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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
少年が世界を知るためだけの弾丸旅団
63/170

5.修行

 

 ◎


 


 言われてみれば――。


「言われてみればフィニスさんの金眼金髪って僕達と全く同じだ……」


 〈白龍紋〉を継承する条件が〈エクス・クレルト〉の民と同じ性質が条件なのだろうとは思っていた。そうでなくては村があそこまで排他的になることはなかった。


 だが、改めて考えてみれば見た目が似ていれば大丈夫という問題ではないはずだ。


 継承に足る理由はあるのだろう。


 彼女はそれを血と言った。僕らと同じ血が流れている、と。


 〈同じ血、ですか……〉


 〈多分だけどね。この村の誕生に関わる資料でもあれば確定できるけど〉


 それなりに真実味のある話だったが、コル爺さんがたまたま彼女に出会ったというのは出来過ぎな気がした。


 ――そういえば、フィニスさんがこの村に来た理由は何だろう?


 直接訊こうとも思ったが、嫌な予感がするので後回しにすることにした。不本意なことに僕の嫌な予感は大体当たるのだ。


「ビビってないと言ったら嘘になるけど……」


 と、僕はフィニスさんへと視線を巡らせる。


 丁度、全身が硬質な鎧に覆われた空色の亀人間が背負い投げされていた。地面に叩きつけられた振動がここまで響いてくる。


 既に強化外骨格はバキバキに粉砕されており、空亀は人間の姿に戻っていった。クラドは汗を流して胸を上下させていた。


 休む間のなく紫色の鷲がフィニスさんの前に降り立つ。


「……よくやるな」


 ティラがフィニスさんに勝負を挑んだことと、敗北したことが村に流れると少女を見物しようと続々と集まって来たのだ。初めはティラがとにかく戦って負けるというだけの時間だったが、いつの間にか腕試しの場所みたいになっていた。


 今や青年団まで挑みに来る。


 そして、フィニスは常勝だった。


 スピリッツを無効化する〈白龍紋〉を使うことなく。


「〈魔法〉か……」


 現在のこの村にはない技術。〈朧美月〉は魔法的権能だということから昔は存在していたはずなのだ。〈神獣〉に対してはスピリッツの方が効果的だったから失われのだろう。


 その力を使うことができれば――とも思うが、〈赤狼紋〉すら持て余す僕には勿体ない技術だ。


 という訳で日がな一日、胡坐をかいて瞑想を続ける日々。


「ねぇえ! クロム、立ち会おうよ!」


「まだ修行中だから」


「ずっと同じこと言ってる」


「修行中だからね」


「そんなんじゃ強くなれないよ」


「強くなるよ」


 子供の頃はずっとこうして強くなってきた。間違った道ではない。あの時のように、焦らずに幾ら時間を掛けても、忍耐強く続けることが大事だ。


「修行が終わったらびっくりさせるよ」


「ふぅん、期待していいんだよね?」


「是非とも期待しといて欲しい」


「弱かったら許さないから」


 ティラはそう言い残すと野次馬の真ん中に飛び込んでいった。


 今度は紫色の鷲が空へ打ち上げられる瞬間が見えた。落ちくると同時に地面に叩きつけられそうだ。勝負は決まった。次はティラの番か。


「ねえねぇ」


 ふと、話し掛けられた。子供が僕のすぐそこまで来ていた。


 確かアルカエラだっけか。


「えと、アルカちゃん? どうしたの?」


「クロムさんはなにしてるの?」


 八歳くらいの幼い女の子が円らな瞳で僕のことを見詰めてくる。


 質問通り、俺のやっていることに疑問を感じているらしい。一見座っているだけだから至極真っ当な質問である。


「修行だよ」


「何の?」


「精神統一だよ。身体に流れるエネルギーを集中させると強くなれるんだよ」


「そうなの?」


「誰も信じてくれないけどね」


 実戦でしか学べないことがあるのも事実だけど、この方法が虚偽ということはない。


 幼女に嘘を教えたとは思われたくないから一応口止めはしておく。


「皆に言わないでね」


「わかった」


「ありがとうね」


「うん。あのお姉さんと仲良いの?」


 唐突に話が変わった。お姉さんとは、フィニスさんのことで良いのだろうか? 狭い村だ、流石に村人の名前は知っていると思う。


「どうだろう……フィニスさんは誰にでもあんな感じだよ。仲良しになりたいなら正面から話し掛ければ良いよ」


「うん、わかりました。クロムさんはあのお姉さんのことどう思ってるの?」


 何を意図した質問だろうか。


 恋の話をするには幼過ぎる気がする……それとも女の子はそんなものなのか?


 全く持って下世話な話ではあるが、幼女の期待を裏切るのも忍びない。


「とにかく強いよね。多分、戦士長よりも……素直に憧れるよ」


 自分の意志を突き通すことができる強さだ。


 彼女の前には様々な障害があったろう、それでもあの性格を見れば心が挫けることはなかった。穢れなき精神が眩しかった。澄んだ心が尊かった。


「好きなの?」


「ん-、伝わらないか」


 子供は容赦なく訊いてくる。


 まぁ、伝わらないよな。


「好きか嫌いかで言えば好きかな」


「そうなんだ」


「……誰にも言わないでよ」


「わかりました」


 怪しい。こんなこと言いながら明日には村中に伝わってるなんてこともある。からかわれるくらいなら良いが、知られたくない人がいる。


 ティラとかティラとかティラとか。本人であるフィニスさんにも知られたら居たたまれない。


「噂とか流れてたらアルカちゃんに悪戯しちゃうよ」


「……変態」


「子供は本当に容赦ないな」


 危なげな足取りでアルカちゃんは訓練場の真ん中の野次馬の中に入っていった。僕に質問したその足で即座にフィニスさんのところに行くとは行動力の塊。流石幼女。


 試合で言えば丁度、黄虎が空に投げ飛ばされているところだった。そのまま地面に叩きつけられそうだな。


「やああああああああああああああああああああ!」


 不意に幼女の叫び声が聞こえてきた。


 幼女が空に投げ飛ばされていたのだ。


 敵だと間違われたんだな。可哀想。


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