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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
少年が世界を知るためだけの弾丸旅団
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8.災禍との再会

 

 ◎


 


 ――作戦延期から一〇分ほど前。


「あの、すみません。尋ねたいことがあるんですけど」


「あんたは〈白龍紋〉の……村長の屋敷に行くはずだったな」


「はい、行きますよ。その前に〈人型災害〉ってどこら辺で見つかりました?」


 フィニスは右眼のモノクルを外しながら尋ねた。桃色の花弁が浮かんだ瞳が戦士団のとある男を捉える。


 ――制御不能なほど活性化した〈魅了の魔眼〉。


 限りなく僅かだが血縁のある〈エクス・クレルト〉の民には効果は薄いが、全力でエネルギーを注ぎ込めば一時的に意識を掌握することもできる。


「――……」


 団員は目の光を失い、命令通りに口を開いた。


「そう、ありがとね。仕事に戻って良いよ」


 指を弾くと魅了は解除された。男は周りを見回して不思議そうに首を傾げるが、そのままどこかへ行った。


 慌ただしく行き来する人波をすり抜けて〈エクス・クレルト〉の境界へと歩く。


 人込みがなくなったところで足を止め、空を見上げた。天頂を過ぎた太陽に目を細める。


「《物理循環ブラスト・サークル》」


 少女の全身に渦巻いたのは外部から吸収したエネルギーだ。操作してエネルギーを足元に集中させていく。


 次の瞬間、フィニスの身体は消えてしまった。


 否、人間ロケットとなり直立不動で空を突っ切っていた。不自然なほど無抵抗に斜め上方に上ったと思うと、次にはグラフのように折れ曲がって地面に向かって突き進んだ。


 重力も空気抵抗も完全に吸収してふわっ、と着地した。


 ほんの数秒で一〇キロくらいは移動したか。


「《亜空掌握ゼアス・ハンド》」


 フィニスは召喚した亜空間に右手を突っ込むと鍍金の剣を取り出した。


「来たか」と呟くと、すぐの地面から黒い壁がせり上がる。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――!」


 鼓膜を破らんばかりの咆哮を上げて身を露わにしたのは、どす黒い靄を纏う人型だった。黒雲の中で二つの赤い瞳が殺意を撒き散らす。


 紛うことなき災害――〈人型災害〉。


 高濃度の血液が一瞬で災害を引き寄せたのだ。


「久し振り……何か言ったらどう? ――くッ!」


「グアアアアアアアアア!」


 飛び掛かって来る獣の爪を剣でガードする。但し、《物理循環》を併用して〈人型災害〉の驚異的な腕力を吸収してやっと拮抗する。それでもなお圧され、足首まで地面に埋まってしまう。


「もったいぶってる余裕はないか!? 《物理衝突ブラスト・レックス》!」


 フィニスが黄色のオーラが纏われた。吸収したエネルギーを身体強化に横流しすることで〈人型災害〉と互角に渡り合う。


 目に見えぬほどの剣戟だが、エネルギーが吸収されているため誠に不思議な無音の戦いとなった。火花も散らなければ、余波もない。エネルギーはフィニスと〈人型災害〉の中で完全に収束している。


 一見最強に見える魔法だが、限界値は存在する。


 そして、〈人型災害〉が人より強い程度の人間に均衡状態を強いられるはずもない。


 突如として強まった獣の腕力がフィニスを殴り飛ばした。


 投げ出さながらも体勢を維持し、距離を取る。


「《武装変形》!」


 ――〈騎士天剣〉〈解放形態〉。


 剣身に刻まれるスリットから青い光が漏れる。パーツが展開し、持ち手と剣身の長さが拡張される。片刃からはブースターが露出し、青炎が唸り上げた。


 炎が噴射した。スピードに乗って加速の斬撃を繰り出す。


「《斬》!」


 長大な斬撃が〈人型災害〉へ飛来するが、暗黒の牙によって食い破られた。獣はそのままフィニスに激突せんと飛び込んで来る。


 直前で飛び上がり回避すると同時に、剣の魔法を起動する。ブースターから噴き出すエネルギーは全て斬撃の鋭さに寄せた。


「《物理推進剣斬》!」


 上下反転しながら〈人型災害〉の背中を斬り付けた。息を止め、続けてパックリ割れた背面に刺突を繰り出す。


 ――これでもまだ足りない!


 極めつけにオーラを纏う右手を突き込んで体内で爆発までさせた。


 下半身は微動だにせずに立ち尽くし、上半身は襤褸雑巾のように打ち捨てられている。黒い靄は煙のように空へ立ち昇った。


「ここまでは前回もやった」


 フィニスは亜空間にエネルギーを使い果たした大剣をしまい、死に体の〈人型災害〉を見遣った。残骸は蠢き、再生を開始している。


 《物理循環ブラスト・サークル》の手で黒い塊に触れてエネルギーを吸収するも、膨大な量のエネルギーを吸い尽くすことはできない。


「はっ、もう復活するの?」


 真っ二つになっていたのにも関わらず一分足らず元の人型に戻っていた。


 艶のある唇から、あはは、という空笑いが漏れた。


「疲れも全くないように見えるんだけど……」


「――グガァアアアアア……」


 静かな咆哮を上げて、獣は振り向く。


 先程まで身体を覆っていた靄は、円に形状を変えて四肢に装備された。


 理性を知らぬ獣らしさは失われ、立ち姿には人らしさが漲っている。


「人と〈神獣〉の合体生物……――」


 呟いた瞬間に、フィニスは殴られていた。爪の攻撃ではなく、拳だった。


 衝撃は頬の《物理循環ブラスト・サークル》を貫通して脳を揺らす。


「――……がッ! 一瞬意識がッ……!」


 次の拳は腕を差し込んで反らした。


 すぐに〈人型災害〉の足が動く。


「あ?」


 唐突に足に痛みが走った。


 身体が傾いていた。拳をガードした瞬間にはもう〈人型災害〉により足を蹴られていたのだ。


 体勢を立て直す暇はなく、膝蹴りが顔面に突き刺さり、勢いを反らすこともできず大木に叩きつけられる。


「う、あぁ……ッ」


 フィニスに目立った怪我はない。強いて言えば顔が少し腫れているくらいだ。


「面の攻撃から点の攻撃になってる……こんなの人間の戦い方じゃん……!」


 そういうこともあり得るか、と早々に結論づけて立ち上がった。


 どんな理由があっても目の前にある現実をどうにかしなければならないことは変わらない。


 〈人型災害〉は堂々とした足取りでやって来た。鬼神の如き佇まいに空気が震撼する。


 フィニスは途切れた強化魔法《物理衝突ブラスト・レックス》を再発動し、深く息を吸った。


「来い……――撃滅してやる」


 


 ――それから半刻の時が経った。


 拳と拳の殴り合い。


 〈人型災害〉の破滅的膂力。


 フィニスの《物理循環ブラスト・サークル》によるエネルギー吸収と放出。


 二つの地形崩壊レベルの攻撃が重なった結果、どちらも致命傷を与えることができていなかった。


 能力の上では拮抗している。しかし、生物である以上両者とも無限に続けていられない。


 先に尽きたのは真っ当ではないが人類であるフィニスの方だった。魔法使用の制限がここに来て重く圧し掛かる。加えて終わりなき戦闘に精神的疲労も蓄積する。


 ならば撤退を選ぶところだが、〈人型災害〉の猛攻を凌ぐので精一杯だった。ヤバい! と思いつつも、抜け出すことができない。


「グガアァァッ!」


「んっ」


 ならば、と正拳突きの威力に乗って後方に吹き飛んだ。


 先の戦闘で少しずつチャージしたエネルギーをここぞとばかりに放出して抵抗さえ無視して加速する。瞬く間に距離ができたかに見えた。


「ッ、マジで!?」


 地面を抉るほどの脚力でもって〈人型災害〉は砲弾となりフィニスに突撃してくる。空気抵抗を無視して加速しているにも関わらず距離が詰められていた。


 凶暴な顔面を殴りつけるものの勢いを殺せず、黒の塊に激突する。〈人型災害〉はフィニスの細い首を握り、地面に叩きつけた。


 木が折れることはなく、砂埃も上がらない。


 だが、首を絞める腕力まで吸収しきることはできなかった。


「ぁ、がッ……ぁ……」


 〈人型災害〉は馬乗りになってフィニスを完全に拘束することに成功した。ただ静かに人殺に手を染めていく。


 恋する乙女も真っ青になるほど真っ赤に染まる顔色。眼球は浮き出し、ぐわんぐわん、と四方に揺れていた。抵抗していなければ苦しむまでもなく首を千切られてだろう。


 ――死ぬ! 死ぬ死ぬ死ぬ!


 少女は首を絞める黒き腕に爪を立てた。だが、強靭な外皮に阻まれ滑る。


「い、あッ……ぇ……」


 何かが森林を高速で駆けてきた――。


「はあああああああああああああああああああああああ!!!」


 突如として飛び込んできた何者かが、鮮血の如き瑞々しい赤色に染まった爪で〈人型災害〉の横っ面を斬り裂いた。


 吹き飛んで行った災害に注視しながら、現れた赤銀の人狼は言った。


「――助けに来ました、フィニスさん」


 いつかに見た時よりも頼り甲斐のある背中だった。


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