間章:ブラックアウトフリーズ
「——?」
停電かッ、と思った。
周囲がいきなり暗闇に包まれたようになった。無音? いや。通電の途切れる衝撃音、その余韻が引いていくとざわめきが波のように空気を震わせ、振動をピリピリと感じた。人と人の声々が共振する波は、打ちつける度に強く何重もの連なる衝撃となって、パニックに陥りかけた集団全体を震撼させだす。
暗闇の中に、点々とした光があった。
夜を照らすには程遠い光源、何かと思って見上げると三階。見える範囲では遊生の部屋が一際煌々としていて——周囲の人々のスマートデバイスの画面が全部、それぞれの手元で光っていた。
「はッ——? え、停電じゃないの……??」
振り返ると、突然点いた車載モニターにも巨大なビルが映っていた。どこかの中継映像らしい。都心部、ビルの乱立する中心地の定点ではなくヘリコプターを使った空撮映像、遠目のカメラが対象物を懸命に追おうと動く画面が不自然に震えていた。画面の中心に据えられようとしているのはどうやら、物珍しい鏡面硝子にカーボンファイバーを張ったような外装の黒々しい超々高層ビルだが——その無数の窓が。
思った。
映像それ自体はニュース中継のようだ。今、全世界中で。オンラインになった液晶全てに、この中継が割り込んでいるのではないかと。
「——」
「——」
その時言葉を失ったのは、あのキューブ——どこかに置いていたはずの透明な方形が突如、僅かな反動を伴って、イオンの手の中に収まってきたからだった。
自分の目で見ているものと、その感触を信じられなかった。ありえない。ありえなさ過ぎる! ふざけるなと思った。もっと他に方法があるだろと卒倒しそうになる。何をしたいのだとしても。
何十階建てもある巨大なカーボン、黒色の高層ビル——端末側の音声は英語でどこの建物とテロップも出ていなかったが、そのビルにある窓と照明を使って、光る窓と消された部分とによって本来はプラチナに赤潭色で描かれるグラフィティ。
イオリアフレインの絞首死体がビル壁に最上階から地上までかけて光っていた。
【続く】