぬものはない」
「そういうもんかねぇ」
カフェに足を踏み入れ、カウンターに肘をつく。
俺はオリジナルブレンドコーヒー、ソルシエルはダージリンのセカンドフラッシュを注文した。
コーヒーカップから立ち上る湯気に息を吹きかけ、一口すする。
美味しい。
魔法で出したコーヒーとは一線を画している。
さっきお師匠様が言っていたこと、なんとなくわかったかも。
人が手で淹れるからコーヒーは美味しい。
それと同じように、手間や苦労も時には魔法以上のものを生み出す。
完璧である必要はない。
人間も、魔女も。
ダージリンを飲み終え、ソルシエルはカウンターに代金を置いた。
「マスター、博物館はどこにある?」
「博物館ですか。この通りを広場の方に向かって真っ直ぐ行けばありますよ。神殿のような目立つ建物なので、すぐにわかるはずです」
「恩に着る。行くぞ、ナナシよ」
「ああ。でも、いいのか? あそこには……」
「行かねばなるまい。魔女の頭蓋骨とやらが先代のものか、確かめに」




