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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
少年が世界を知るためだけの弾丸旅団
74/170

16.迫り来る神獣

 

 ◎


 


 朝日が出始めた頃には既に起床し、目覚ましがてら柔軟をしていた。


 決戦の日。その前に僕にはやることがあった。


 昨日のことが思い出される――昨日、石碑に行った後、僕とセラスはクラドとティラに会いに行ったのだ。目的はフィニスさんの計画を手伝ってくれ、というものだ。


 一日じゃ説得できないかな、と思ったがクラドは二つ返事で頷いた。


 〈面白いじゃねぇか、力になるぜ!〉と男前なことを言っていた。明日であることを言っても〈急だな〉と言うだけだった。大物というか呑気な奴だ。


 そして、問題はティラの方。


 嫌と言うならそれで良かった。しかし、反応は予想外のものだった。


 〈何でそんな危ないことにわざわざ近づこうとするのよ!〉


 僕らは怒られてしまった。


 ティラはすごい剣幕で怒鳴った。


 〈そんなのあの女に任せればいいじゃん! 全部あの人のせいじゃん! 私達は何もしなくても良いでしょ!? 皆、おかしいよ。あの人が来てから村がおかしくなっている。悪いことばっか続いてる!〉


 唐突に発露した感情に気圧され、僕は何も言えずに帰った。


 もう一度、頼んでも手伝ってはくれないだろう。だけど、このまま放っておく訳にはいかなかった。


 戦いの前に一度話す。故に、わざわざ早起きしてティラを待っているのだ。


 そろそろ起きてくる時間のはずだが、まだだろうか――。


 


 


 ◎


 


 早朝、訓練場の中央で大の字で転がって昇り行く朝日を一身に受けるのはフィニスという少女である。日の出前に目覚め、驚くほどに高揚した感情を落ち着かせるために自然に囲まれようと考えて、こうしてリラックスしていた。


 フィニスは血統に刻まれた闘争本能を明確に感じていた。


 野蛮だと思いながらも、それが当然だという思いも抱え、二律背反に揺れる。


「戦の〈神剣〉と共鳴してる、か……」


 呟きながら白金の剣を思い浮かべた。


 戦の権能だけあって戦闘能力特化に作られている。〈人型災害〉を相手取るに不足はない。勝利ムードだからこそ闘争心が荒れ狂う。


 ――落ち着け。落ち着け……。


 心内で言葉を紡ぎ、右眼に浮かぶ花弁を鎮める。遠くに浮かぶ雲の形が花型になっているのは魔眼の権能がそこまで到達していることを意味していた。


 ようやく落ち着いてきた頃、足音が一つ近づいてきた。何回か聞いた覚えのある足音だが、心なしかいつもより軽い。


 上体を起こすと、眉を強く結んだ少女――ティラが立っていた。


「ティラちゃんか、何?」


「この村から出てって」


 敵意を剥き出しにして睨みつけられるフィニスは飄々を視線を受け止める。


「後少しで出るよ」


「今すぐ」


「無理矢理出そうとしているように見えるけど?」


 ティラの左腕の〈黄虎紋〉は起動している。黄色のオーラが噴き出していた。


「本気? 私に勝つつもり?」


 フィニスとティラは幾度か立ち合いを行ったが、全てにおいてフィニスが勝利している。その際一度も本気は出していない。彼女らの間には圧倒的格差が存在している。


 それがわからないほど鈍いとは思えない。


「勝たないけど――追い出すことはできる」


 ティラは芝生を蹴って真っ直ぐに駆け出した。


 フィニスは不自然なエネルギーを用いて立ち上がり、相対する。


 鋭いエネルギーを纏う黄色の右腕が心臓目掛けて繰り出された――フィニスはその腕を瞬間的に掴み上げた。フィニスに左腕には《物理循環》という魔法が重なっている。


「短絡的なことをするね……」


「くっ」


「自殺を、私に着せようなんて」


 ティラが潰そうとした心臓は自らのもの。驚異的な動体視力で悟ったフィニスが阻止したという状況。


 フィニスがティラを殺したなんてことが村に広まればここにいられることはできなくなる。しかし、それではバランスは取れない。それなら帰れば良いだけだから。


「そんなことしなくても私は出ていくって言ってるけど」


「何でよ……何でよっ……!」


 抵抗しようとも《物理循環》によりエネルギーが吸収され身動きが取れなくなっている。


 〈あんたがいなければ〉というようなことを言葉をぶつけていると、遂にティラは涙を零した。


「あんたなんかいなければっ……!」


「理由を言ってくれなきゃわからないよ」


 フィニスは冷たく言い放つ。心配する気持ちはあるが、流石に理不尽過ぎて思いやる気持ちまではない。


 ――方法は違うとはいえ、セラスも同じことを言ってきたな。


 理由は同じだろうか。クロムが変わってしまったから? そういえばだが、セラスは明らかにクロムに惚れているような。愛されているな、と呑気に考えるフィニス。


「ふむ、なるほど」とサイコな思考で辿り着いた答えに頷いた。


 フィニスという少女は気を遣うというアクションができなかった。


「私を追い出しても、クロム君がここに残るとは思えないけど?」


「!」


「セラスにも言ったけど、現実を見て。向き合うのが怖いからといって敵に向かっても意味はないよ」


 ふっ、とティラの身体から力が抜けたのでエネルギーを押し込んで足でしっかり立たせた。


「ちゃんと話してから、私のところに来なさい。殴りたいならご自由に反撃させてもらうので、自殺するなら地面に埋めてあげるから」


 フィニスはティラを抱き締めて、右手で背中を叩いた。すぐに離れ、フィニスは訓練場を後にした。


 ティラはその場に座り込んで子供のような泣きじゃくった。人目も気にせず、心のままに涙を流し続けた。




 ◎


 


 朝と昼の中間の時間帯、僕ら――僕、セラス、クラド、フィニスさんの四人は集まった。


 クラドへの説明を含め、昨日、急遽作った計画について改めて確認する。


 フィニスさんの仕事は〈人型災害〉の討伐に限る。代打の効かない唯一解。


 僕らは露払いがメイン。途中現れる〈神獣〉を倒し、村を脅かす脅威を排除することを目的としている。


「〈神獣〉を倒すなら人は沢山いた方が良いと思いますが。村で守る方が安全という意味では確実かと」


 話を聞いて、セラスは提案した。


 確かに三人で防衛するとなると対処し切れない場合も考えられる。〈白龍紋〉の儀式で強化された戦士団の力があれば付け入る隙なく守り通すことも可能だろう。


「予感なんだけどね」対してフィニスさんは曖昧な返事。「何かあった時のために村の外にいて欲しいの」


「というと?」


「わかんない」


「……ちょっと殴るわよ」


「いや……私はわかんないけど、コル爺さんはわかっていたと思うの」


 ここに来て彼の名前が出た。コルダイテスという老人。〈白龍紋〉の先代所持者。


「〈白龍紋〉がなくても何とかなる算段はついてたんじゃないかなって。でも、倒せば問題ないから殴んないで」


「……まぁ、いいでしょう」


「じゃ、じゃあ、行こうか」


 引き気味で言ったフィニスさんは村の出口に向けて歩き出す。


 後ろを追いながら僕らは思い思いの思考に耽った。


「ティラ、来ませんね……」


 セラスが呟いた。


「うん……」


 結局、朝待っていてが彼女に会うことができなかった。もしかしたら、このまま会えないまま……なんて考えてしまう。村を出るまでに一度は話をしておきたいけど。


 村を出て、周囲に行きわたる森林地帯に足を踏み入れた。


 前回は森林の中での戦闘だということでフィニスさんは森林を破壊する衝撃波を全部吸収しながら戦っていた。今度は完全に戦闘だけに意識を傾けるために辺りに何もない場所を選ぶようだ。


 森を超えると草原が見えてくる。ここはエリオプスさんと戦った場所でもある。


 地形状況を改めて調べる。ところどころクレーターがあるがスピリッツの身体能力ならば問題ない。天気状況もすこぶる良い、雲一つない晴天。


「強いて言えば暑過ぎるのが問題か」


「それは私達の問題でしょうけどね」


 その間、フィニスさんは武器を調整していた。〈戦騎神剣〉ともう一つ銀色の剣を足元に刺して何やら感触を確かめている様子。


 フィニスさんと言えど直前にもなれば、それなりに緊張するのだろうか。


 剣呑な雰囲気が伝わって来る。


「準備できた。そろそろいいかな? 大量に〈神獣〉が湧き出すからね」


「はい!」


 僕らは問う等間隔で横一列になって待つ。街を守ること優先ということだがフィニスさんの下に集中するということで距離は割かし近い。


 白金の〈神剣〉を手にしたフィニスさんは首元に刃を押し当てた。金色の血が流れる。血液は首筋から鎖骨に伝っていく。


 しばらくその光景を瞳に移しながら待機する。


「……………………」


「……………………」


「……………………」


「来ないな」五分ほどして、クラドが呟いたと同時に地面が揺れた。思わずバランスが狂わされるくらいだ、震源はかなり近い。


「いや……――近いどころじゃない!」


 右足の直下に亀裂が入った。隙間はせり上がって来る何かに押されて広がっていた。


 奇妙な声と、亀裂の向こうから透過性の高い黒色が見えた。それが〈神獣〉特有のボディーカラーであることは瞬間的に理解した。


 ――真下に潜っている!


「セラス、クラド! しばらく耐えててくれ――」


「クロム君!?」


 二人に言い残した途端、〈狼型神獣〉が地面の下から顔を出して僕の身体を遥かの空に弾き飛ばした。一気に高度が上がる。瞬く間に雲を突き抜け、清々しい青空が広がった。


「〈赤狼紋〉!」


 左手からエネルギーが吹き出し、空気の壁を抉りながら、全身が赤色の狼人に作り替えられる。


 力を込めて、身を小さくする。横合いから狙いすまして飛んで来た赤い何かが迫って来る。全長二〇メートルある〈鷲型神獣〉と激突した。


 横に長い羽根に三本爪を突き立て、その背に乗り上げる。振り払おうと錐揉み回転する獣にくっ付いた。


「いきなりまずい……!」


 背後を見遣ると今までどこに隠れていたのか、数十の〈鷲型神獣〉がこちらに向かって飛行していた。


 この巨体を一人で滅ぼすだけでも一苦労だというのにこの数は……。


 しかし、これらの目的はあくまでもフィニスさんだ。僕に対して警戒が向いていないことを加味すればいつもより楽に仕留められるはずだ。


 すれ違い様に〈神獣〉を切り刻もうと爪を伸ばす――だが、その刃は粉砕された。破片は後方の置いてかれる。


「一体これは……!?」


 僕が斬り付けたのは〈神獣〉ではなかった。


 三対の羽根を背につけた顔のない白い女性――例えるなら、天使とでも言うべき存在が僕の乗る〈神獣〉と並走ならぬ並飛していた。それが〈神獣〉以上の脅威であることは直感できた。


 天使の色白な掌に青い光弾が練られる。純粋なエネルギーの塊が放出された。


 鷲の背中を駆け抜け、また別の鷲に飛び移る。瞬間、爆音が耳朶を叩いた。爆風に煽られながらも何とか別の個体に着地できた。


 振り返ると、天使は既に次の光弾を準備していた。間髪入れずに撃ち出される。


「こいつ、強いッ!」


 爆発の光が襲い掛かる。


 

 

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