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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
王女が明日を生きるためだけの国家戦争
52/170

20.訂正機関

 

 ◎


 


「あ、あぁっ、どうして……!?」


 私はレネルスに駆け寄り、抱こうとするも手が震えて抱き留めることができなかった。


 腹部が裂かれ血が池のようになっている。誰がこんなことをしたんだ。わからないけど、それは私を暗殺しようとする何者かであることは間違いない。


 また、私のせいで――。


 エリもフィニスさんも、レネルスも……。


「もうこんなのっ……」


 泣かないと決めた。だが、目頭は熱くなるばかりだった。


 その時、二種類の足音が響く。月光にて照らされたのは奇抜な二人組だった。

 眼鏡を掛けた若い青年。

 黒赤髪が逆立った筋肉質の男。


「ようやく来ましたね」


「このまま待ちぼうけかと思ったぜ」


 二人の男はここにいるのが当たり前という風に佇んでいた。


 怒りの感情が沸き上がったが、それよりも先にとある疑問が私を支配した。先程の言い分、まるで私がここに来るのがわかっていたみたいじゃないか。


「どうして私がここに来ることを知って……」


 青年は眼鏡を上げながら、


「あなた達が〈不可解な腕〉を回収したことは知っています。有効活用するならば、王女であるあなたに持たせるのが一番得策でしょう。その前提があればここに来ることは予測できます」


「……一体どこから……」


 手袋型の魔法具〈不可解な腕〉を手に入れたのはフィニスさんだ。詳しくは聞いていないが学園に侵入していたスパイが持っていた、と言っていた。


 結界に穴を空けるつもりで……――それは貴族派閥の暗殺とは勝手が違い過ぎる。


「――……第三勢力?」


「ふむ、聞いていないようですね」


「なら名乗らせてもらおうか。こういう時でもないとタイミングがないからな」


 赤髪の男は掌に拳を押し付けながら言うが、もう一人は不満気だった。


「軽々と名乗らないでください。誰に聞かれているかわかりませんよ」


「誰が聞くかよ。〈英雄〉はここには来ねぇんだろ」


 ここに来ない――それはどういうことだ?


 強気な笑みを浮かべ、男は両手を広げた。


「〈訂正機関〉ナンバー2、プロトバリノ。短い間だがよろしく」


「……え、私もですか? こういう名乗りは嫌いなんですが」文句を垂れながらも青年は襟を正してから言った。「〈訂正機関〉ナンバー6、スキアドです。お見知りおきを」


 この男達の名前なんてどうでもいい、二人から知らない単語が出てきた。


「〈訂正機関〉……そんな組織聞いたことも……」


 どうして正体不明の組織が私の命を狙っているのだ。


 現在、国防が弱まっている隣国を手に入れるというメリットが〈フレイザー〉にはあるが、彼らにそれに匹敵する理由あるというか? それともやはり〈フレイザー〉からの回し者か。


「一応、秘密結社だからな」


「どうして私を?」


「それはお前が一番わかってるだろ」


 プロトバリノは言う。


「お前が死ぬことで戦争が起こる。ただそれだけだ」


「それはこの国が得ってことでしょ、〈訂正機関〉のメリットには……」


「シンプルに考えてもいいぜ、目的はそれ自体だ」


「――戦争?」


「そういうことだ」


「は?」


「は? じゃないだろ」


 もしも、言葉通りに受け取って戦争自体が目的だとする。


 〈訂正機関〉が軍事産業に関わっているのなら得はあるが――基本的にこの大陸は〈神獣〉や〈人型災害〉のような危険が付きまとっている。常に武器は必要とされており、これ以上を望む理由には弱い。


 本当に本当に、戦争を起こすだけが目的なのか。


 だとしたら、彼らはテロリストということになる。貴族よりもなおどす黒く、手に負えない。


「喋り過ぎですよ、プロトバリノさん。さっさと終わらせましょう」


「そうだな。お喋りはこれくらいにするか……てな訳で〈インぺリア〉のお姫様。死んでもらうぞ」


 プロトバリノの筋肉のついた両腕に赤い魔法陣が重なった。


 見たことのない魔法陣。わかるのは〈代償魔法〉ということと、格闘系であることだけだ。スキアドは邪魔をしないように彼の後ろに下がった。


「《魔弾紀行》――苦しまずに逝かせてやろう」


 拳を強く握り、腰を下ろして構えた。どこの拳法か知らないが熟練者であることは身のこなしを見ればわかる。一応、私も格闘技を習っていたが護身レベルだ。


 私は〈代償魔法〉にて高純度に高めた《複合結界》を纏い、さらに《加速》を自らに付与した。


「ふぅ」と、深呼吸をエリとフィニスさんの立ち合いをずっと見ていた。この男の動きも見えるはずだ。テラリアとの訓練にも意味があったことを証明する。


 私は王宮に伝わる格闘術の構えを取った。


「ほぅ、なかなか様になってるな。だが、俺をそこら辺の奴と一緒にしているなら一撃で死ぬぜ?」


「油断なんかしていない。私は全力でもってあなたを叩き潰すことしか考えていない」


「ははっ」プロトバリノは笑った。「女にしては良いこというじゃねぇか。気合いが良い、良い気合いだ」


「魔法の時代に差別みたいなこと言うのね」


「生物的本質だろ。生きている以上は逆らえないこともある」


 言い捨て、彼が接近をしてきた。


 速いがしかし、想像よりは遥かに遅い。魔法による速度上昇は働いていないようだ。


 後ろに青年もいる、今はまだ様子を窺う。余裕を持って回避行動に移った。


「――《魔弾紀行》」


 途端、プロトバリノの腕に纏う赤い光が高速回転し、膨大なエネルギーを生み出す。放射状に広がった拳撃が全身を叩いた。《複合結界》がいとも容易く砕ける。


「う、あぁっ……!」


「あ? 硬い結界だな」


 壁に叩きつけられ、咳をする。しばらく息ができなかった。


 咳込む中、彼は目を見張るようにして言う。


「警戒するのは〈英雄〉だけって話だったんだが。案外楽しめるかもしれなんな」


 エネルギーが内部まで浸透しているようで呼吸が調っても息苦しい。肺を直接殴られたみたいだ。


 拳を起点として超圧縮衝撃波の発生、効果範囲はおよそ一、二メートルといったところ。


 シンプルな術式だ。だからこそ、小細工なしに強い。


「《二重複合結界》」


 直撃ではなく余波だけで壊されたことを考えれば二重でも足りないだろうが、気休めにはなる。


「どうやら心の方も弱くはないらしい。だが、どこまで持つかな」


 彼の言う通りだ。私の手に余る敵であることを重々伝わった。


 なればこそ手加減はしていられない。この時のために私はずっと考えてきたのだ。


 〈代償魔法〉を組み込んだ私史上最も凶悪な魔法。


「――《真偽審判ザ・ジャッジメント》」


 灰色の魔法陣は私の背後に大きな時計盤を召喚した。一二進法の大仰な盤には長針と短針がはまっており、一秒毎にガコッ、と長針が三〇度ずれる。


「プロトバリノさん、あれヤバそうです。一〇秒以内に破壊してください」


 勘が良いのか、目が良いのか、傍観していたスキアドが唐突に声を上げた。


「何ィ?」


 プロトバリノは首を傾げ、怪訝な反応を見せると、スキアドはわざとらしくため息を吐いて魔法を放った。


「《鎌斬》」


 弧を描く風の斬撃が横を通り抜け時計盤を真っ二つにした。残骸は砂となって消える。


「壊されたのなら何でも使えば良い――《真偽審判ザ・ジャッジメント》」


 再び、背後に巨大な時計盤が現れる。


「私は時計盤を壊すので、プロトバリノさんはとっとと倒してください」


「本気で叩き潰す気だなッ! いいだろう、ならばこっちも徹底的に」


「《天性開眼ジ・アクティブ》!」


 私はさらに魔法を重ね掛ける。開発したもう一つの〈代償魔法〉を組み込んだ強化魔法。どちらも時間経過をトリガーとなっている。


 している間にも赤髪が飛び込んで来る暴風が巻き付いた腕が正拳突きで放たれた。私は人差し指と親指で銃を作って狙いを定めた。


「《反乱超無カオス・グラヴィティ》!」


「うおっ、重くなった……多彩だな、だがこの程度ッ!」


 重力を何十倍にもしたというのにプロトバリノは依然としてパワフルだった。


「いいから退いて」


 私は思い切り体勢を低める。


 ――《反乱超無カオス・グラヴィティ》は重力操作の魔法。超重力で動きを大振りにさせてから、急に無重力にする。思い通り、プロトバリノの一撃は的外れな方向に逸れた。とはいえ、余波は恐ろしく結界が一つ破壊された。


 赤髪はしばらく行動不能状態、次はスキアドをどうにかする。時計盤が斬り裂かれた。再び、《真偽審判》を発揮し、今度はスキアドに攻撃を仕掛ける。


 私は赤き龍の《猛火龍砲》を撃ち出した。


「《風裂断裂》」


 しかし、薄緑の三日月が砲弾を真っ二つにする。


「上級魔法……かなりの魔法を修めているみたいね」


「あなた程ではありませんが」


 この男も〈代償魔法〉で来ると思ったが、魔法の才能がある者もいるようだ。


「うおっ、止まらねぇー」と赤髪は空中で泳いでいる。無重力に適応するまで後どれくらいか。


 一二カウントを終える前に時計盤は裂かれた。


「あまり時間がないので、一思いに」


 スキアドは両手の合わせ、手元に魔法陣を展開する。岩石をドリルで削るような耳鳴りのような高音が辺りに漏れた。


「《無限鎌斬》」


 時計盤を破壊した斬撃が視界いっぱいに降り注ぐ。《二重複合結界》で耐えるが、断続的な重みに早くも残り一層になった。


 結界に当たる度途轍もない振動が私を揺さぶる。集中が途切れ、術式維持に意識が乱される。


「衰えない……! 無限な訳はないけどっ!」


 数千、数億では済まない量だ。限りなく無限であることは間違いない。


 結界構築よりも斬撃の方が早い。いずれ間に合わなくなって死ぬ。こんなのをどうしろと!?


 考えろ。恐るべき速度、恐るべき強さの魔法だが一分もあれば対策の一つくらい――。


「悪いな、仕事なもんで。卑怯でも後ろから撃たせてもらうぜ」


 プロトバリノは無重力の術式を破壊し、私の後ろを立っていた。


 後ろまで気を回す余裕はない、スキアドは単体殲滅能力で言えばエリに匹敵するレベルかもしれない。つまり、正面からでは勝てないこと確定。


「ぐっ、《真偽審判ザ・ジャッジメント》!」


「無駄ですよ」


 瞬く間に時計盤は細切れにされた。


「よく耐えていますが、乗り切ろうなんて思わないことです。《無限鎌斬》は文字通り無限に続きますよ」


「《魔弾紀行》」


 背後から台風の如き力の塊が集約するのを感じた。


 《魔弾紀行》は直撃したら即死。死の恐怖が首筋を撫でる。


 ――彼女達はいつもここに立っていたのね……。


 呑気なことにそんなことを思った。少しでも彼女らの気持ちを知れたのなら嬉しい。


「一矢報いてやる……!」


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