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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
少年が世界を知るためだけの弾丸旅団
76/170

18.人型災害とは

 

 ◎


 


 〈人型災害〉のルーツは二つある。


 時は、神話時代から数千年後、さらに〈エクス・クレルト〉生誕から数百年後のことである。


 黄金なる血液の染み込んだ大地を基に生きる生物を媒介として生きる民は紋章を得た。紋章を用い、決戦から生き残った〈神獣〉の討伐を生業とした生活を営んだ。


 そんな村にとある少年が生まれる。


 一見、他の子供と変わりないこれといって特徴のない子供だったが、少年が異常だと気づいたのは紋章を目覚めさせた時である。


 生誕から数百年、例を見ない印が彼に刻まれていた。黒い星の紋章。それは人間のスピリッツだった。


 類を見ないスピリッツに村民は大いに期待した。〈龍〉、〈幻獣〉といった特殊な紋章と同等なのかと関心が寄せられたのだ。


 しかし、結果は讃嘆たるものだった。彼は最弱の個体たる〈虫型神獣〉にすら呆気なく敗北した。悪い意味で大きく期待を裏切ることになった。


 人間を基にしている以上、非力であることは自明だがそんなことは関係なかった。


 誰もが人間のスピリッツの真の特性に気づかず、彼は無能の烙印を押されることとなる。


 そこから彼の冷遇される人生は始まった。


 今時珍しくもないいじめというものである。その規模が断絶された村の一帯というだけ。だがそれは、思春期真っ盛りの少年に対しては重いものだった。


 ――故に、彼は村を出た。自衛の手段を持たない彼の場合はそれだけで命懸け。それでも、〈エクス・クレルト〉で一生差別されながら生きるくらいなら死んだ方がマシだと思ったのだ。


 村を囲む生い茂った森林を息を殺して進んだ。


 そこで少年は出会う。


 もう一つの異常と――。


 


 神話の時代、神々は血統者とそれに与する人類の殲滅を目的に〈神獣〉を生み出した。モデルは世界に存在する人類以外の生物とし、強さと凶暴性に特化してそれを創り上げた。


 〈神獣〉はある時期までは加速度的に人類を滅ぼしていった。


 打ち止めになったのは〈対神魔法〉が開発されてからだ。天才魔法使いによって考案された新たな魔法律により、人類は神々の進撃を食い止めた。


 そこで神々は人類を基にした〈神獣〉を作り出した。人類に〈神獣〉を上回るポテンシャルがあるならば、人類を基にした〈神獣〉はさらにそれを上回ると考えたのだ。


 そして、生まれたのは白と黒のツートーンの人型。


 人間の持つ頭脳を完全に模倣した。思考と判断を有する理性体な獣。


 ――唯一の失敗は神々が人間を全く理解していなかったことだ。


 感情というものを僅かでも知っていれば〈人型神獣〉が戦線から逃亡するなんてこともなかったろう。勝算なき戦いに身を委ねることはない。彼らは逃げた。


 〈人型神獣〉は格別に弱かった。


 人間を超える戦闘力を持ち合わせてはいても魔法使いには敵わなかった。人間になり切れない〈人型神獣〉は魔法を使うことができなければ、言葉を理解できても出力する機関がない。


 ――故に、逃げ続けた。最終決戦が終わった後も、生きるという本能に従って、人に知られず大陸をさ迷った。


 そこで人獣は出会う。


 もう一つの異常と――。


 


 奇跡のような出会いだった。


 スピリッツの枠からはみ出したスピリッツ。


 〈神獣〉の枠からはみ出た〈神獣〉。


 引き寄せられるように出会った二人は直感した。互いの足りない何かと、相似した境遇を瞬間に悟ったのだ。


 彼ら自身しか知らないことがある――〈暗人紋〉と〈人型神獣〉の真なる能力。


 何の因果か、どちらも同じだった。曰く、性質の吸収と一体化。両者共に、人間の最もな長所である学習という行為を具現化した能力を秘めていた。


「――……」


「――……」


 掌をぴったりと合わせた。境界から白と黒の対照的な光が漏れ、互いの身体を曖昧な概念に変換していく。粘性のある光がへばりつき、人間とスピリッツと〈神獣〉が混ざった。その身はやがて一つになる。


 その日、人類を殺すことと〈神獣〉を殺すことの二つの目的を抱えた矛盾存在が誕生した。


 


 矛盾存在がまず、行ったのは〈エクス・クレルト〉の襲撃である。紋章を理由に冷遇された少年の憎悪は〈神獣〉の意志により増幅されたのだ。


 様々な紋章使いと戦った。生まれたばかりの彼は戦闘能力は低く、スピリッツ使いにより容易く捻じ伏せれた。


 しかし、本来の学習能力が相乗効果で異常な能力に昇華したため一瞬の内に克服する。悉くスピリッツを撃滅してしまった。その際に〈幻獣〉系の紋章の多くが失われた。


 殺戮の限りを尽くし、村の壊滅まであと僅かというところまで来た所で――。


 最期の相手である当代最強の紋章である〈白龍紋〉の力により、矛盾存在は村から放逐されることで襲撃は幕を閉じた。


 それでも憎悪は収まらず、滾り続けて人間とあらば節操なく撃滅した。憎悪は高度に発達して知性さえも塗りつぶす。


 数百年をかけて矛盾存在は名を得た――人類の殺戮を至上の目的とした獣より悍ましき化物は〈人型災害〉と呼ばれることとなる。


 


 そして、今、〈人型災害〉の終わりが近づいている……。


 


 現在、〈人型災害〉は村の周囲に生えている針葉樹の天辺に張り付き、そこから跳躍し、また別の木々に掴まることで森林を移動していた。先の戦闘――〈白龍紋〉の《白龍砲》を直撃したことによる消耗は大きく、一度のジャンプの距離も相当短くなっている。


 それでも、移動速度が遅いということはなく、猿ように器用に木々の隙間を超えていた。


 災害の赤い眼が捉えたのはクレーターの中にできた集落である。その村からはサイレンの音が鳴っているが〈人型災害〉は理解していない。


 木々が途切れたところで〈人型災害〉は着地し、入口から迫り来るスピリッツ達を捉えた。どれも敵ではない、と判断を下した。


 襲い掛かって来る戦士団を押し飛ばし、〈エクス・クレルト〉に侵入する。


 しかし、人類の淘汰を目的とした行動ではない。フィニスとの戦闘の末、変質した魂が別の目的を導き出した。


 〈人型災害〉は無造作に村の中心地へ向かうと、エネルギーの伴った咆哮をした。村の全土を揺るがす破壊の塊は放射状に広がる。


 その瞬間に、〈人型災害〉は駆け出した。〈エクス・クレルト〉の外に出るような動きである。その際に立ちはだかったスピリッツ達も弾き飛ばした。


 ――〈朧美月〉がマゼンタに輝いた。


 敷地からギリギリ飛び出た〈人型災害〉の背中に赤紫の光線が掠った。常にある美しき月からレーザーが降り注いだのだ。


 赤熱する地面に視界に捉えて、背後を見上げた。〈朧美月〉を起点として一定間隔で降り注いだマゼンタの光線は鳥籠のような半球の空間を作り出した。


 

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