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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
少年少女が平和を謳歌するためだけの公国凱旋
95/170

14.巡る策謀

 

 ◎


 


 魔法師団や救世神殿から遣わされた治癒魔法使いが、傭兵斡旋所にて、僕を始めとした今作戦参加者の治癒を行っている。並んでいたテーブルや椅子を退かして毛布などを敷いて負傷者が寝かせられていた。


 僕に関しては肉体に怪我はないのだが、神殿から来た少女に強引に薙ぎ倒されて治癒の魔法を掛けられる。とはいえ、エネルギーを使い果たして疲れているのでゆっくり眠ることにした。


 重症患者は数人掛かりで治癒を受けている。


「…………」


 ここにフィニスさんはいなかった。


 掃討作戦――。


 殺人犯は死んで事件の一つは解決した。


 しかし、誘拐犯は依然として行方不明である。


 そこにはフィニスさんが向かった、という話なのにだ。だから、彼女も武器にされたと斡旋所では囁かれていた。


 誠に信じ難い話だ。フィニスさんがあの程度の相手に敗北する未来などあり得ない。油断していたとしても、それでも圧倒的なのがあの〈黄金血統〉だ。


 彼女という人間の性格を鑑みて僕の導き出した結論は――。


「何らかの事情――利害の一致、結託、同盟」


 国に身柄を引き渡した後では遅いのだろう。だから、その前に確かめなくてはならないことがあったのだ。


 これは僕の楽観的観測。事実はそうじゃないかもしれない。だが、確かめたくなった。


 起き上がって手近にいる女性職員に声を掛ける。赤髪でツインテールの同年代の少女だ。


「誘拐犯の目撃情報はどこで途切れましたか?」


「え、えとえと」と、少女は赤面して目を泳がせる。わたわたしながら返事する。「西方面ですっ」


「わかりました、ありがとうございます」


「あ、あの、良ければあなたの名前を教えてくれませんか?」


 斡旋所の職員なら知っていそうなものだが。咳払い一つして名乗り上げる。


「クロム・パルスエノン。これが僕の名前です」


「……クロム様」


 学園で名乗ってきた貴族のお嬢様と同種の、何か危ない予感がしたのでそそくさと斡旋所を後にして西方面に走り出した。


 路地には僕以外に行方を追おうと情報を探す魔法師団が数人いる。


 見てわかる手掛かりはないのだろう。


 魔法の使えない僕が彼らを手伝うことはできないが、五感――鼻の良さは健在だった。本場の狼ほどではないがそれなりに信頼できる。フィニスさんの匂いは覚えている。


 僕は変態ではない、と言い聞かせて痕跡を追った。


 


 ――そして、匂いが続いていたのは王城だった。


「どうしてこんなところに……」


 先端が鋭く尖った檻の向こうに痕跡がある。一体どんな理由があればここに行く着くと言うのだ。


 王城には幾度かお邪魔したことがあったがフィニスさんのように顔パスではない。門兵に言ってもなんやかんや断られる。


 ここで待つしかないのか?


 そう思った矢先、後ろから声を掛けられた。


「誰よあんた?」


 高圧的な物言い。典型的な貴族令嬢。


 彼女は水色の髪をしていた。一瞬、ローズかと思ったがそれほど大きくない上背を見て察した。


「サリア様ですか?」


「何よ」


「頼みがあります。王城に入れてください。フィニスさんが何かやらかしています」


「は!? またフィニスが!?」


 また、とか言った。王女様相手でもトラブルを茶飯事かあの人は。流石だ。


 サリア様の後ろを着いていくことで城内に入るこに成功した。匂いは続いている。


「何をやったのよ、フィニスは?」


 呆れながらも、楽し気に訊いてくる。


「何とも言えませんが、もしかしたら誘拐犯と一緒にいるかもしれません。何故か王城の中で」


「うわぁ、やりそう」


 辿り着いた先には木造の大きな扉があった。


 妙に生活感がある。


「あんた、嘘吐いてないでしょうね?」


 何故かサリア様に睨まれた。


「え、何で……」


「ここ、お姉様の部屋よ」


「そうなんですか」


「お姉様に会いたくてフィニスをだしに使ったんじゃないでしょうね」


「いや、そんなつもりは……!」


「ま、入ってみればそれが嘘かはわかるけど」


 サリアは扉をノックすることなく押し開く。


 なんてことだ。マナーというもの知らないのか。


「入ります、お姉様!」


「え、サリア!?」


 ローズの自室――そこにいたのは三人。ローズ、フィニスさんとそして〈テスラレクト武器商団〉のトップ、テスラレクトその人である。


 直後、ローズは慌てふためいたが覚悟が決まったのか一息吸って元の冷たい表情に戻った。


「説明して頂けますね、フィニスさん」


「ここまで来たらそれしかないよね。とはいえ、それは私ではなく彼から聞いた方が早そうだ」


 促されたのは椅子に腰掛けて微動だにしないテスラレクトさん。


 視線だけ上げると、彼は小さく息を吐いた。


「聞いて面白い話ではないぞ」


「それを聞きたくてここにいるんです」


「そうか」


「とりあえず、前提確認するとして――彼が誘拐犯その人だよ。そして、クロム君。ここにいるということは殺人犯はどうにかなったってことだよね?」


 はい、と答えた。


「傭兵斡旋所と魔法師団には適当に説明しておくとして、先の問題が解決したなら良かった」


 犯人が見つかっているのなら次の被害が出ることはない。


 未だてんやわんやしている斡旋所の方達には申し訳ないが一安心だ。では、何故彼をあそこに突き出さないのかが問題になる。


 テスラレクトさんが語り出す。


「別に誘拐がしたかった訳じゃないんだ。ただそれしか方法がないと思った」


 何を言っているかはわからないが素直に話を聞こう。


「半年くらい前だったか、俺の店にある男がやって来た。それなりの傭兵らしい。そいつは店にある物を物色し始めた。普通だな。普通の客かと思った。あいつは〈この店で一番の業物を見せてくれ〉と言った。こういう客はたまにいる、だから普通に見せた。それからあれやこれやと魔道具の質問された。だが、それだけだった。あいつはそれだけ帰っていった」


 普通の客である傭兵の男――。


 一見、おかしいところはないらしい。


「武器商団という職業、きな臭い話はよく聞いていた。何者かがこの国を滅ぼそうとしている、とな」


「滅ぼす!?」


 飛び上がるように言ったのはサリアだった。


「そんなことできる訳ないでしょう!?」


「俺もそう思った。この国の傭兵も、魔法師団も決して弱くはないし、何より数が多い。まともにやりあっても勝てないと思った。だが、噂を聞けば聞くほど妙なことに現実味を帯びてきた。見覚えのない魔道具が流通したりな」


 ――見覚えのない……まさかプシロが使っていた物か?


 思い当たる節はあった。


「それはどれも俺の作るものに匹敵する代物だった、いや、酷似していた。誰にも教えたつもりのない技術が伝わっていたんだ。再現不可能なものではない、だから、こういうこともあるかと思ったが。その時ちらついたのが――あの男だった。証拠もない、理論もない。だだ、そういう目的で質問してきたと思えば符号する部分もあっただけだ」


「それであなたはどうしたの? 何を目的に行動を始めたの?」


 フィニスさんの核心へ迫る質問。


 テスラレクトさんは少し迷っていた。


「国を滅ぼす計画は間もなく始まると思った。だが、俺が何を言っても国が動くことはない。だから、多少強引な手を使った。人間を武器にしてこの国から出すことを思いついたからだ」


「それに根拠はないのでしょう? それだけでここまでの騒ぎを起こしたのですか?」


 ローズの詰問染みた発言にも、彼は冷静に答える。


「そうだ。もしかしたら奴らが動いて俺を狙うかとも思ったからな。今日の作戦を聞いて、何となくだが理解した。その殺人犯は恐らく、その一味だ」


「――〈訂正機関〉と、彼は名乗っていました」


 プシロは高々と名乗った。


 隠す必要もないとばかりに。もしかしたら、その名を轟かして国を蹂躙するなんて悪趣味なことを考えていたのかもしれない。


「なるほど、〈訂正機関〉か。それならこの人の言ってる人は正しいよ。私は〈訂正機関〉が〈神覇王国〉を滅ぼそうとしたのを止めたから」


 因縁が繋がった。


 国を滅ぼそうとする意志が〈セレンメルク〉にまで伝播してきた。


 改めて、彼女の過去は壮絶だ。


「そんな大きな組織なんですか?」と言うローズ。


「いや、そんなことはないと思うよ。要人の暗殺を狙ったくらいだし」


「そんな人達がこの国に……その一環として殺人が行っていたんですか……?」


「だろうね。ダメージを与えられれば理由は何でも良いんでしょ」


 テスラレクトさんが肩を竦めた。


「より真実味と現実味が増した、って訳だ。殺人犯をどうにかしたことで奴らがどう動くのか……この程度で済むはずがない。俺はやっぱり住民の避難をさせるだろうな」


「それでもたかが知れているでしょ」


 フィニスさんの言には彼も頷く。


「だが、見捨てられないだろ。嘘ならそれで良いんだ。武器になった人達は元に戻して、俺が出頭すれば済む。本当の時が一番救いようがない」


「――阻止すれば良いんでしょ」


 フィニスさんが言った――訳ではない。


 サリア様だった。態度に自信満々さがあるのは彼女によく似ている。


「その〈訂正機関〉ってのを潰せば良いだけじゃない」


「魔法師団はこの戦いでかなり損傷を受けてますよ」


 僕は斡旋所で治療を受けている人達のことと、被害者数のことを話した。


 想定以上の被害。僕も死にかけた。


 戦闘時にプシロの言っていたことを信じるなら、あの魔道具を使った〈訂正機関〉の強さは尋常じゃないものになる。


「じゃあ、どうすれば良いのよっ!」


「それは……」


「でも、まぁ、やるしかないでしょ。多くは望めないけど何か行動するのは良いことでしょ。できることからやろうよ」


 フィニスさんがそう言うと何とかなりそうに思える。頼りになり過ぎだ。


「テスラレクトさん、あなたも協力してくれるよね」


「……俺のできることならな。あんたが凄腕であることはわかったが、それでも俺はあいつらはもっとも恐ろしい者だと思うがな」


「クロム君も良いかな?」


「はい、できるなら。正直、自信はないですが……」


「そうなの?」


「それについてはまた今度話しますね」


 話はまとまった。


 同時に新しい敵の姿も見えてしまった。


 知ってしまったからには戦わざる負えない。殺人犯以上の脅威と。今度ばかりは命だけじゃ足りないかもしれない。


 

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