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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
少年が世界を知るためだけの弾丸旅団
69/170

11.幼馴染


 ◎


 


 村は平和を取り戻した――ように見える。


 〈人型災害〉と〈白龍紋〉の失踪事件を発端とした混乱はフィニスさんの帰還と共に解決された。彼女が単騎で災害を退けた一件。フィニスさんの功績は尋常ではないものだったが、唐突な展開であるだけに村長を始めとした上層部は重く受け止めていた。未だ彼女への対応は定まらず監視付きでの生活を余儀なくされていた。


 


 ――何とも言い難い緊張冷めやらぬつかぬ間の平和。


 


 荒れた芝生の広がる訓練場にてフィニスさんは相も変わらず――という訳ではなく落ち着いた様子で身体を動かしていた。


 数日の間全く身体を動かせなかったことを考えれば十分に動けている。


 僕は少し離れたところからそんな光景を見詰める。


 隣にはティラが、視界の端では空色の亀人と紫の鷲人が戦闘を繰り広げていた。


 先程まではそこで僕と黄色の虎人が戦闘していた。現在は休憩中。


 ティラも同じものを見ているようだった。


「今、フィニスって何してるの? さっきからずっとストレッチしてるけど」


「精神を集中させてる」


「クロムの言ってたあれ?」


 ティラはあの眉唾を? なんて――言ってないだけのあからさまな疑いの声を出した。


 今のところコル爺さんか僕しかできている者がいないのでそれも反応としては普通だ。


「そんなので〈白龍紋〉が使えるようになるの?」


「わからない」


「は?」


「今まで誰にも使いこなせなかったんだから」


 フィニスさんは〈人型災害〉と戦った時に〈白龍紋〉を使わなかったという。曰く、使い方を知らなかったから。付け焼刃ならば使わない方がマシという判断は正しい。だが、それで足りなかった。


 僕があの時、フィニスさんを助けられたのは――スピリッツの攻撃が〈人型災害〉に特攻があったからと考えているらしい。


 確証はない。だが、可能性があるなら、と彼女は〈白龍紋〉の習得に乗り出した。


 手探り状態だ。流石のフィニスさんもこればかりは苦労しているようで僕にまで良い方法はないか、と訊いたくらいだ。


 それを実践しているところ。これでできなかったら少し申し訳ない。


「フィニスが〈人型災害〉を倒したって本当なの?」


「倒したっていうか圧倒はしてたよね。あのまま戦ってたら負けてたと思うけど……」


 ティラは――少し、俯いていた。フィニスさんが来てからこんなことが増えてきた。良くも悪くも彼女の影響は大きいということだ。


 僕が強くなる切っ掛けを与えてくれた。


 ティラには何を与えてしまうのだろう。


「強ければ良いってものじゃないと思うよ」


「じゃあ、何でクロムは強くなったの?」


「……弱かったから」


「そっか。今日のクロムは昔みたいだった。すごかったよ」


「うん……」


 僕は何を言って良いのかわからず曖昧に頷いた。


 しばらく静寂が続いたところでクラドとセラスの立ち合いが終わる。スピリッツを解除した二人の顔には汗が滲んでいた。僕は二人にタオルを渡した。


「お、あんがとな」


「ありがとうございます」


 セラスはタオルを首に掛けると僕の隣に、そのセラスの隣にクラドが座った。


 こうして四人で並ぶのも何だか懐かしかった。一時期から僕は訓練場にはあまり来なかったから。記憶は幼年期まで遡るかもしれない。


 そして、この先こうやって並ぶことはないのかもしれない、と予感する。


「これからどうなるんだろうね」何を感じたのかティラが溢した。「あの人が来てから村が滅茶苦茶になってさ……私達今のままで良いのかな?」


「難しいこと言ってんなー」


 クラド呟いてはその場で寝ころんだ。詰まらなそうだからって眠るつもりだろう。


「変わらなくてはならないんでしょうね。フィニスさんから外のことを幾らか聞きましたが、どうやら私達は世間から疎まれているようですし」


 ティラにはセラスが答えた。いつの間にか仲良くなっているようだった。


「ここにいる理由がなくなるかもしれませんからね」


「〈人型災害〉の討伐…………でも負けたって言ってたよ」


「あれを見る限りまだまだ諦めるつもりはなさそうですけどね」


 フィニスさんの右手の甲が白く輝いている。


 スピリッツの無効化までしか使えていないらしい。可能性はあるが〈人型災害〉に通用するかは微妙なところだ。


「皆は外に出たくないの?」


 僕は何とはなしに質問すると、両隣から強い視線が注がれた。


 気楽な質問のつもりがやや空気が重くなる。


「な、何?」


「いえ、別に。クロム君は外に出たそうだな、と」


「今のところ考えてないけど……」


「いえ、出ますよ。あなたは」


 そう言われればそんな気もしてくる。出るな、と言われればそれだけ強く。


 コル爺さんの外界の話は愉快だった。機会さえあればきっと出て行ってしまう。それは目前に迫ってきているかもしれないのだ。


 より一層空気が沈んだ。ティラは何も言わず、じっと僕を見詰めている。やはり僕は無言のまま微動だにしなかった。


 風が木々を散らす音だけが届く、そんな折――。


「――皆さん、今お暇ですか?」


 いつの間にかフィニスさんが目の前に立っていて、僕らに語り掛けた。


 立ち合いの休憩中を忙しいとは言えまい。


「それなりには」と答えると。


「皆に手伝って欲しいことがあるんだけど、良いかな?」


 子供っぽいあどけなさのある笑みを浮かべながらフィニスさんが言った。


 

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