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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
少年少女が平和を謳歌するためだけの公国凱旋
81/170

0.プロローグ〈ナンバーズ〉

 

 ◎


 


 ――不自然なほど均された草原。〈臨岸公国セレンメルク〉の最西にある山々を下った先の持て余したような広大な土地。


 そこにいるのは全長三メートルを超える鳥獣と幼い少女である。


 鳥から逃げようとする幼女。


 幼女を啄もうとする鳥獣という図。


 嘴は惜しいところで小さな身体をすり抜けた。驚いたことに幼女は巨大な鳥を手玉に取っているのだ。


 とはいえ、上手く誘導しているだけで現状を好転させるというほどではない。格闘すること一〇分を超えている、鳥獣の方も学習しているのだ。少しずつ焦りと疲労が蓄積している。


「少しでも力を使えれば……!」


 子供らしい声音で、子供らしからぬ声色が漏れた。


 その瞬間、ローブの一端が啄まれ、幼女の身体はいとも容易く浮き上がった。


 この鳥獣は動物を高所から落とすことで殺し、その肉を貪る。その性質は人間でも動物でも同じらしい。


「うわあああああ!」というか細い叫び声が響いた。一気に高度が引き上げられる。


 キェエエエエエ――と鳥は嘴を離した。


 人間などたった一〇メートルで死んでしまう。当たり所次第では一メートルでさえも致死する。


 まず助からないはずだった――。


 


 


 ――この世界には魔法と呼ばれる概念が存在する。


 世界に溢れているエネルギーを用いて想像した現象を起こす法則。


 その応用は数えきれないほどある。


 空を飛ぶ魔法《飛行》、エネルギーを円形に流す《物理循環》、雷を起こす《雷電》――……多くに知れ渡ったもの、唯一無二の魔法ものもある。


 この法則を扱えないものからすれば魔法は奇跡そのものに見えることだろう。


 時代は魔法を礎とした、力は魔法そのものとなった、国は魔法を求めた。


 混沌を鎮める力が必要だった――故に、〈英雄〉が生まれ落ちる。


 


 地面に激突してひき肉をなるのを阻止したのは俊敏性を異様に特化させたような法衣を纏う金髪金眼の少年だった。身体から赤いエネルギーを発し、特段輝いているのはその左手の甲。牙を剥き出しにした狼の紋章が描かれている。


 そして――飛空する鳥獣の首を掴んだのは少年と同じ金色の少女――白い軍服とスカートを纏っている。


 鳥獣にめり込んだ細腕で巨体を強引に振り下ろし、真っ逆さまに地面に墜落させた。


 轟音を鳴らして落ちた鳥獣の瞳は白い。その上に無傷で少女は立っていた。何事もなかったように右眼に着けたモノクルの位置を戻す。


 幼女は一瞬、何が起こったのか理解できなかった。


 助けられた――と気づいていても驚く間もなかったので反応に窮したのだ。


「えっと、大丈夫?」


 幼女を抱えた少年がおずおずと訊いた。かなりイケメンであるがどことなく頼りなさそうだ。


「何とか生きてるけど」


「それは良かった」


 そう言って地面に下ろすと少年の視線は鳥獣を倒した少女に向いた。心配をしている様子はなくただ彼女を見詰めて様子を確認しているだけだった。


 少年は「あんな鳥もいるんですね」と言う。


「いるんだよね」


「危ないんですね外は……」


「悪いことばかりじゃないけどね」


 と、少女は言うと幼女のことを見た。瞳でその危ないところにどうして一人でいるの、と訊いている。


 息を飲むほどの美少女に見詰められ見惚れるのも束の間。


「どうもありがとう、助かったわ」


 偉そうな幼女の感謝も、柔らかく受け止める二人はそのまま近くにある街に向かって歩き出した。代償は何もなかった。


 どちらも金髪と金眼をしているようだが、姉弟という訳でもないらしい。美男子と美少女だが顔の作りは全然違う。


 ――訳アリか。私と同じように。


 考えた幼女はしばらくその場に留まってから移動を再開する。方向は先程の少年少女の行く先と同じである。


「ん?」


 先を進む少年の腕に文字が刻まれていた。これは赤い塗料か?


「文字というより……数字? 七七七?」


 七七七――。


 そして、〈赤狼紋〉とも。


 同じように隣の少女を見ると両腕を覆う白色のロンググローブの上に赤い文字が走る。少年と同じく数字が浮かぶが桁が一つ小さかった。


「こっちは二二……」


 ――そして〈金色夜叉姫〉〈黄金血統〉……二つある。とにかく金色。


 最後に幼女は自らの腕を観察するも文字が浮き出ることはない。


 出る人と出ない人がいる。その差異は何か。文字はどんな意味を持つのか。


「一体何が起こってるの?」


 とある幼女は鳥獣に襲われるよりも不吉な予感を抱いた。


 

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