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コアーズ10041


 どこに行けばいいんだ……?

 最初から行き先が決まっていて、待っていれば絶対に到着するという安心感はエレベーターのドアが開くとあっという間に引いていった。

 開いたドアの先にあったのは密閉されたスノードームの現実版を思わせる、偶像が等身大のスケールになったラビリンスで、歩くと水中であるかのように体が重い。全身の感覚が何もかもが薄められていて、ひどく現実感がなかった。

 誰かに見られている気がする中、思考は自問を繰り返すだけになる。自答できるほど、己としての理性は残っていない——。



「へ。——本物だよな。いや、本物でいらっしゃいますよな? 幻覚見てんのか、俺……配信の方でお世話になっています。先頃はコラボもしていただいて……桐先恋花さん……ッ、何でうちに来てんだよ⁉︎」


 ——リゾートホテルのナイトスポットの中の最も究極に治安の悪い、性格の悪いかわいい陽キャ女子ばっかり集まるナイトプールから今出て来たみたいな感じで(実際、ここでの用事が終わったら泳ぐ気で、縞々の浮き輪まで膨らませながら)、そこに現れたイオンたちだったが。

 速攻でイオンだけ身を翻し、この所の晴天続きでこびりついたらしい鳥糞の汚損が目立つ建物の死角に逃げ込んだ。しゃがみ込んで視線を送ると、その住居は地下鉄を乗り継いできた大通りの雑居ビルだった。

 高層の建物はひび割れが目立ち、道路は下水が逆流、煌々しいクラブの看板照明が水溜りに乱反射している。


「! 今、何か——」

「暁・さ・ん〜♡ やだァ、緊張してるぅ〜? こーんなにかわいい子が尋ねてきたからドキドキしてるんでしょッ。ちょーっとだけ、お邪魔させて貰います。二〇分位で済むから」

「二〇分⁉︎」


 ボタニカル柄のワンピースの裾を臍までたくしあげてぱくっと咥え、に〜っと汗ばんだ腰つきを軽く揺らしてみせる恋花の隣で車がバックでのアプローチをミス。側溝に片輪を沈没させながら縁石へ乗り上げていった。

 同時に、ダイブ端末に着信——。



「——三〇分!」



 消滅したブラックラウンドのデータは領域の改変権である——〈コアーズ10041〉と一緒に今も、暁遊生が所有している。

 無数のダイブ端末を操る能力があり、常人離れした知能とゲームセンスを持つだけのVRアイドル。UWE以来七万人を殺しかけた犯人扱いされ、今では——〈VR劇場型犯罪者〉とも呼ばれ出したイオンは、どうやってそれを入手するか。

 手に入れるには記憶媒体ごとしかない。端末はネットワークから隔離されていて、外部からデータを入手する類のことは無理だ。が、うってつけのことに。

 仮想現実が現実になった現代のファントム——実を虚ろに、虚を実に。真実を非現実にする能力が今のイオンにはある。


 開幕する小劇場。家は本物のアイドルであり事情に一枚噛んでもいる恋花に頼んで、コラボして貰い、本人から教えてもらった。彼が割と人気の動画配信者であるため完璧だった。後は——。


 従来のホログラムに加え、護身用のスタントーチを搭載したブラックラースインクリーターの——〈ダイブ・ブースターモード〉。他人のダイブ端末を暴走させ、現実そっくりな仮想世界へダイブさせることができる……《《存在し存在しない》》ための機能で彼に鍵を開けさせた後、仮想へ行かせている間に目的を果たす。大して時間はかからない。はずだったのだが——?


『——有効範囲内に端末が検出されませんでした』

「……汗止まんないだけどッ——」


 早々に出端をくじかれたのだった。

 狙いの相手が端末を持っていなければ、信号をブーストしようがない。一時間あれば無印端末を最適化することもできるが今からでは不可能。立体映像なら展開できるが。

 明るい場所ならともかく、立体であっても実体ではない映像は、光芒と陰影によって夜間の闇とは相性が悪い。そもそも何を見せれば。


 駄目だ。

 後ろを向いた時、一気に行くしかない。最悪、スタントーチの電撃波がある。


「何階の、どこに遊生の部屋あるかわかる……?」

『二階の西側奥に目標を発見しました——』

「西ってどっち‼」


 ドローンのAIに尋ねた。



「んごォああ‼⁉」



「あ?」

「なんだろ——? 暁さぁん、あたしより、あっちが気になるなんて本当に一体何なんだろー!」



『——西は、今見てる向きから左です』



 最初は何が起こったのか、わからなかった。

 温かい手で頭を撫でられたみたいだった。

 だが異臭がした。

 野良烏だった。糞だらけだった建物によりかかって、息を整えたちょうどそのとき、イオンの頭に電線から糸を引きながら——鳥糞がこんもりと舞い降りてきた。

 上空を飛翔し、先ほどから建物を観察していたドローンのカメラを夜間モードにして撮影、手元の端末に転送し、どうなっているか確認する。それで気がついた。

 手元の端末が手元になく、水着で来たイオンのダイブ端末は全部——二人分のプールセットと一緒に恋花のトランクの中に入れてあった。


「——はあああああぁぁ〜んんんっ⁉‼︎ うんちじゃん! 何でうんちされてるの‼ うんちうんちうんちうんちううわわっ、本物⁉ 直撃食らうってあんた、一体烏になにしたのよッ⁉︎‼」


 涙目だった。ウェアラブル前提の有効範囲しかない端末の圏内を離れ過ぎると、上空のドローンを回収できなくなる。

 一か八か鳥糞がこんもりと頭に積もったまま、影から飛び出て二人一緒にワンアクションでベルトを外すと、怪訝そうに振り返りかけた遊生の視線を猛スピードで、かろうじて回避——。

 すぐにイオンは建物で壁蹴りして、雨樋の頑丈そうなところを掴んで体を二階へ持ち上げた。生肌の露出した足を何とか縁にかけると、があっーと気のなさそうに鳴く野良烏の群れがふてぶてしく陣取っている電線を蹴り、アクロバットで、開いていた窓から部屋に滑り込む。

 

「へっ、おいおい。どうしたよ、荷物ぶちまけて……平気か? 手伝うぜ、早く拾わないとッ——着替え二着も持ち歩いてんのなー? 女子としてのプロ意識凄えよッ」

「……」


 汚過ぎて誰も入りたがらない空きテナントに、一通りの家具を置いて無理やり居住空間としたが、その半分を人気配信者らしいモンスターPCが占拠したような部屋だった。

 ビニールの張られたゴミ箱を拾って頭を振ると、鳥糞の滴が零れ落ちる。窓からブラックラースインクリーターも室内に回収した二分後、昨日のことから『これは、本当に現実なんですよね?』と疑いきった顔で、一段ごと歩みを踏みしめるように階段を上ってきた恋花と再会、二時間ぶりくらいの気持ちで生会話した。


「濡れティッシュある……?」

「濡れティッシュでどうにかす——クロムハーツの眼鏡は捨てる⁉」

「サンバイザーなら、ボクのサイン付きで視聴者プレゼントだけどっ。クロムはうんちついても使うよッ!」



「おい」

「‼」



 扉が開くのに先んじてイオンはクローゼットへ飛び込んでいて、姿を見られずに間に合う。隙間から見ると、しかし、信じられないことが起こった。


「一応タオルな、落としたもの拭くとか。あれ下水なんだわ……うちの前の水溜り。しかもッ……他人事の世間話として言うけど、うちの立地的に、アレな店から出た下水の確率超高いよな」

「⁉ ——」



『——次です。アラン・プラデシューを名乗る謎の人物が、改正仮想ネットワーク法に反対して起こした抗議行動による通信インフラへの障害は軒並み解除されました。七週間近く続いたこの通信障害は——』



 がーあ〜、と嘲笑うような烏の鳴き声。部屋の各所に何台もEL液晶モニターがあったが、ドローンの電波が干渉したのか⁉ 全部が勝手に一斉に夜のニュースを映した——何もしてないのに。


「……今、何か触ったか?」

「ありがとーぅ♪ その気遣いでわかるのーッ、ねぇあたしのこと好き過ぎなぁ〜い? 今日の夕飯つくってあげよっかぁ? 刺激を受けたばッかなとこなの、こないだ友達が動画出して——ずっっと音沙汰なくて心配してたら、『あえて化学調味料だけでカレーつくってみた!』ってッ‼ 絶対にッ、一緒にいる間料理はあたしがするんだから」


 遊生の視線がモニターを順に移った。両手で口元を覆うようにしながら、恋花は一回転してツインテの房で彼を打った。

 一瞬彼女に向いた視線がまた、スッと動く。

 次の瞬間、イオンの身体が跳ね上がった。心臓が大きく鼓動し体感的にはその時一度死んだ。思わず罵声が口を衝きかけ、僅かな間だが意識が完全になくなる。何とか自力で覚醒すると、恋花の顔から血の気が引いてくのが見えた。


「おう、じゃタオル取らしてくれ」

「——」


 隠れているクローゼットを見た遊生と一瞬目が合った気がした。向こうからは、扉の隙間で金色の何かが光ったとしか見えなかっただろうが。



「——ダメダメダメダメダメッ、ないないないないない‼ ここ、なかったッ! 服ないから‼ 終わった……終わりよ⁉‼︎ 他所を探しなさいよ⁉」

「服とか全部そこに入ってんだよ⁉︎」

「うんち‼ ねえ、うんちってばッ⁉ 二分ちょうだい⁉ いや、飛び降りさすから二秒でいいわ、間違いを信じて! 全部入ってたとしたらコンディションが絶望だからッ‼」



 ドアの隙間から見えた——来る。

 桟に止まって嘲笑うかのような野良烏が一羽、二羽三羽に増え……酩酊した人々が大通りをすれ違う声と合唱、可視化すれば複雑な繭となるであろう喧噪のピークを織りなしていた。

 こっちに来る遊生の腰の辺りをつかんでもがき、恋花が懸命に止めようとしていた。別体式のバッテリーを用いるスタントーチの電撃波は、未知の怪物を確実に仕留められる威力にしてある。

 ——殺してしまう。



「————うおッ⁉」



 目前が亀裂し、足下で空気が渦を巻いた。

 顔に一直線の光が差す。

 最初はミリずつ刻むように。遅れて感じた時間が止まり、一瞬で一気にクローゼットが開く。

 瞬間、精巧な立体映像で形成された、巨大な鮫が——条件反射を誘発する科学的な速度と、質量を持ったかのような重量感のある動きで跳ね、遊生は仰け反って床に尻餅をついた。繁華街の騒ぎに負けない大声を上げる。

 彼の隣にビチビチとのたうち、躍動するヒレが床を叩いた。

 紛れて出ると、あっけに取られた空気の中を横切って窓から身を踊らせる。

 通りがかりのグループの頭上に着地しかけながら、今度はその一団をブーストして姿をくらませた。


「今のはッ——?」

「はい⁉ はいタオル! これがおすすめのラッキーカラー‼ 幻覚でも見たんじゃな〜い。知らなーい」


 最初の所に再び隠れようとしたが、人が消えたと普通に大騒ぎになったので隣の通りまで出て、スターバに入った。しばらくじっとしているとドローンが端末を検知し、ブーストがかかったので窓から室内に戻る。いや、玄関から戻ればよかった。


「セーフ……?」

「ラインの問題よねッ! 色々ごまかして端末を起動して貰ったけど。もう何もかも判断基準の向こう側なのよ!」

「……」




 出口のない霧中。

 歩いても、歩いてもドアが現れない廊下。

 どこにも通じていない中間。何もかも、身体の全感覚が靄がかっていた。

 今——かろうじて残った感覚にすがりついたまま、膝から地面に崩れ落ちる。頬が触れた地面の冷たさは身体を少しも冷やしてくれなかった。


「……うぁあ⁉‼︎ ああ……あぁぁぁ…………っ」


 無力に床を這い回るが、一つ可能性はあった。

 だから前に進む。方法と言う程の確かさはないが、もしかしたら。

 途方もなく低い可能性だが向こうも自分を、あるいはそうと知らずに探しているとしたら——伝えられるかもしれない。





『改正仮想ネットワーク法だね、あれの要諦は大きく分けて二つだ。一つは仮想現実を、現実と定義すること。VRの世界が法的な現実になることで、君は——実在することになる。未成年のパブリッシャーである君は特別委員会に監視され、活動に審査を受けることになった』

「説明をアプリにさせないでよ!」


 不審点はない。

 ブラックラウンド——〈コアーズ10041〉の変更履歴をチェックするが、最終更新はあの日あの瞬間になっている。


「法律はボクもよく知らなくて……☆」

『一方、仮想現実の拡大にブレーキをかけるため全てのダイブ端末は通信記録が追跡され、一定時間ごとにスリープするようアップデートされた。それに抗議した中で、最も強い方法を使ったのがアラン・プラデシューという個人だ』

「——そこへの抗議で何で通信障害になるわけ? あたしが言いたいのは、あたしたちのダイブ端末、普通に動いてたじゃないってことよ」

『規格違いさ。通信障害で使えなくなっていたのは、旧世代スマートフォンとかに使われている一世代前の通信規格だよ。つまりここ二ヶ月ほど——あらゆる通信を行うには、ダイブ端末用の規格を通さなければいけない状態だった』


 仮想現実の発展と、UWEで起きた——〈ゼノリアリティ・アウト〉を発端とする規制強化の流れに対して、世界規模の通信障害を引き起こした?


『天秤を動かすには名目という重りがいる。増えすぎた通信量がネットワークに負荷をかけている。将来的な破綻が懸念されたとして一連の規制が推進された。ただ地球上の全ての通信を引き受け、爆発的に負荷が増大したとしても、現行規格は耐えられた。名目を台無しにして、法施行を遅らせていた』

「何でそんなことッ」

『さあ? 定説では、仮想が現実になり過ぎたからだが』


 ——どういうことだと一瞬思うも、後に続いた答えからすると、その言い方は案外抽象的でもない。

 同時に考えていた。コアーズに履歴がないということはやはり現在、ブラックラウンドは消滅している。

 そして。


『現代では既に、仮想での資産がほとんど現実の資産だった。仮想現実が現実になったことでゲームアイテムやお金なんかも、価値は本物になっていた。けれど法改正で現実の重みがなくなると』

「価値が落ちる……」

『プラデシューは通信障害を解除する前に、仮想資産に関わる交渉を行おうとしたらしい。要求があったのは確かだと発表されている。けど交渉なんて行われていないと僕は思う。彼の目的はそこではないと思うよ』


 そして、あの世界は裏側のブラックラウンドなどではない。

 ブラックラウンド——〈コアーズ10041〉を白紙まで遡ってもマンハッタン島のフィールドは存在せずだ。


『ダイブ端末を一日に一〇時間しか使えなくなる。通信は追跡され、違反すれば証拠が残る。これで困るのは——僕たちマルチプレイヤーだ。僕は二台の端末でVRに常時接続していた。二四時間の内の一〇時間ならたいしたことないけど、四八時間だと』

「あっ」

『僕は凡人だ。けれど僕には、記憶喪失になった自分を治療するという執念があった——本当の僕が戻ってきてからは、弁護士になる夢を思い出した。一つの脳を二つの人格で使える僕は二つの世界へダイブして、倍の速度で学習できた。だから今の僕があるけど、改正仮想ネットワーク法でダイブ時間が制限されていたら諦めていただろう』


 あらゆる力はそれを持たない人間にとって、あるべきではないものだ。

 現代の仮想現実は全てAR——Augment Realityの派生。

 情報を現実に付与する。

 付与された情報は、ウェアラブル端末によって脳内に構築される——〈仮想の五感〉で体感できる。あたかも現実そこにあるかのように。

 拡張オーグメントされているのはプレイヤー側で、仮想現実と拡張現実の差は付与されている情報の密度だから、その処理能力には個人差がある。


「イオンさぁーん……? ほっとくとこの人ずっと喋ってるんだけどッ、知性のアピールがうざくてキレそう! この人、NPCよね⁉︎ どこかで本当に実在してるみたい」

「あ」

「……えッ?」


 だから——〈ゼノリアリティ・アウト〉の便乗で規制されようとして、強烈な手段で抗議された。

 永久にアプリを中断しようとしたらしい恋花が、よく見ないでVRコンソールをタッチしていた。別メニューが呼び出され、当人は何かもわからないまま、うっかりそれを選択していた。


「いや——うん、いいや。ついでに……」

「待って! あたし何かした……ッ⁉︎」



 けたたましい音がして、やがて表で乗用車のクラクションが鳴った。

 窓を黒塗りにした自動運転のバンが二台も駐車場に停車していた。一台は、何も植えてなかった雑草だらけの花壇に前輪で突っ込んでいる。



「——はッ?」



 一台目の中を見ると未来的な外観の、銀筒型のドローン・レプリケーター。二台目には部品が満載している。その光景が非現実的過ぎ、後退りした。

 クラクションの連打が止んだ所で、イオンが車に乗り込むと——静かだったアイドリングの音が回転数を上げた。軒先の烏が全部どこかへ飛んでいった。

 瞬間、バチッと電衝が奔った。

 鎖状の光が紫色にフラッシュ。

 軽い爆発のような音響が残る——。


「見て、新型! 電磁波の副作用でEMPみたくなっちゃうけど、今度のには烏全部追い払える武器もつけたよ……ー♪」

「だから、どこからどこまでが現実——⁉︎ 何そのポーズ! はぁーい、かわいい〜♡ かわいくなろうとしてんのー? すっご〜い。うまーい。生理的に無理!」


 ここに来たのは無駄だった。

 あの世界がブラックラウンドでないなら、別のコアーズに今もある。しかし、区画を突き止める方法がない。


「——諦めるの⁉︎」


 信じられないという顔で恋花が見てきた。


「帰ってゲームやって寝よ? ——」

「天才‼︎ すっご〜い。調べに来たけどー、何にもなかったから諦めて一生化物に襲われ続けるかー! って、普通の人間の発想じゃないわーッ。普通ならッ、こんなことになってないんでしょうけども!」


 だが。ブラックラウンドのデータを消去してしまったことが、そもそもの問題だと思っていた。

 あの世界がブラックラウンドでないとしても、ブラックラウンドには何かあるはずだった。コアーズを調べればわかるはずだったが、何もなかった。

 何があるはずだったんだ?


「考えなさいよ⁉︎‼︎ 何か他に手がかりはないわけ!」

「方法はあるよ——☆」


 消してしまったもの。

 それを見ていたら、何が変わったはずだったのか。


「——あの世界が実在してて、仮想世界なのは確かだから」



 ブラックラウンドこと——〈コアーズ10041〉だけでなく、仮想世界を順番に全て調べる。



「全部の仮想世界を隅から隅まで調べれば、どこかにあの世界があるし、行ったことのある人もいるはずだからね。もっと冒険したい——?」


 人格を分割して多重ログインすれば、間に合うかはわからないが(寿命と、一年間で敗北というルールがある。そういえば彼は知らないはずだ。そのことはイオン自身しか知らない)、それほど難しいことではない——だがその時、ブンッと音がした。

 五感が震え、縄で吊られ断ち切られるような音だった。

 金色の虹彩が光った。

 足を止めた慣性でアイスシャンパーニュ・イルミネーションの髪がぱっと煌めき、虹が闇に映る。


「え。——?」


【続く】


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